第3話 FHエージェント『エルガ』

『戦闘兵から、門番役に。それこそ純粋に一途に、子供のように。』


俺はよくこう言われた。ガキじゃねぇっつーの。

俺は元奴隷。人間モルモットとも言うんだっけな。まぁ、使い捨ての駒だったわけ。生まれたころから奴隷さ。能力を得たのは実験の結果。前線で戦う戦力ってな。まぁ今思えば胸糞わりぃ育ちだったと思うさ。


生まれたころから首には枷が付いていた。名前なんて番号だった。金で買われる命だった。買われた後は道具のように使われて用済みになったら捨てられる。また買われるまで檻の中。そんな中でFHに買われた。そん時の俺は無情だった。何にも興味が無くて、欲すらない。躾けられた犬みたいなもんだ。命令に従ってカプセルの中入って、体いじくられて今でもその傷跡は消えねぇ。縫い合わされた皮膚は無理をすればすぐに裂ける。でもそんなこと誰も心配なんかしなかった。ただの道具だ。


そんな中で俺がいたFHセルがUGNに潰された。俺は命令も何も受けてなかったからそこにただいた。首につながれた枷と鎖をぼーっと眺めていた。そんな時に慌てている男が一人俺に近寄ってきて俺の枷を外して連れ出した。何も言わずに引っ張られるもんだから、走るのにたまに転んだ。3回目ぐらいだったか、転んだ時に縫い目が裂けた。男はびっくりして俺を抱えて真っ黒な渦に入った。出てきたときには全く違う場所だった。男もオーヴァードだった。


男は俺を拾ってきたと言って別の男に正座させられてた。めっちゃ説教されてた。俺を見た別の男は俺に名前は?と言ってきた。俺は何も答えなかった。俺を連れて来た男は俺を責任もって育てると言った。何言ってんだこいつ?って状態だった。マジでなんでと今でも思う。


男は『ソル―クリップス』と言った。長いから『ソルー』と呼んだ。勝手に訳されて不満そうな顔してた。ソルーはまず俺を水の中に突っ込んだ。その水は生ぬるくて血を浴びたときに似てた。そのまま濡らした布でめっちゃ洗われた。顔まで思いっきりこすったのは許さねぇ。まぁ、そん時の俺は無抵抗だったけどな。


その後は体の縫い目を縫い直された。その手は元居たFHセルよりも手際よくって痛くなかった。んですぐに血が止まった。縫いながら色々話をされた。まず、本名を教えてもらった。んで俺にも名前を付けた。苗字貰っちまった。『羅弥』って言うんだけどよ、今思うとかっこいいな。


そしてしばらくソルーと過ごした後、別の男に言われたんだ。そいつはセルリーダーだった。そいつは俺に感情がないことに気付いて契約の話を持ち掛けた。ソルーは代償は何になるんだとなんか慌ててた。怖がっているとも見えたかもしれない。俺には特に意思なんてないに等しかったから、契約をした。

契約で得たのは感情。ついでに奴隷印も消してもらった。代償に無痛と能力の一部、ハヌマーンを失った。あ、俺はサラマンダーとエンジェルハイロゥとハヌマーンだったんだぜ。言ってなかったな。んで、俺は痛みを感じなくなった。代わりに感情が溢れて無言だった俺はよく喋ってソルーを困らせた。だが、ソルーは笑ってた。


俺と同じくらいのガキを見つけた時は俺は走ってそいつに飛びついた。全身包帯で黒い布を被ってた。めっちゃ逃げるから追い掛け回したらソルーにめっちゃ怒られた。あいつ、能力使って拳骨してきたせいでしばらく動けなかった。クソが。


話を聞けばセルリーダーが拾ってきた同じくらいのガキだった。そいつは全身やけどだった。だから全身包帯なのかと思った。その後何度か話して仲良くなると、一緒に訓練することになった。そん時はやばかった。マジで。

訓練始めたら、包帯のガキが暴走しやがったんだよ。ちょっと火使ったぐらいで耳が痛くなるほど叫んでいつの間にか腹に腕貫通させられてた。すぐさまソルーに止められて医務室送り。訳を聞いたらあいつ、火がトラウマなんだってな。めんどくっせぇと思った。けど、同じガキとして仲良くなっていたから、どっかでずっと考えてた。俺はソルーに頼んで氷を使えるよう訓練してもらった。


2回目の訓練であいつは結構強くなってた。砂を操ってた。俺も負けてられねぇって真正面から突っ込んだ。氷の剣で。あいつはびっくりしてた。炎じゃないのですか?と言ってきた。俺はこうしなきゃお前と戦えねぇんだろ?って笑い飛ばしてやった。それからくたくたになるまで訓練した。けど、どっちも無傷だった。ただ攻撃と回避と防御だけで疲れた。


俺は何にでも興味を持った。能力は失っても名残はあった。耳が良くてな、音の調子が分かるんだよ。だからピアノとかヴァイオリンとかやってた。ソルーに教えてもらって料理や医療もある程度覚えた。俺は多趣味になった。それらすべて契約のおかげだった。俺は契約をいいものと見た。だが、ソルーは契約は本当はすべきではないと言っていた。理由は知らねぇ。


のちに他のガキや新しく入ってきた部下共が出て来た。俺はそれらに教える立場になった。だが、そんな世話してたらいつの間にかソルーがいなくなってた。あいつは病気を持ってた。セルリーダーに言えば難しそうな顔して無言だった。俺はそれっきりソルーの話は出さなかった。全員から先生と言われたあいつは元マスターエージェントで今はFHマーセナリーになってた。


俺は表に一切出ることはねぇが、戦闘は体が覚えている。今は守るもんがあるんだ。あの先生の代わりといったもんだ。そんなことから名付けられたのは『エルガ』。

またの名前を『氷炎番人』だ。

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