第11話 FHセルリーダー『ドール・パペット』

『僕は人形?いや、俺は違う。でも欲しいことに変わりない。僕の事が決められない』


二重人格とか思った?残念。そうじゃないよ。

僕は僕。怒ったり、暴走したりって気分が上がったり、見下されないように『俺』っていう。だが、まるで嘘ついているような、逃げているような感じがしたのは気のせいだと思いたい。うん。気のせいだ。だって僕は自分の意志を持っているから。自分の意思を信じれなかったら意思と呼べるものではないと思うから。


僕には本当の父親と母親がいなかった。そして僕を拾ってくれた『大人』は親としては程遠いものだった。食べることも、教育すらなかった。その『大人』達が食べ残したものを食べ、捨てたものをかき集めて隠れるようにして生き延びた。それが僕にとっての当たり前だった。その時に出来た生きるすべだった。

実はそこにいた子供は僕1人じゃないんだ。他にもいた。だが協力することも一緒に遊ぶこともなかった。そんな気力なんてどこにもなかったから。僕が持っているほんの少しの食べものを取られてしまうから。僕『達』は中立な敵だった。


ある日の寒い夜。男の『大人』が汚れた布にくるまって寝ていた僕を蹴り起こした。びっくりして飛び起きて、何をされるか分からないから身構えていた。男は言った。このガキの持っている物をすべてやる。その代わりにガキを片付けろ。そう言って僕の目の前に黒い大きな袋を乱暴に置いた。僕と同じぐらいに大きな袋だったから運ぶのは大変だった。うん、僕は言うことを聞いたんだ。僕はこれを『片付ける』ことにしたんだ。それで生きられるなら、生きるためのものが増えるなら。

外に出て、袋の中を見た。中には寝ている子供がいた。僕は驚きもしないでその中に手を突っ込んで全てもらった。持ちもの全て。驚かなかったのはこんな子供を見たのはこれが初めてじゃないから。『よくあること』だからだ。何も手に入らない子供は飢えて眠る。凍えて眠る。怒られて眠る。そんな眠った体の周りには他の子供が漁る場所になる。この子供は珍しいものを持っていた。銀色のライター。火はギリギリついた。こういうものは本当に役立つ。特にこんな寒い日は。

僕はどうやってこの寝ている子供を『片付けよう』と思った。もういらないものは捨てる。けど、せっかく僕に『片付けられる』ならいつかまた『使えるようになる』から。僕が使ってあげる。僕は外の裏にある大きな箱の中に袋ごとその子を入れた。使うときになったら出してあげるからそれまでここで寝ててね。


僕はその後家の中に戻った。もらったものを眺め、ちょっと嬉しくなった。僕のものが増えたことが嬉しかった。それにあの箱は他の子供は知らないと思う。だから、僕だけしか知らない僕のものだった。僕はその時思った。大事なものは大事にしまっておくこと。そうすれば僕のものは減らない。ずっと僕のもの。あの子は僕と同じくらいの子だったから・・・あぁ、そっか。あの子は僕の友達モノになったんだ。初めての友達。ずっと僕のモノね。


それからずっと僕は眠った子供を『片付けた』。見つけたらすぐにあの箱にしまってあげる。それをずっと繰り返していたら、みんなが僕の友達になった。全部僕のモノになった。僕はそれが幸せに感じた。目の前に誰も見えなくても、誰の声が聞こえなくても。みんな僕のモノになっているから寂しくもなんともない。でもそんなのずっと続いてくれなかった。


顔の怖い男の『大人』が来た。それもいっぱい。僕は怖くなって逃げた。僕に『片付けろ』といった男も、女もいなかった。あれ?いつからいなかったっけ?でも今はそんなのどうでもいいや。今はあの『大人』達が怖い。僕は家の一番奥まで逃げた。一番奥は僕を拾った『大人』達の寝るところだった。

部屋の隅でうずくまっていた。何が何なのか分からなくて、一体何なのか分からなくて、とにかく怖かった。僕の体は小刻みに震えてた。震える手を見て気付いた。布を被った人がいると。わずかに見える手から分かった。この手は男の『大人』だ。あんまりにも動かないから手に触ってみた。とっても冷たかった。この感じは知っている。あぁ、寝ちゃったんだ。じゃぁ、『片付けなきゃ』。

僕はそこで気付いた。目の前にあるもの全て、僕のモノになったんじゃないか?だってこの家の中で一番怖がられていた、男の『大人』がこうやって寝ているんだ。起きないならもらえるんだ、奪えるんだ。だから、だから。

そう思ったときに男たちが入ってきた。とっても慌てた顔をして。そして叫んだ。もう大丈夫だよ。怖くない。君を助けに来たんだ。でもそんなの欲しくないや。欲しいとも思ってないよ。・・・てか、土足で入らないでよ。ここは僕のモノだよ。


僕は手を伸ばした。そこからは電気が流れた。みんなびっくりして逃げ出した。僕は構わず家のコンセントに手を添えた。向こうでバチバチと鳴っているのがはっきり聞こえた。不思議と僕は笑ってた。何でこんなことすぐに思いついたんだろう。何で手から電気が出せたんだろう。でもいいや。僕は僕のモノを奪われないようにできたから。

その後、理想の父親が出来た。怒鳴りもしなくて友達と仲良くしてくれる。僕を護ってくれる警官の皆さんも出来た。僕は一度にたくさんのモノを手に入れた。


そこからいつしかFHにいた。力の使い方を学んで、同時に僕のモノを増やして、任務をこなし好成績を残した。けども、ふと気づいた。あれ?僕がセルリーダーのモノになっていないか?僕はこのリーダーの言うことを聞いて、任務をこなした。そりゃ、歳は近いだろうけど・・・なんだか、気に食わない。何で、僕が君の人形に、彼のモノにならなくちゃならない?


