1月26日 記入: 小鳥遊

 ごちそうさまでした。

 ところで、今日のお店はかなり賑かでしたけど、何かあったんですか?

 姿は見えなかったですけど……。


          *


 席は全席埋まってしまった昼下り。

 文字通り、猫の手も借りたい気持ちで、ひたすらに手を動かす。

「糸さぁーん、お代わりの注文です!」

 厨房の口から私を呼ぶ声に振り向くと、小鳥遊さんが声を上げていた。

 猫の手を差し伸べる様な形で、今日は小鳥遊さんが手伝いに来ているのだ。

 少ないが店の席を全て埋めてしまう客はと言うと、所謂いわゆる鬼である。

 昨日も鬼の一団が来店し、朝まで呑みっ放しだった。

 それが今日も来店だ。

 同じ顔触れが何人もいるあたり、昨日の客が知人友人を誘ったのだろう。

 贔屓にしてくれるのは良いが、連日こうして来るのは、本当に控えていただきたい。

 鬼は本来、姿の隠されている存在である。

 卓にはその影が映っているのみだ。

「すみません小鳥遊さん……。私の力不足ばかりに」

「いいえ。普段からお世話になっているのはぼくの方ですから、どんな恩返しでも足りません。それより、糸さんは手を動かしてください!」

 軽く一喝され、苦笑しながら焜炉に火を入れた。

 その時、店の硝子戸が開かれる。

「糸ぉ~! 追加で私の友達連れて来たよ!」

 姿の見えない客から歓声が轟く。

 鉄穴さんの後ろには、同族の野干の一団が姿を覗かせていた。

 それも美人揃いだ。

 親父臭い声援を受けながら、鉄穴さんは給仕を手伝う気満々だ。

 頭を抱えながらも、私は手を動かす他無いのが、何とも情けなかった。

「鉄穴さん! 給仕服なら持参の物を着てください。裏を貸しますから!」

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