第5話 FHマーセナリー『ソル―クリップス』
『こんな私のどこか人間だろうか。しかし、空腹だ。ものすごくね。』
私はよくこんなことを言った。言うたびに友人にはよく苦笑いされてしまった。
私は生まれながらにして病気を持っていた。そのせいで両親は私をひどく思っていたかも知れない。同時に何とかしようと苦悩していた。優しい両親だった。私は母さんと父さんが好きだった。そんな両親に答えようと私も必死だった。けども、食べられるものは限られてた。
私が持っていた病気は偏食病。普通の食べ物がおいしく感じられないんだ。むしろとても食べれるような味ではなく、土でも食べているかのような感覚だよ。あ、実際に土も食べたよ。あれはおいしくないね。口の中がシャリシャリして面白い食感だったけど。とにかく、普通の物が食べれない僕は栄養不足でとても弱ってしまった。体の作りまでは変わってなかった。
私はものすごくお腹が空いたんだ。でも食べれそうなものは無くて普通の食べ物も無理やり口に入れても吐いてしまうし、私は空腹で悩み続けた。両親はそんな私を見て病んでいった。私はついに空腹のあまり、意識が途絶えそうになった。餓死寸前だった。そんな様子を見て泣き出して嗚咽する両親をぼやける視界の中で見ていた。その時、私の口に母親の涙が入ってしまったんだ。その味は甘かった。ほんのりと甘くて、苦くなくて美味しかった。そこからの記憶はよく覚えてない。
気が付いたら私は血に染まってた。部屋も血まみれだった。血の香りが心地よかった。いい匂いだと思えた。少しあたりを見れば人の骨が転がってた。2人分。私は初めて満たされた気分だった。だが、その骨が両親だと分かったときの絶望感はひどかった。私は両親を食べた。
私は自分のしたことを深く攻めた。口に手を突っ込んで吐き出そうとした。こんな私でも必要としてくれて支えてくれた両親を食べてしまったなんて。私は吐き出せなかった。いくら絶望しても喪失感がしても、これ以上ないくらいに思ってしまった。両親の肉が、血が、美味しかったと。私は何もできなくて、数日間そこから動けなかった。
それから私はFHに拾われ育てられた。のちに1つ下の彼と仲良くなった。彼は1度死んだ体だった。そして、FHに来たばかりなのにもう名をあげる天才だった。彼は深い野望を持っているようにも思えた。私は彼と共に育ち、いつしか彼がセルを作ると言ったので私はそこに入ることにした。私は彼を食べたいといつしか思ってた。
彼はセルリーダーになった。そうれはもう立派に。私は人の目がない場所で人を食べていた。でも、体の作りは変わってなかったからたまに栄養剤を飲んでた。彼はそれを知っていたから私が少しでも楽になるようにしてくれた。私は彼を食べないよう必死だった。
のちにセルには人が増えた。彼らからは常に血の香りがした。私が拾ってきた子供もだ。動きすぎると皮膚の縫い目が裂けて血が出るなんて生殺しかな。でも育て続けた。人が多くなればなるほどその血の香りは増した。私はそれを抑えるようによく食べた。そん中でふと思った。人を食べている私は何だと。人食の化け物かと。そんなのは嫌だと私は食べるのを控えた。そして普通の食べ物が食べられるようにと方法を探した。探していたらいつの間にか料理人になってた。見た目と香りの感じで作れた。それは努力の塊りだった。セルリーダーになった彼はそれを美味しいと言ってくれた。私は料理の腕を磨きながらいつか食べられると思ってた。こんなにも笑顔で食べてくれるからどんなに美味しいだろうかといつも考えていた。だが、ふと食べてみれば吐いてしまった。食べれなかった。
私はずっと探した。いつしかそれは野望になって私の原動力になって称号が与えられた。私はFHマスターエージェントになった。セルにいた仲間たちにはお祝いされた。私は特大のケーキを作って全員にあげた。私はセルリーダーと一緒にいた。彼はケーキを食べてたが、私は血をワイングラスに入れて飲んでた。やはり食べれなかった。セルリーダーはその時に私に契約の話を持ち掛けた。代償は重いが私の偏食を無くしてくれると。私は断った。代償で何かが失ってしまうのならばそれは私が望むことではないと言った。この偏食はいつしか絶対に克服すると宣言もした。セルリーダーはどこか悲しそうな顔をしていた。お前、無理してるだろと言ってきた。その通りだよ。
私は入ってきた新しい子たちに力の使い方を教えた。このセルの仕組みも。そうそう、このセルね手袋の色で階級が分かれてるんだよ。下から赤、青、紫、黒。私はもちろん黒だった。全員それに納得してセルリーダーの下についた。世話をしながら仕事もこなした。レストランを開きながら他セルの人と情報交換したり、戦力として呼び出されたり、私は良く活躍していると周りから讃えられた。けども、私の中にある病気は常に蝕み続けてついに拗らせた。
私は栄養剤を飲んでた。薬の味も変わっているようでね、酸っぱかった。水で流し込んでふと思った。けどもそれを理解したくなかった。私は教え子に頼んで検査をしてもらった。なんの検査をしかたというと、私の内臓の動き方だった。結果は絶望的だった。何十年も人食を続けてしまったために体がそれに対応してしまった。私は人の血肉からでしか栄養が取れなくなった。完全に化け物だった。人を食べることしか生きるすべを、望みを失った。いつか友人と同じ料理を一緒に食べて人のように、普通になりたかっただけの事を。
それを知った後、私は拒食症のようになった。狂うほどに美味しかった人の肉を食べることを自らやめた。食べてしまったら私は人じゃない気がした。もう戻れないのに。今更にもほどがあるね。自分で自分を見下した。哀れなものだよ、本当。それを数週間ぐらいかな、過ごした後セルリーダーに頼んでセルから抜けることを話した。彼は驚いていた。理由を聞かれ、私は隠さず言った。私の病気が治らないかもしれないということ、私の体の作りが変わってしまったこと、拒食気味になって人の前に立つとどうしようもなく食欲に飲み込まれそうになることを。もちろん、今までずっと良くしてくれた彼や教え子たちを食べたくなかった。殺したくもなかった。また失いたくなかった。両親のように。
セルリーダーは納得してくれた。抜けてもたまに顔見せに来いと言ってくれた。彼には世話になったと思っている。私のやりたいことも望みも尊重してくれたから。
私はセルを出て、称号も捨てた。FHマーセナリーとなった。ただ残るは消えかけた望みと空腹だけだった。それから他セルの依頼をこなし、レストランを普通に開いて表向きには3つ星レストランの店長になった。接客とかしてないけど。その影ではずっと偏食という病気と必死に戦った。たまに気がおかしくなって夜中に人を攫って食べてしまうこともあった。それぐらいに私の空腹は常にまとわりついた。周りの人たちが全員美味しそうでたまらないんだ。けども、化け物なんてなりたくなかったんだ。
私は表に出れば大量殺戮をし、恍惚な表情を浮かべて血の海を作ってるだろう。周りには骨になった死体が転がるだろう。そこから名付けられたのは『ソル―クリップス』。
またの名前を『偏食』という。
追記
あるシナリオにて『ソル―クリップス』
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