第五話 「女と泣き出しそうな空と豪徳寺」③
「鶴は千年、亀は万年。長寿の
翡翠色の屋根と白い
屋台は横に倒した数個のトランクの上に薄い杉板をのせた粗末なものだった。杉板の上には小さなものから大きなものまで、背丈順に招き猫が並べられていた。前に立って、三人で招き猫を見ていると、「ちょっと聞いてってちょうだい。今日はニャンニャンニャン、二月二十二日で猫の日なのに、ここはこの通り、
ここは代々の井伊家の墓が並んでいる。豪徳寺は井伊家と深い関わりがあり、援助を受け続けている寺だ。
再び男を見る。男は薄青いステテコの上に、
男は口上を続けた。
「日本全国、縁起物は数あれど、ここに取りいだします、この招き猫に勝るものはなし。さあさお嬢さん、ちょっと手に取って見てちょうだい。そこらで売ってる招き猫とどこかが違う。なんとなく本物の猫に似ているでしょ。それもそのはず」
口上を披露しながら、片手に乗るくらいの招き猫を男はシホの手に載せた。
シホとノリスケは楽しそうに話を聞いていた。
「その昔、
持っていた白いハリセンで、粗末な屋台の中央を叩く、陶器の招き猫がグラグラと揺れて、ヒヤヒヤする。
「さてある日、
要するに、レンがお侍さんたちを寺に差し招いていたということだった。
和尚、破れ寺でもてなすようなものもございませんが、となけなしのお茶を献じた。
破れ寺の外で、雨がざぁ~。
雷がビカビカビカ~。
瞬く間に嵐のような天気、とても帰れやしない。雨宿りの
『我は井伊家当主直孝である。これも仏縁。これよりは深き付き合いをいたしましょうぞ』
これより寺の運が開ける。ご存じ、井伊家は徳川家康公の
さあ、そこのお兄さんも手に取ってみて、違う。寝かせては分からない。手に載せなさい。重心が前にかかっているのがわかるでしょう。これが本物の証拠。豪徳寺の招き猫はすべて右手を挙げてる。これはここが井伊家の墓所なのと関係している。武士にとって左手は
とにかく、縁起がいいこの招き猫、さあ、買った、買ったぁ!」
ハリセンで自分の
楽しそうに聞いていたノリスケとシホは群がるように猫を手に取って、自分たちが買う物を決めていた。「お兄さんのが一千円、お姉さんのが三千円ね」と値段を言った途端、二人は僕を見た。納得はいかなかったが、自分の分の八百円の物を足して、支払おうとリュックのなかから財布を出そうとした。
キャッキャと楽しそうにしていると、本堂の隣の作務所のなかから、おばちゃんがものすごい勢いで飛び出してきた。
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