『ブラットバウル』血塗られた被害者

まっちゃぁぁ

第1話 FHセルリーダー『リアルマスター』

『地獄にいる者は、天国を知らない。天国にいる者は、地獄を知らない。』


とんだ皮肉な言葉だった。だが、これは正しかった。

実際に俺はいつもある日常が地獄のようなものだと思っていた。いつ見捨てられるか分からない家庭。窮屈な学生生活。隠している妹の存在。演じ続けた一般人。とにかく退屈で生きづらかった。だが、本当の地獄はここからだった。


とある休日に家ごと暴走したジャームに壊された。暴走を止められなくて住宅街で暴れた。死者は約20人軽傷者や重傷者を合わせれば3桁にもなった。その中に俺もいた。母親と父親もいた。

次に目覚めたのは真っ暗な寒い場所。顔まで白い布を被ってて、周りにも同じように布を被っている人がいた。すぐに理解した。ここは霊安室だ。俺は一回死んだ。

俺はそこからふらふらと抜け出して、外に出て、いつの間にかある女に拾われてた。そこまでの記憶は朧気なんだ。死んだと思ったら生きてたんだからな。いや、生き返ったが正しいか。


そこで俺はこの世界の本当の姿を知った。オーヴァードと名付けられた化け物が裏で事を起こしていた。俺は驚きもせず、ただ女の言う言葉を聞いた。すべて聞いた後に俺の中で何かが湧きだったんだ。俺も化け物だったんだ。俺は死んだ者だった。この世から消えた存在だった。

けど、死んだことが辛かったんじゃない。化け物になったことが悲しかったわけでもない。UGNが俺を見殺しにしたとも言えるがそんなことどうでもよかった。真っ先に思い浮かんだのはこれがチャンスだということ。頭の片隅にぼやけながらも浮かんだ妹の顔。この世界の理を知った気分で俺は自ら地獄に浸った。何もかも失った俺に目的が出来たんだ。そして、影で笑っている奴に言われるがまま、俺は人形になってやった。そうすれば、お前は俺にすべてを与えて教えてくれるんだろ?


女は俺を最後のマスターと言った。称号を貰ったんだ。一緒に居たのはほんの数日で女はFHを出て行って新しい組織を作った。その後は俺は一緒に育った友人とセルを作りセルリーダーになった。ふらりと外に従者を出しては行き場を失ったやつを拾って従えた。それら全員は地獄を味わった者や地獄だと分かっていない者だった。どいつもこいつも自分が不幸だと自覚すらしてない。普通すらも分からない。てか、普通って何だろうな?


大やけどの背中に包丁が刺さった子供。今じゃ俺の優秀な部下であり、他人を救うことで自分が救われると自己満足している。

人間モルモットとして実験されてた無感情の子供。セルの番人になった。一番手が掛かるやつになった。

死にたがりの臆病な2重人格の男。貿易関係を任せて、都合がいいように使っている。今更後悔しても遅いことを悔やみ続ける精神病患者か。

偏食病を持つ人食の料理人。今はもういない友人だ。

実験に執着した男女。片割れが狂ったように実験を続けている。もう片方は捨てられてしまったようだな。そして今では狂った女だけ。

元UGNの天使と言われた片腕の女。医療関係を任せた。外には出さないようにしている。この中では一番人らしいが、人を忘れかけているとも言える。

壊すことしか分からない子供。いたずら好きで恐怖させた方が躾けやすいとも思う。めんどくさい。

双子の2代目猿夢の子供。2人で1人。お互いに依存した双子で、よく遊べとすがってくる。めんどくさい。

普通が分からない純粋な子供。 純粋が一番恐ろしいことだろうな。普通を知らないと全員こうなっただろうな。


俺はセルリーダーとしてこいつらを従え、育て上げた。正しくは友人が育てたんだがな。セル名は『ブラッドバウル』。文字をいじって訳すと、『血塗られた被害者』って意味になるんだ。 このセルに居るのは血塗れにされた被害者達だ。UGNやら人の都合でいない者扱いを受け、血を知ることになって離れられなくなった者だ。これを見ているお前も、同じだぞ?

