第4話 逆転の『R』

【タピオカ仙人】

 タピオカ仙人は結ばれた物語を表す『R』の才能、「Reverse Ending」(逆転の結末)を紡ぐ能力を持っている。

 彼は空になったタピオカドリンクのカップを啜っていた。

 デスゲームが始まってから1ヶ月近くが経った今、もはや事態はカクヨムを越えて、現実世界にも影響が出ている。

 行きつけのタピオカドリンクを売っていたあの店は、まるで最初からなかったようにしていた。

 もしかすると、あそこの店の店長もカクヨムのユーザーだったのだろうか。いや、もっと深刻な事が起きていることは間違いない。人が死ぬのではなく、しているのだ。何らかの非現実的な能力が働いているのか…?


「私はこの話の真実オチを知るまで死ぬわけにはいかない。」

タピオカ仙人は正義感ではなく、ただ己の興味を満足させるために小説を書く。


 ピローン

 そんな彼のtwitterに一件のメッセージが届いた。



【蒼月ノゾム】

「馬鹿どもを騙すのは気持ちがいいなあ。」


 蒼月ノゾムは、曲がった真実を表す『L』の才能、「Liar」(嘘つき)であった。


「だけど俺のお陰で多くの阿呆どもが助かっているのも事実。あながち俺は人助けの才能『H』の持ち主かも知れねえなぁ。なんせHって文字は、4つのLから構成されている。」

 そう言って彼は高笑いをする。

 このゲームなんて、どうでもいい。全ては俺がランキング1位を取るため。


 蒼月ノゾムは、過去に一度だけカクヨムの頂点に立った事があった。しかし、それは公式のランキングではない。

 彼はカクヨムサービス開始直後に、他の大多数のユーザーに対してまたはを行った。そして、その見返りに自分の小説に星を貰う。

 運営がまだスタンスを確立しきれていないシステムの脆弱性を突いた、大量のフォロー返し、星返しは彼の作品の評価を押し上げていった。


 もう一度あの快感、景色を味わいたい。


 蒼月ノゾムは、このゲームを利用して多数のユーザーとのを結成した。同盟はお互いが対等な立場であるように思えるが、盟主である彼だけは特別だ。

 機嫌を損ねれば、消されてしまう。彼の作品の評価を上げるのには、その恐怖で十分すぎた。

 今、彼のランキングは2位。月間ランキング1位は手の届く位置まで来ていた。


 その時だった。彼は、運営からのお知らせが更新されていることに気がついた。それを読んだ彼は


「は?」


消滅した。



【運営からのお知らせ】

 この企画が始まってから一ヶ月が経ちました。残念ながらユーザー数は90%ほど減少してしまいましたが、皆さんが活発に応援コメント、レビューをするようになって『書く、読む』をモットーとする運営としては大変喜ばしいです。

 しかし、最近たいして面白くない作品にレビューをつける輩が目立ってきております。 勿論こういった取り組みをするユーザーは、プログラム開始前から蔓延っていましたが、このプログラムの目的は面白い作品を書いて貰うことです。そのため、邪魔な彼らには消滅してもらいます。

 それでは引き続き、健全なユーザーの皆様。良い作品をどうぞ宜しくお願いいたします。



【葉月心】 

 葉月心は、そろそろ運営が動く時期だと分かっていた。

 この一ヶ月を実力で生き抜いてきたユーザーと同盟のような互助集団による、不均等な停滞が発生していたからだ。

 もっとも運営の行動は予想の範疇を越えていない。なぜなら彼らが行っていることはゲームのルール


 2、面白い作品にレビューを書いてください


 に抵触していたからだ。この異常な世界で生き残るにはただ良い作品を書き続けなくてはいけない。



【優希モノ】

 ”優希モノ”はカクヨムの広報担当である。面白い作品を公式twitterで紹介したり、時には運営に対して小説化を推すなど、作者と運営の橋渡しの存在だった。

 しかし、このデスゲームが始まってから上司とも連絡は取れない、そもそも運営会社自体がしているのだ。

 だが不思議なことに、作品を投稿するためかカクヨムのサーバーだけは亞空間で稼働しているらしい。

 彼女はこの戦況を打開するために、なんとかユーザーの個人情報をまとめたサーバにアクセスした。そして、この現状を逆転させられるユーザーを見つけ出し、とある人物にメッセージを託す。


「私の希望をあなたに託す。」

 カクヨムサーバーは、ハッキングしてきた彼女を邪魔者と判断したのか、それとも社員としてこちら側に来るのがふさわしと判断したのか、”優希モノ”は消滅した。 



【タピオカ仙人】

「まさか、君から連絡があるとは思わなかったよ。」

 タピオカ仙人はランキング3位、いや2位のユーザーが消失したため、現2位のユーザーである゛あなた゛とダイレクトメールによるメッセージのやり取りをしていた。

 

「なるほど。それがこの事件の顛末なんだね。」

 彼は納得する。

「それが本当だとしたら、僕の『R』の能力が必要になるんだろう?分かった、君の作品にレビューを書こうじゃないか。」


『とっておきの結末を見せてくれ。』-タピオカ仙人


「消える前に一ついいかね。何故君は、”あなた”なんていう変なペンネームなんだ?」


 ”あなた”はそれに返信する。

「私はこの世界の主役じゃないですから。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る