そんな疑問を持ちながら、僕は欲のままにそれを塗り替えるかのように僕のモノを増やした。与えられた銃を持ち、前線に立ってその力を振るった。いつしかそれはマスターエージェントという証になった。僕はただ欲のままにやってただけなんだけどなぁ?

マスターの称号を得たことを期にリーダーと話を付けた。僕は君のモノじゃない。君の言う通りには動かない。そう告げたら、なら一人で生きてみるか?出来ないだろう。お前は一人では生きれないのだから。お前は奪うばかりで何も満たせやしないのだから。僕は銃をリーダーに向けた。


僕は怒った。一人で生きれない?ふざけるな。僕にはたくさんの僕のモノがある。それがあるから僕は満足してられるんだ。・・・だが、こうも奪い続けている。満足?いや、満足してなかった。もっと欲しかった。僕のモノが欲しかった。けど、欲しいのは人形でも死体でもなくて。でも、手に入れる方法が『これ』しか、分からないよ。喋る友達は?理想の父親と母親は?このセルは?今まで集めて来た僕のモノは?身を削ってまでして貪欲に奪い続けたのは?

今なら分かる。だが認めたくない。これまで僕がしてきたことが間違いだと、無駄だったと理解したくないから。確かに幸福感はしたのだから。このセルは駄目だ。周りの人たちを殺したくなる。それは奪いたいからじゃない。羨ましいから。自分のことを理解して認めている。認められている。過去がどうあっても今を満足していて、あんなにも血にまみれているのに幸せそうだから。認めたくない。だが、リーダーの言ってることは確かだった。 僕は手に入れることを幸せに感じたんじゃなくて、奪うという行動を幸せに感じたんだ。いつしか認められ、求められることを望みながら。


僕の事なのに僕の本心とやっていることが分からなくなった。僕は負けた。そして罰と称して契約をすることになってしまった。クソみたいな鎖だな。

契約で得たのはオルクスの能力。代償にブラックドックの能力を失った。この代償によって当時の僕のマスターエージェントに上り詰めた力が無くなってしまった。ブラックドックだったからこそ強さを持っていたこの体はオルクスには合わなかったが、これであることが出来た。それは僕のモノを動かすことができた。まるで生きているようだ。一瞬僕はリーダーを疑った。リーダーは居心地はどうだ?と笑った。僕は最悪だと笑い飛ばした。この意味はきっと僕と君が同じノイマンだから分かったんだろう。

居心地はどうだ?と言ったのは、まだここに残るか?ということだ。僕は最悪だと笑い飛ばした。それはこのセルから抜けることを言った。多分リーダーは知っていた。だからこそ僕を引き止めようとしなかった。僕はリーダーに一人で生きれると証明するため、僕が本当に欲しかったものを探すため、セルとマスターエージェントの証を捨てた。この時、初めて捨てたかもしれないな。


僕は一人だけのセルを作った。やり方は変わらない。ただ探して奪う。これしか僕には僕のモノにする方法が思いつかなかった。いや、正しくは納得できなかった。こうすることで確かに幸福感はした。満足感がした。だが、それは一瞬の事のようでまた次々と求めてしまう。そして奪った僕のモノ達は僕に手によってまた動き出す。それだけはあのリーダーに夢見させてもらったかもしれない。何せ、僕が望む人が目の前にいるのだから。僕がしてほしかったことをしてくれる。始めはそれでよかった。だがなんだか違うと思い始めてしまって、挙句の果てに自分で僕のモノを壊してしまったよ。そうなったときにはバラバラになってしまった体をかき集めて縫って、綺麗にして、元に戻したけど。

僕のモノは冷たいものばかりだったかな。そう考えたら、温かさなんて一度も知らないよ。


僕はそんな不安な、僕の事すら決められない子供のようなものだ。笑ってもらっていいよ。身をもって知っている。その代わりに笑った君を奪うから。僕はさらにもっと過剰に欲しくなって、やり方は乱雑になった。結果同じである他FHセルから嫌われちゃった。まぁ仕方ない。興味がある人全て人形にしてきたから。同じFHの人間ですらも心なしの人形に変えてしまった。変えたのはいい。だが、満足することは無い。もっと加虐に奪おうか。そうすることしか僕が納得できる方法はないのだから。


表に出れば指名手配の元マスターエージェントとして名をあげるだろね。かつての力は無くても僕には人形がある。それだけでも十分な力は備わっているはずだから。そんなことから名付けられたのは『ドール・パペット』。

かつての名前を『ドール・ドック』。


追記:『ドール・パペット』はあるシナリオにて死亡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る