今まで見て見ぬふりを何回して来た?今まで誰を助けられた?今まで不幸だと思ったのは何回だ?幸せを得るために犠牲にしたのは?自分で良かったと他人を売ったのは?誰よりも上に立とうとしたのは?自分は惨めだと縮こまったのは?助けて欲しいと思ったのは?頼れた人は?助けてくれた人は?遊んでくれた人は?一緒に飯を食った人は?馬鹿なことをして笑いあった人は?自分よりも優先してしまう人は?時間を忘れて熱中したゲームは?自分の欲は?自分のやりたいことは?


お前が作った、お前の分身キャラクターは?


地獄のような生き様をしてきた奴は普通が天国のようだ。眩しくて歩けない。それでも自分がそこに立てたら、行けたら幸せかなと憧れる。叶わないと分かっててもだ。だが、光を与えられた時になってやっと思うのはこの世がどれだけ汚れているかだ。自分が救われて、下を見てみれば同じやつらがうじゃうじゃ蟻のようにいる。そいつらに同情を覚えて助けることが次の行動になるか、自分はもうあんな風にはならないと安堵して軽蔑するか。そしてもっと上の天国に行きたがるか?始めから地獄も天国も存在しないここでな。

天国のような生き様をしてきた奴は地獄が想像つかない。最初から全てあるのだから非が分からない。何が悪いのかが分からない。簡単に道を踏み外し、生きるためではなく自分の欲の為に、衝動を飼うために行動し始める。破滅してもそれが本望だと笑うだろう。地獄絵図と呼ばれる場所を作り出すことだってそれは自分にとって天国のステージなのだから。スポットライトは常に自分を照らす。そうでなければならない。違うやつが照らされた時、殺してでも奪うだろうな。

これを見て天国と地獄、何が違う?


自分が地獄か天国か、それを区別するのは生存本能だ。生きれるか、死ぬか。生死を彷徨えばなおさら。生きていることを幸せとするか、不幸とするか。死ぬことを救いにするか、逃げにするか。それはすべてお前たちの頭の中で判断される。

生きるとは、他者を食うことだ。食い散らかせ。それでお前の空腹は満たされて、生きれる。食べなきゃ、死ぬぜ?死にたいというなら別に餓死すればいい。

腹いっぱいになったところで次の動くのは欲の消化。ある奴は残った食い物を他の奴にあげるだろう。自己満足ってやつ。ある奴は他者を殺して食い物を奪ってまた腹が減ったら食べる。生きるためならば他者も殺すいい生き方だ。ある奴は次の食い物を探して歩く。戦う。護る。群がる。考える。これが大体だろ。強い奴には構わず、弱い奴には威嚇するか助けるかして従える。大きな食い物を見つければまた全員で食う。そうやって繰り返していく。

ほら、お前達もそうだろう。食うことが生きるってことだ。生きることが食うこと。そのためならば他人も蹴落として食え。それが出来なければ死ぬだけ。結局はそういうことだ。この世はな。


俺はそれ知った。生きるために周りにいた同じFHのエージェントを殺した。マスターの称号を勝ち取った。その権力を十分に使った。屍を積み上げて、血に染まって、生きるために、目的を叶えるために、自分の理性をいつでも捨てられるようにした。影で笑ってる奴はそれを見て「君はすごい子だね」と鳴いた。俺は皮肉を含めて吐き捨てた。「これを教えたのはお前だろ。お前が作ったなんだからな」影にいる奴は更に歪んだ笑みを見せて、そこら辺に居る奴をまた食ってた。


影にいる奴は生きるために食うことが、欲を満たすために食うことに直結した捕食者だ。こいつは食うためならば平気で地獄を作る。食うために作る。食うために集める。食うために教える。食うために食わせる。単純で、狂暴な奴だ。何を食うって?それはお前らだよ。これを見ているお前を食うんだよ。精々食われないように抵抗してみろ。俺はしばらく食われねぇよ。まだ人形だからな。


俺は表に出れば未来を捻じ曲げ、理屈を壊し、戦況すらひっくり返す存在。そこから名付けられたのは『リアルタイムトリガー』。

そこから最後のマスターの称号を貰って今になる。この世の理を知る者。知ってしまった者。

俺は『リアルマスター”現実者”』だ。

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