第7話 FHエージェント『ナイチンゲール』
『天使とは美しい花をまき散らす者ではなく、迷える人のために戦う者です』
私の名前の由来となった人の言葉です。この言葉に従って戦うことを決めました。
私は元々UGNに所属していました。そこからこのFHセルに来ました。ここに来てからは戦うと決めたのに表に出ることはほとんどありませんでした。
幼少期、私の地域すべてが感染病に侵されました。私も感染しました。両親は死にました。その時の無力さが私を責めました。何せその時の私の夢は医者になることでしたので。死者が数百人に上った中、数十人しかいなかった生存者の中の一人が私です。私はここで能力に目覚めたのです。家族はみんな死んで、私だけ生き残ったことに罪悪感がしました。ですが、その家族の為にも生きてと言われた気がしました。私はUGNに入って繰り返さないように医療班として勤めました。
入ってからは能力を自在に操り、支援役を担うようになりました。また、医療の勉強もしていたのでホワイトハンドに所属経験もありました。そのうち優秀な成績を収めましたが私は特に喜びもしませんでした。人を救うことが望みであり、目的になっている私には当たり前の事だろう思えたのです。
そう言えば、過去にFHのチルドレンを助けたことがあります。UGNに入ってまだ数年たった頃でしょう。いくら敵でも目の前で瀕死になっている人を見過ごすわけには行きませんでした。私は能力といつも持ち歩いている医療道具で同じ歳ぐらいのFHチルドレンを手当てして逃がしました。そのことは誰にも言ってません。
それから月日が流れて、ある任務で私以外の人が全滅しました。
目の前で死んでいく様子を見て私は幼少期のことを思い出しました。ここまで努力してきたことは何のためだったか、私はまだ無力なままなのかと駆け付けたUGNの方に取り押さえられるくらいに暴走しました。
そして、私なら助けられると治療をしようとしましたが上からの命令でそれ以上は無駄だと止められてしまいました。助けられたはずの命を見捨てたのです。なぜ止めたのかと理由を聞けばそんなことをしたら君が堕ちるだろうと、言いました。そんなこと関係ないと言い返しました。私には自分の命すらどうでも良かったのです。
私は山のように募ったUGNに対する不満で少し問題を起こしてそこから逃げ出しました。問題というのは私の能力を使って支部の機能を一時停止にしました。出入口を植物で包み、妨害しました。私はオルクスとブラム=ストーカーの能力者です。戦闘はできなくとも、妨害と支援は得意分野でした。その後、私は指名手配者になりました。私は逃げました。
戦闘が全くできないことはとても逃げるのに大変でした。いくつかの傷をつけて入り組んだ路地を選んで何とか追手を撒こうとしていました。ですが相手は戦闘の手練れです。私は不意を突かれて自慢だった長い髪と一緒に左腕を切り落とされました。痛みと死んでしまうという諦めでそのまま倒れました。息が上がって体にこれ以上力は入りませんでした。そこから目の前が真っ暗になりました。それは黒い布でした。
気が付くと白いベッドの上で寝ていました。右腕には輸血がされていました。起き上がろうとしたら軽い頭と無い左腕に気付きました。腕と長い髪を失って居場所を失って、私にはあと何が残ったでしょうか。そこに真っ黒な布を被った灰色の仮面の男性らしき方が来ました。彼は私があなたをここへ連れてきましたと説明をし、私をFHに引き入れてくれると言いました。
ある程度回復した後、セルリーダーさんに挨拶しに行きました。なぜか狼でした。理由は私がUGNから来たための警戒でした。なので姿は見せないということでした。私は喋る狼に向かってここに来た経緯とエージェントとして入ることを言いました。狼は承諾しました。そしてやりたいことが出来たらまた俺のところに来いと言いました。
その後、私をここへと連れて来た彼は『十面相』という名前を持つと教えてくれました。彼はとても紳士的でしたがどこか演じている気もしました。私は片腕を失っていたので不便なことがありましたが、その時はもう一人の方『エルガ』が手伝ってくれました。他の方にもよく手助けをしてくれました。私はこのセルが安心する場所のように思えました。
最年長と思われる『ソル―クリップス』という方から義手をいただきました。私は感謝してそれを付けました。動かなくともそこにある重みが懐かしく思えました。無くした左腕が帰ってきた気が少ししました。彼にはそれ以外の交流は訓練ぐらいしかありませんでした。訓練というのは私は別の能力を受けたからです。
のちに私は目的を思い出しました。またここからやり直そうと、また人を救うことを選びました。ここでなら止める人はいないと思ったのです。そしてセルリーダーさんに話をすると契約の話を持ち掛けられました。私はこれに従いました。もう私に失うものはありません。
契約によって得たのはブラックドックの能力と他者を傷つけることになる感情の消去。代償にオルクスの能力の消去と救われるまで死ねないというのを受けました。私はブラックドックの能力によって義手を動かせるようになりました。私は他者を絶対に傷つけない。その忠誠として怒りや憎悪、殺人衝動のようなものになる感情を消していただきました。ですが、救われるまで死ねないというのは大変不便でした。言い換えれば救われるまで私は不死者なのです。
感情の一部を消したために今まであったUGNに対する恨みが消えてしまいました。他者に向ける怒りもすべてなくなってしまったのです。ですが、自身に向ける怒りや恨みは消えることはありませんでした。唯一傷つけられるのは私自身でした。そして、無表情のようになりました。救われるまで死ねないという不死者の代償は私の行動を制限しました。
私は周りを救うことばかり考えて自分のことなどどうでも良かったのです。なので救われたことがありませんでした。セルリーダーさんはそれを分かっていたのでしょう。私に足りないものと必要なものを見透かしているような方でした。ですが、同時にお優しい方でもありました。セルリーダーさんが人思いだからこそ、優しい方がいらっしゃるのかと思いました。
ある夏の事、ひどいやけどを持つ男性に会いました。顔までひどいやけどでしたが、その顔をどこかで見た気がしました。青い炎を扱うのを見て思い出しました。彼は私がUGNの時に助けたFHチルドレンでした。お互い、色々変わってしまいました。立場も、見た目も。彼はFHを抜けてUGNに入り、しかも支部長になっていました。私はUGNからFHに移ったことを言いました。変わってしまっても私は前の私のままだと言ってくれました。私は何もかも変わってしまったのではと思っていたのでそんなことを言われるのは初めてでした。今の私の周りに過去の私を知っているのは彼だけだったかとそう思いました。
のちに彼とは周りに内緒で連絡を取り合うようになりました。彼のせいで大変な目にも遭いました。本当にやめてください。命がいくつあっても足りません。いえ、私死なないんでした。訂正します。彼と話すようになってからセルリーダーさんには人間らしくなったと言われました。そして、救われたら契約が消えるぞとも言いました。契約が消えるということは私は不死者ではなくなり、UGNに対する怒りと恨みをまた募らせるでしょう。自殺行為ともいえる戦う方法を得た私は前線に出されることはほとんど出されることはありませんでした。ただその不死者の代償を利用して危険な場所に行くことはありました。うまくこの体と生きています。
私は表に出れば誰一人として死者を出しません。私の身を犠牲にしてでもです。そこから名付けられたのは『ナイチンゲール』。
またの名前を『血天使』といいます。
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