パパは大会社の社長

 ボールがコロコロと転がってきて、百叡はそれを慌てて拾った。バタバタと走り寄ってきた他の子たちが、


「あ、百叡くん、ありがとう」

「はい」


 ボールを渡して去っていこうとすると、元気な男の子が話しかけてきた。


「なあ? 百叡?」

「何?」

「この間のバーベキューどうだった?」


 家で何か楽しいイベントがあれば、学校でも話してしまうものだ。百叡はウキウキな気持ちで答えたが、言葉の途中からみんなは不思議がった。


「うん、楽しかったよ。パパが作ったお肉で、ハンバーグ作ってくれたから」

「パパが作ったお肉?」


 パパが酪農家だと言う百叡に、みんなはボールで遊んでいたことも忘れた。しかし、百叡は気にした様子もなく、パパの話を続ける。


「うん。孔雀印くじゃくじるしのお肉」

「それって、デパートにしか売ってないお肉だよね?」

「うん、そう」


 有名なブランド肉業者。百叡と前から親しい子は、疑問をもって問いかけた。


「あれ? 百叡くんのパパって、ディーバさんだよね?」


 R&Bで人気絶頂中の人が百叡のパパ。しかし、どうも違うようだった。

 別の子が酪農家のパパの子供が誰かを言う。


「孔雀印の社長って、はくくんのパパだよね?」

「白くんと百叡くん、仲よかったっけ?」


 このふたりが校内で一緒に歩いているところなど、みんなは見ていない。百叡の銀の髪が横へ揺れる。


「ううん。兄弟になってから、仲良くなったの」


 この学校では登下校は、大きな龍の背中に乗って帰るのが校則。兄弟はもちろんのこと、近隣の家の子も一緒に同じ龍に乗る。


 そうして、集まっていた子たちから、百叡は次々に質問攻めにされた。


「あれ? でも待って、この間、夕霧くんと帰ってたよね? 家の方向違うよね?」

「ううん、同じ」


 武道家の子だと有名だが、百叡と一緒に帰っていたのが目撃されていた。そうして、他の女の子が別の家族の子供の名前を口にする。


「え? 私、綿理わたりくんと帰ってるの見たよ」

「綿理くん、家は月だよね? 先生の子供だから」


 さっき廊下で生徒に囲まれていた、女性的でありながら男性の声を持つ、歴史教諭のことだった。住んでいる星が違うのに、百叡はまた首を横にふる。


「ううん、この近くだよ」


 そうして、ちょっと活発な男の子から、また別の家の子の名前が出てくる。


「俺、貴城きじょうと帰ってるの見たぜ」

「あれ? 貴城くんって、前に学校にいた算数の先生の子供だよね?」


 女子高生にキャーキャー言われている、数学教師のことである。同じ龍に乗って帰っている姿を、みんなに見られていたのだ。


 それでも、百叡は屈託のない笑みで、大きくうなずいたが、


「うん。兄弟だよ」


 他の子たちはとうとうついていけなくなり、驚き声が校内中に響き渡った。


「えぇっっっ!?!? どういうこと?」


 百叡を知っている子ならわかっている。彼は正直で素直で、とても明る子だと。つまり嘘はついていないと。

 

 しかし、前からずっと百叡と仲のいい女の子が、声を少し震わせて、


「ディーバさんじゃないの? 百叡くんのパパって」

「そうだよ。本名はれんっていうけど……」


 R&Bをやっているパパで、前は名前はあまり気にしていなかったが、最近は覚えないといけなくなったのだ、百叡は。


 しかし、他の子たちの頭の中ではパパがいっぱいになってしまって、首を傾げた。


「ん?」

「ん?」


 聞かれたからそれに答えただけだったが、みんなの態度がよくわからなくなって、百叡も首を傾げた。

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