3月1日 記入: 小鳥遊

 今日も美味しかったです。

 ところで、お弁当のお惣菜は毎回違いますけど、どうしているんですか?


          *


「割に簡単なことですよ。ある一定の法則性を作ると、毎日の献立を考えるのも楽になります」

 ぼくは手帳と鉛筆を手にして、糸さんの話を聞き入った。

 糸さんは指を折りながら教えてくれる。

「お弁当の提供を始めてからよく考える様になりまして……。まず曜日毎に使う食材を決めます」

「はい」

「それで一週間回ったら、一日分ずらします。それから一ヶ月回れば、食材をまた考え直します」

 何気なく言っているけど、これだけであれだけの品が作れるのは、きっとぼくは出来ない。

 そこは生まれついての才能だろう。

 ぼくには出来ない料理も多い。

「……すごいですね。糸さんは」

「特別凄い事だとは思っておりませんよ。私もここまでにするのに時間がかかりましたから」

 その掛かった時間はどれくらいなのか。

 の人達の時間だから、きっとぼくが思うより長い。

 手帳に控え終わると、糸さんが囁く様な小さく低い声で言った。

「良ければ、次の定休日にでも店に来てください。……作れない料理があれば、私が教えられると思うので。余計なお世話であれば、申し訳ありません」


 翌日が定休日だったので、朝からお店に行ったのはごめんなさい。

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