第五話 「女と泣き出しそうな空と豪徳寺」②
今日、豪徳寺の駅で待ち合わせて、顔を見た途端、イヤな予感は明確な不安に
ノリスケは一瞬、シホをまんざらでもないという目で見た。それを僕は見逃さなかった。
シホは相変わらずの人なので、誰にでも
ノリスケは東京の下町の出身だ。
都会には大悪党はいないが、小悪党は無数にいた。小悪党は悪びれもなく、人のモノを盗む。欲望に忠実であり、「盗られる
田舎で悪いことをすれば、周囲の人間はみな悪事を知る。田舎には周囲の人間しかいないので、逃げ場がない。が、都会には身を隠すところが無数にある。
それに同種の小悪党がたくさん存在する。それに紛れてしまえば後悔も罪悪感もない。
現に横から見ていると、本堂から如何に賽銭を盗もうか画策していた。掃除をする寺男はこちらなど構っていない。
止めるために、ノリスケの二の腕を強めに
二人をよそにシホはまだお願いをしていた。
「志村とか加トちゃんが出てきたらどうする」とノリスケは楽しそうに言った。
「それは『神様』、ここは『仏様』」と教えると、「あ、そっか」とわざとらしく頭をかいた。
シホはシホなりに一生懸命になる理由があった。カレシのケンジの家には一匹の猫が居た。マルスという名前の黄色いトラの雄猫だった。
僕たちはよくケンジの家に集う。人数が少なかったり、皆がテレビを見たりするときは、いつもの洋間に居た。床には赤い
このマルスがどうしてもシホにだけにはなつかない。ケンジとシホが二人きりでケンジの部屋にいるとイヤがってどこかへ行ってしまう。誰かに触れられるということによく慣れているのだが、シホが触ると、イヤがるどころではない。目を
別にマルスだけに嫌われているのなら、たかが猫一匹と相性が悪いだけだと、気にしなければ良い。だが、ペットは飼い主に似る。シホはケンジの家族にもあまり歓迎されていないようだった。社会一般に表面的には平等主義が覆っているように見える。そのせいで大げさに言えば、「家格」のようなものが見えづらい。それがただの恋愛から一歩でも生活に踏み込むと表出する。平等にチャンスがあるのは学生のうちの試験だけだ。田舎でケンジの家は代々続いてきた家だ。その差がシホを拒絶しているように僕には感じた。シホは片親で比較的自由に育った。イエを維持するための考え方が染みついているところがケンジにはある。少なくとも僕にはそう見えた。自分たちにはそぐわないと家族は感じているのかもしれない。田舎の旧家の閉鎖性は
ケンジは自分たちの世界に入ってこれるようにシホを変えようとしていた。シホはケンジが好きだから、それに従おうとした。残酷だが僕には無駄であるように見えた。シホは
「どうしたらマルスとお友だちになれるんだろ」
ある日の何気ないつぶやきに、「そういえば招き猫の
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