第9話 FHチルドレン『ナイトピエロ』

『次はひき肉。次は生け作り。今日もたくさん殺そう。』


僕たちは2人で1つ。けども違うところもある。

どちらかがいなくなっても、私たちは生き続ける。だって双子だから。僕が君で、私があなた。僕らはそうやって生きて来た。私たちはそうやってお互いに依存した。僕たちは殺した分だけ生きる。私たちはたくさん殺したからたくさん生きる。


僕たちは普通の双子だった。とってもよく似た双子だった。先に生まれたのはどっちだっけ。そんなこともどうでも良かった。僕は君だけを見てた。僕と同じ顔の君を。いつも一緒に遊んだ。周りの人をびっくりさせたこともあった。いつでも僕は君になれた。服と髪を変えてしまえば君になれたから。


私たちは常に一緒にいた。お父さんとお母さんまで見間違えることだって。唯一違うのは好きな食べ物ぐらいだったかな。お友達からもよく間違えられた。そんなにそっくりなんだと思っていつの間にか私があなたに思えた。あなたが私に見えた。自分で自分を間違えるほどに。


僕たちは一緒に寝る。僕たちは同じ夢を見た。電車の中だった。これは猿夢だった。体が動かなかった。僕たちは隣同士に座っていた。僕は必死に手を動かそうとしたけど動かなかった。

私は聞こえてくる放送の音を聞いていた。次はひき肉、ひき肉と聞こえた。奥からピエロが出てきて私たちから5番目に座っていたおばあさんに金槌みたいなのでたくさん叩いて砕いてバラバラにして何かに入れてた。いつの間にか放送の通り、ひき肉になっていた。

僕たちは必死にもがいた。このまま進めば次は僕らだの番だと。もがいてもがいて、暴れて、やっと動けた。動けたのは僕だけだった。君は動けなかった。僕は君をゆすって起きてって叫んだ。なんで起きてって言ったんだっけ。


あなたに起こされて目をあげたらお布団の中だった。隣には寝ているあなたがいた。ほっとして、手を握りしめてまた寝た。さっきの夢は悪い夢だったんだね。するとまた電車の中にいた。目の前には私がいた。いや、君か。肩を掴んでゆすって起きてと叫んでいた。早くしないとあのピエロが来てしまう。僕『私』は恐怖に煽られた。

君をゆすったはずなのに、いつの間にか僕がゆすられてた。目の前には僕がいた。いや、私か。体をゆすられてやっと動けるようになった。私『僕』は君『あなた』の手を取って電車の中を走った。動く電車の中では走っちゃダメって言われてたけど、走るしかなかった。君『あなた』が殺されないように。

僕『私』たちはたくさん走った。後ろからうるさい音がした。ピエロが追いかけて来た。私『僕』たちは必死に走った。ドアを思いっきり開けて、後ろなんか見ている余裕は無かった。でも行き止まりに来て、ピエロは大きな包丁を持って迫ってきた。僕『私』はすぐさま君『あなた』を抱きしめて守った。


そこで目が覚めた。目の前には君がいた。僕の手を握りしめていた。でもとても苦しそうな顔をしていた。僕は君を抱きしめて頭を撫でた。大丈夫だよ。僕がずっと一緒にいる。僕が君を守るから、君も僕を護ってね。だって、僕らは2人で1人なんだから。


私は抱きしめられた。水の音がして、あなたがそのまま私に体重をかけて倒れて来た。あなたは血まみれだった。違う、私に見えた。けども僕は、私は、君は、あなたは。どっちだっけ。目の前で倒れているのはどっちだ。私『僕』はどっちだ。分からなくなって、呆然としていたらまたピエロが大きな包丁を振りかざしていた。僕『私』は怒った。君『あなた』をこんな血まみれにしたことに。電車が止まった。ピエロが勢いに耐えられなくて転んで開いたドアから投げ出された。私は電車を止めてドアを開けた。僕はピエロを転ばせて投げ出した。静かになった電車に放送が聞こえた。その声はあなた『君』だった。今日から2代目猿夢だよと。


目が覚めたら真っ白なベッドの上に寝ていた。あたりを見渡したら小さいピエロがいた。びっくりしてみたらおはようってあなた『君』の声がした。おはようと返して自分の服を見たら同じピエロの恰好をしていた。その時から私『僕』たちは猿夢のピエロになった。


なんで私『僕』たちがFHにいるのかというとね、僕『私』のお父さんとお母さんはひどいことを言ってそれに怒って殺しちゃったんだ。だからFHまで逃げて来た。とってもひどいことだよ。私『僕』は死んでるって言うんだ。片方が死んで片方が今いる僕『私』だって言うんだ。そんなことないのに。私『僕』はここにいる。


表に出れば僕『私』たちは猿夢のピエロ。今日も電車の中でお仕事をする。逃がしはしない。私『僕』たちが逃げれなかったように。そこから名付けられたのは『ナイトピエロ』。

またの名前を『猿夢』。

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