2月2日 記入: 馬鹿

 今日も旨かったぞ。

 俺のお薦めは裏品書うらメニューの饅頭茶漬だな。


          *


「はいお待たせしました。馬鹿ばか

「馬鹿言ってんじゃねえぞ! 俺は馬鹿ましか馬鹿ましか

 苦笑して去って行く野郎を睨みながら、匙を手に取った。

 饅頭を崩して緑茶に漬かった米と共に掻き込む。

 今日は粒餡だろうか、小豆大の粒が歯に当たった。

 控えめな甘さの粒餡が緑茶によって、更に苦い深みが付加され、それを少し乾いてしまった米が吸収し、椀の中で絶妙な味を作り出している。

 半ば夢中で掻き込んでいた俺を、小鳥遊が凝視しているのに気付くのには時間が掛かった。

「……どうした? 狐につままれたみたいな顔してるぞ」

「鴎外のですよね……。美味しいんですか?」

 どうやら起源は識っているらしい。

 それにしても、現代の子供にして鴎外を読むとは。

「旨いぞ、汁粉みてえな味だ。餅は入って無いがな」

 卓上の匙入れからもう一つ、匙を手に取る。

 それで一口分掬い、小鳥遊の口に突っ込んだ。

「んうっ?」

 驚いた声を上げ、その後は黙って口許を押さえて咀嚼している小鳥遊を、まるで親の様な気分で見守る。

 吟味する様な咀嚼の後に、喉の奥に飲み込んだらしい。

「お汁粉みたいです……」

「だろ? だろ?」

 饅頭茶漬は理解者が少ない。

 小鳥遊が理解者になってくれて何よりだ。

 この店で冷たい好奇の目を浴びながら、食べることはもう怖くない。

「馬鹿さん……」

「あ? 何だよ」

「甘党過激派だとは薄々感じていましたが……小鳥遊さんの様な子供まで巻き込むのですか」

「言い方!」

「本当に……。あの頃はただの甘党で済んだのに。時の流れは残酷ねえ」

「手鞠まで! 援護射撃に見せ掛けた後方射撃止め!」

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