4月5日 記入: 春秋

 どうでもいいことだが、店主に少し頼みたい事がある。

 恥を忍んで言うが、身内が食べたいと言って聞かないので、お子様ランチを作って貰いたい。


          *


「懐かしいですね。それにしてもお子様ランチとは……」

「恥ずかしいからあまり口に出して言わんでくれんか……」

「すみません。それで、身内と言うのは何方どなたでしょうか? 何となく予想はつきますが」

 儂は一つ息を吐いてから口を開いた。

「……鉄穴かんなと、四月一日わたぬきの奴がの」

 鉄穴は兎も角、四月一日の名が出る事が心外だったらしく、糸さんは、四月一日さんが、と反芻する。

「判りました。では、来週のお昼時にでもご来店ください」

「本当にすまないの」

 いえいえ、と首を横に振ってくれるのも有り難かった。

「……昔、彼奴等をオリンピックに連れて行った事があるんじゃがなあ。その時、どうせ遠方まで足を伸ばしたからと、上等な店に入り、料理を食わせたんじゃ」

「それが、お子様ランチだったんですね」

 黙って首肯する。

「こんな戯言を言うが、それこそニンゲンくさいと嗤われるかのう」

「…………いいえ」

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