パパは国家公務員

 はてなマークがみんなの頭に浮かび上がっていたが、百叡は気を取り直して、再び廊下を歩き出した。半ズボンの足がリズムを取りながら進んでゆく。


 しばらく行くと、休憩所で写真を見ている友達の何人かに出会でくわした。


「百叡くん?」

「うん?」


 友だちが子供用携帯を差し出した。大人の人が写っている。


「僕のパパがお仕事で着てる制服の写真見る?」


 宝物でももらったように百叡は喜び、椅子の空いているところへ座った。


「うん、見る!」

「かっこいいんだよ」


 深緑のマントに白い上下、山吹色のリボンが胸元でエレガントを添える。腰には所持義務のレイピア――細身の剣の銀色が見えていた。


「陛下のもとで働く、国家公務員なんだ」

「かっこいい〜!」


 写真に写っている友達のパパが、百叡には別の人に見えてきた。


「あれ? この服パパも着てるよ」

「え……?」

「治安維持部隊の聖輝せいき隊だよ?」


 ここでも学校教育は行き届いていて、政府機関の名前も、漢字もよく覚えていた。


「うん、その名前言ってた」

「え?」


 みんなが驚いている間に、百叡は写真をもう一度見て、今度は違う配色を思い出した。


 高貴の意味を表す紫のマントで、ターコイズブルーのリボンが胸元で全体を引き締める。やはり、腰元には所持義務のレイピアを挿す制服を着る、国家公務員。


躾隊しつけたい? のパパもいるよ」

「それって、環境整備部隊だよな?」

「そう。その制服着て、お仕事に行ってる」


 陛下のもとで働いているパパを、百叡は誇りに思った。しかし、友達は不思議そうな顔をする。


「あれ? 百叡くんのパパはふたり?」

 

 そんなことをしているうちに、今まで廊下で会った子供たちがそばに集まってきていた。


「ちょっと待って。百叡くん、ピアノの先生の名前って、ひかりさんだよね?」

「うん」

 

 紺の肩より長い髪で、冷静な水色の瞳をして、お洒落で綺麗で、ピアノを弾く時はかっこいいパパ。個人的なファンクラブもあるくらい、素敵なパパ。


「ディーバさんは、明智 蓮さんだろう?」

「うん」


 魔法が使えて、コンサートの時は花びらを天井から降り注がせる。銀のサラサラの髪と鋭利なスミレ色の瞳を持つ、有名人のパパ。


「武道家のパパの名前は?」

「夕霧パパ」


 はかま姿で、日本刀という本物の武器をカッコよく使いこなす、深緑の短髪で、はしばみ色の無感情な瞳を持つパパ。


「小学校に前いた算数の先生は?」

焉貴これたかパパ」


 山吹色のボブ髪で、宝石みたいに異様にキラキラと輝く黄緑色の瞳。子供の心をよくわかっている、女子高生にも小学生にも人気のパパ。


「歴史の先生は、るなす先生だよな?」

「うん。月パパだね」


 学校で人気のパパ。マゼンダ色をした髪は長くて、いつもリボンで縛っていて、ニコニコの笑みに隠れていて滅多に見れない瞳が何色か、百叡は知っている。それはヴァイオレット。


「塾の先生は?」

孔明こうめいパパ」


 漆黒の長い髪はいつも綺麗に、細い縄みたいな髪飾りで頭の高いところで束ねられている。服装は着物みたいな白い洋服。瞳は聡明で瑠璃紺色のパパ。


「孔雀印の肉屋の社長は……」

明引呼あきひこパパ」


 藤色をした剛毛の短髪で、アッシュグレーの鋭い眼光。日に焼けた肌に、体格のいい筋肉質なパパ。


「で、国家公務員のふたりは?」

貴増参たかふみパパと独健どっけんパパ」


 緑のマントを着て、カーキ色の柔らかな癖毛で、ピンクの優しが満ち溢れた瞳を持つパパ。


 紫のマントを着て、ひまわり色の短髪で、若草色のはつらつとした瞳を持つパパ。

 

 収集がつかないほど、パパだらけになってしまった百叡を囲んで、他の子供たちは首を傾げる。


「百叡くんのパパはどうなってるの?」

「え〜っと、どうやって言えばいいのかな?」


 小学校一年生の百叡には説明が難しくなってしまった。しかし、助け舟を出してくれる先生が後ろからやって来ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る