最終話 書くと読む、二つの選択『』
【橘くるみ】
橘くるみの、”アダム・酢味噌”名義のtwitterに一つのメッセージが届いていた。
『あなたの作品の続きを書かせてくれませんか。』
そういえば私は作品情報に
『最近疲れすぎて、頭がおかしくなってきました。 もし続きを書きたい方がいればtwitterにご連絡下さい。』
なんて書いていたなと思い出しながら、了承の返事を出す。もしかしたら、この狂った作品を終わらしてくれるかもしれないという期待を胸に抱いて。
【葉月心】
”あなた”と”葉月心”はとあるマンションの一室の前にいた。
「本当にここにいるの?」
「はい。事前に連絡は取りましたから。」
ピンポーン
インターホンを押し、扉を開けて出てきた人物の顔を見て、葉月心が言った。
「うっわ。本当に同じ顔じゃん。」
葉月は二人の顔を交互に見る。
「なんで橘くるみが2人も存在するのよ。」
扉を開けた方の”橘くるみ”も驚いたような顔をしている。
”あなた”は彼女に声をかける。
「アダム・酢味噌さん。いやこの世界の”橘くるみ”さん。私はあなたに謝らなければなりません。私は並行世界のあなた、”橘くるみ”です。」
まるでわけが分からないという顔をしている”アダム・酢味噌”の方の”橘くるみ”を見て、葉月が言った。
「何回聞いても、意味わかんない説明ね。というかあんたが”あなた”って言う名前のせいで、あなたなのか私なのか、ごっちゃになってこんがらがってるじゃない。」
「そうですね。同じ名前だと区別がつきにくいし、”あなた”という名前もややこしい。ここは名前を少し文字ってもう一人のあなた、【Another】とでも名乗りましょうか。」
【橘くるみ】
二人を部屋に上げた、”橘くるみ”はもう一人の自分であるという”アナザー”に質問する。
「どうして、並行世界の私とやらがこんなところにいるんだい。」
”アナザー”はそれに答える。
「そもそも私、”橘くるみ”は分岐する選択肢を表す『T』の能力者だったのです。愚かなことに元の世界の私は、自分がランキング1位を取れる世界まで分岐を繰り返した。その結果がこの世界の橘くるみさんの能力、歪んだ運命Dです。」
「なるほど。それが事実だったとしよう。だが、もう一人の私が来たところでこの異常事態に対して何ができるというんだ。運命は確定してしまった。定まった運命は誰にも変えられない。私は『D』の能力と共に、変わらない自己存在『I』の能力者でもある。例え私自身であっても、この結末は変えることはできない。」
「いえまだ、運命は確定していません。」
そう否定する”アナザー”は机の上に置いてあった橘くるみのモニターに表示されている、物語のタイトルの一部分を指さす。
連載中「カクヨムバトルロイヤル”ティ”プログラム。」
「まさか。」
”橘くるみ”は声を上げた。
「私が投稿した作品のタイトルは、『カクヨムバトルロイヤルプログラム』だった。だから、この余分なティ”の文字を打っていないし、そもそもこの話は完結済だったはず。」
「この世界線にやってきた私は、あなたの運命が定まる直前、分岐の余地を残すために『T』の能力を使って楔を打ち込み、完結済みの物語を連載中に戻しました。しかし、あなたの能力『D』は私の想像を超えるほど強力なものでした。そのせいで私はあなたの物語を編集しきる前に『T』の能力を失ってしまった。」
それを聞いた葉月心が聞く。
「ってことは、あなたは今なんの能力も持っていないってことじゃない。それで、この状況をなんとかできるの?」
”アナザー”は人差し指を作品タイトルから、画面の右上のアイコンにずらして答えた。
「大丈夫です。私の今の能力は、全てを受け入れる空白
【Another】
彼女は説明を続ける。
「このカクヨムという能力はそれ自体ではなんの力も持っていません。この能力は他のユーザーの信念によって完成するのです。」
”アナザー”は葉月に問いかける。
「橘くるみさんは『I』の能力を持っていると言いました。あなたも同じく『I』の能力者ですよね葉月さん。なので二人には、私の作品にレビューを書いて能力を譲渡してほしいのです。」
「能力の譲渡って、あなたのカクヨムの能力はそれをどうするの。」
「『カクヨム』は作品、作者同士を繋げます。私はこのプログラム中に
、独立した中立『N』、曲がった自分『S』、繋がる道筋『A』、結ばれた結末『R』の能力を他の作者達から頂きました。そして、これらにお二人の『I』を組み合わせます。」
少し考えて葉月は言った。
「でもそこに『I』が加わったところで何が起きるの。この5文字の組み合わせてできる文字列は、sarni、 naisr、niras、insra、なんの意味も持たない組み合わせ。そもそもこの5文字の組み合わせでできるまともな単語は存在するの?」
「だからこそ、Iが二つ必要なのです。」
”橘くるみ”は何かに気がついてハッとする。
「そうか、Iそのものは分岐の余地がない一本の道。しかし、Iを二つ組み合わせると...」
”アナザー”がその言葉の先を紡ぐ。
「2つの運命の交差点『T』、私の本来の能力が復元します。そして、さっきの4文字にTを組み合わせます。」
葉月が叫んだ。
「『TRANS』!。越えていく、変化するを意味する単語が出来上がる。」
「そうです。私はそれを使って橘くるみさんの呪われた運命を分岐させます。」
【葉月心】
「レビューを書けば良いのよね。」
葉月心はアナザーに尋ねる。
「はい。私の『』の能力はそれを受け入れます。」
「つまらないオチだったら、ただじゃおかないから。」
そう言い残しの葉月心の姿は消えた。
”アナザー”のスマホが通知を知らせるため小刻みに振動する。
『あなたの作品なかなか良かったわよ。後は頑張りなさい』-葉月心
【橘くるみ】
”橘くるみ”は、もう一人の自分であるアナザーの作品を読んで涙を流していた。
「これは私の作品でもあるんだろ、Another?」
「ええそうですよ。橘くるみさん。」
それを聞いた彼女は満足した表情でレビューを投稿して消える。
『やっぱり、私の作品は面白いじゃないか』-橘くるみ
【Another】
「では、この駄作を終わらせましょうか。」
誰もいなくなった部屋で、”あなた”は机の上のパソコンを動かす。
『TRANS Desitiny』
この能力は運命を超越し、あるべき姿に戻す。
カクヨムバトルロイヤルティプログラム
カクヨムバト ロイヤルティプログラム カタカタ
カクヨムバ ロイヤ リ ティプログラム カタカタ
「これが作者も読者も誰もが幸せになれる結末です。」
『10月29日カクヨムロイヤリティプログラムスタート!』
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