12月22日 記入: 鉄穴
最近糸は、パスタ作りにはまっているらしい。
だけど、やっぱり糸の作る和食が食べたいなって思う。
今日注文したのは、平打ち麺と鱈子バターのクリームパスタだ。
隣に座る小鳥遊君は具沢山ミートソースパスタのチーズ掛けで、今日は余裕があるのか、珍しく座ってゆっくり食べている。
うんうん、早食いは良くない。遅食も大事。
ふと、厨房で麺を打っている糸に目をやると、全く口許が緩んでいない。
曰く、理想の固さ、柔らかさにならないのだとか。
私にしてみれば、食事は腹に入って美味しければ良し、としているので、作る物が偏ってもいいのだが。
こうも続いてくると、少し和食が恋しくなってくる。
糸のパスタが始まったのは確か一月程前だった。
或る料理雑誌で記事を見掛けて以来、糸猫庵のパスタメニューが増え続けている。
最初は苦もなく作って居られたが、最近ではあまり熱意が注げなくなったそう。
この店の年齢層はまあまあ、高い。
小鳥遊君の様なお子様年齢層は、そりゃミートソースパスタやナポリタンとかでも、満足するかもしれない。
しかし私の師匠はとっくに百年を越えていて、私も見た目には二十代前半だが、既に五十年程の月日を重ねてきているのだ。頑張ればあと百年の望みはある。
最近知った獄卒の船頭の歳は測れない。
人間からしたら、糸猫庵は異常な年齢層を相手にしているだろう。
遥かに長命な私達の、絶えず代わり行く趣味嗜好に対応するのは難しいだろう。
その為の挑戦は良いことだと思うが、本来、糸は和食が得意なのだ。
得物を磨いて唯一無二になれば良いのに。
新しいことに挑戦するのも、永くはもたないとは思うけどね。
私は食べ終わった皿を少し奥にやって下げると、右手を軽く掲げた。
「糸、何か軽めの和食ちょうだい」
それを聞いた糸の口許に目をやると、少しだけ綻んでいた。
「承りました。……お稲荷さんはどうです?」
品を提案する糸の声は、嬉しそうだった。
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