第5話 歪んだ運命『D』
【アダム・酢味噌】
人間は誰しもなんらかの才能を持っている。人はそれを個性や特技、能力と呼ぶ。だが私にとってそれは呪いだ。
”アダム・酢味噌”こと”橘くるみ”はランキング1位を取る能力、「Dream Destiny」(夢のような運命)の能力者だった。
彼女の才能は本物だった。いや本物のはずだった。書いた作品は全て、ランキングトップを取り、全ては順調に思われた。しかし、それが自身の能力と気が付いた時に彼女は絶望した。ランキング1位という結果は、自分の実力なのかそれとも能力の顛末にすぎないのか。
彼女は、自分と分からないようなペンネームに変え、あまりにもお粗末な駄作を投稿してみた。しかしそんな作品にもなぜか多くのレビューが付き、一位を取ってしまうのだ。
そして、このバカげた非日常も自分が引き起こしたものと分かっていた。
きっかけはおそらく10月29日、その数日前に投稿した「カクヨムバトルロイヤルプログラム」という作品だった。この作品は今まで書いて来た小説の中でも、駄作中の駄作というか、そもそも作品にすらなっていない。
しかし、それが良くなかった。この駄作をランキング1位に押し上げるため、ありえないレベルの現実改変が働いたのだ。
「カクヨムバトルロイヤルプログラム」が実際に始まってしまった世界では、それ以前に投稿された同名の作品は必然的に注目を浴びる。
彼女は作品編集から何度も自分の作品を消そうとした。しかし、強力な現実改変能力がそれを妨げる。
「定まってしまった運命は、誰にも変えることはできない。」
変わらない運命を表す「I」であるとともに、歪んだ運命を表す「D」の能力者は悲しそうにそう呟いた。
【葉月心】
葉月心の携帯が震えた。
「もしもし、葉月心さんですね。」
「どこの誰だか知らないけれど、なんで私の電話番号知ってるのよ。」
「運営の人に教えてもらいました。」
「はあ?運営と連絡なんて取れるの。」
「あなたにも察しがついている通り運営はもはや機能していません。ですが、運営に関わる彼女から託されたんです。この事態をどうにかできる人物を。葉月さん、あなたの能力は『I』ですよね。」
「そうよ。私の能力は 『Information analyze』の『I』。それがどうしたの。」
「今からこの歪んでしまった駄作を完結させににいきましょう。私がこれから言う場所に来てください。」
「ちょっとまって、あなたは一体誰なのよ。」
【あなた】
「私の名前は橘くるみです。」
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