4月10日 記入: 四月一日

 店主さんへ。

 先日は突然野菜を押し付けたりしてすみませんでした。

 料理に活用していただければ幸いです。

 宜しくお願いします。


          *


 山積みの段ボール箱を前にして、糸は呆然と口を開いている。

 量を考えれば無理も無いが、それにしては珍しい。

「ごめんなさい。急にこんなの持って押し掛けちゃって……」

 私は四月一日の言葉を紡ぐ。

「仲間内から毎日凄い量貰っちゃってさあ……。私達だけじゃ全く消費出来ないから、せめて使って貰おうかなーって」

「鉄穴さん、四月一日さん」

 すると、糸は覚醒したかの様に口を開いた。

「この野菜まだご自宅に余っていますか?」

「? まあ、そりゃ勿論。毎週二箱は貰うから」

「是非。是非とも、余りの分だけでも良いので私に譲っていただけませんか?」

 願ったり叶ったりの申し出に、私達は歓喜した。

 何せ長い事困り果てていた問題を、これ程簡単に事が進んだのだから。

「勿論です! 望むのなら、あるだけ全部持って来ますよ?」

 四月一日が喰らい付く。

 それにしても何故糸も喰いつくのか。

 疑問符を浮かべていると、四月一日が察して教えてくれる。

「判らないの? 普段私達が無償で貰っているけど、あれは高級品なのよ」

「って言うとどれくらい?」

「五kgで硝子細工一個」

「高」


 その後何だかんだ商談がまとまり、週一で箱一つを提供する事が決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る