1月3日 記入: 春秋
糸猫庵の常連連中が、私にお年玉をたかって来るのだが。
*
「ねえー! いいでしょお年玉の一万や二万円くらい」
「たわけ。
「くそう……」
既に数十年の歳を重ねて来ていると言うのに、此奴は老年から搾り取ろうと言うのか。
そう返してやろうと、口を開きかけた時、店の硝子戸が開かれた。
「明けましておめでとうございます。
「おお、小鳥遊か。どれ、ちっとばかこっちに来い」
鉄穴を振り払って手招きすると、小鳥遊は素直に歩み寄る。
「お年玉、と言っても少ないが。人間は新年にこうすると聞いてな」
言って、
「あぁ! いいなあ小鳥遊くんは」
隣で愚痴を垂れている鉄穴を無視し、小鳥遊の幼い手に握らせる。
しかし小鳥遊の手から点袋は滑り落ち、当の本人は首を傾げるばかりで何もしない。
「どうした」
「? これの意味が……よく、判らなくて。すみません」
おかしい。
知人から聞いた話によれば、これで喜ばぬ子は居ない、と。
「お年玉を貰ってないの?」
先刻まで駄々をこねていた鉄穴が、何事も無かったかの様に問う。
「お年賜って言ったら……神様に献上した後の鏡餅をいただくもの、じゃないんですか?」
なんと、本当の年賜を毎年貰っていた。
「へえ~……。一言にお年玉と言っても、色々あるんだね」
「小鳥遊君は既に年賜を貰っているらしいな。なら、これは誰に──」
「はいはいはいはいはい! 私に! ギブミー!」
「糸さんにだ。済まん、これで何か頼めるか」
ずるずると袖を掴む鉄穴を、無理矢理に引き剥がして糸さんに点袋を手渡す。
今度は手から滑り落ちなかった。
糸さんは点袋を開いて中身を掌に転がす。
「瑪瑙の装飾品ですか」
「はっ?」
「さる貴婦人が愛用していたと言う、掘り出し物じゃよ」
査定の顔つきになって瑪瑙の髪止めを見やると、承りました、と言い残して厨に消えた。
「現金じゃないの?」
「何を期待しとった。阿呆」
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