第2話

 翌朝。クラス分け表に従いぞろぞろと教室に入っていく生徒たち。入学式の時よりも随分と人数が減っていた。


「ねえ、クラス名、変だよね。一組とかA組とかじゃなくてさ。狐組とか犬組とか。うちらは猫組ってさ。」


 そう話してきたのは前の席に座る小柄な女の子。驚くほど声と見た目が似合わない。ふわふわとした見た目に少し低めの声。


「ねえ、あおい。どう思う?」


 わたしはさあ。としか答えなかった。この女の子、さよりとは合格発表の時に少し話した程度だった。それなのに馴れ馴れしい。それほど仲良くなった覚えは無い。

 ポーンと音が鳴り朝の課外が始まる。


「猫組、おはよう。担任の茶菓来さからいだ。君たちは3クラスのうち最上位クラスの10人だ。心して生活しろ。」


 最上位クラス。それが何を意味するのかこの頃のわたしにはわからなかった。


「変だね、最上位クラスって。さより入試最下位だったのに。」


 さよりの言う通りだ。私たちは入試の結果最下位とその次だった。なのに最上位なんて。


「クラス分け方法が気になるか?」


 ひそひそと話す私たちを見て担任が言う。


「なに、すぐにわかる。課外は終わりだ。1限目の準備をしろ。」


 1限目、担当の先生がやってきた。


「あーい、担当のひいらぎですー。授業は明日からするよー。僕は眠いから寝る。教室から出ないで、静かになんかやっててー。」


 て…適当すぎる…。先生はすでに寝息を立てていた。

 私たちは仕方なく…全員寝た。正しくはわからないが少なくとも私とさよりは寝た。

 そのまま一限目は終了した。


 2限目。次こそはちゃんと授業を…。


「無理。おやすみ。」

 担当の木雨ささめ先生も寝た。と思う。

 私は2限目になって気がついた。1限目寝たしもう眠くもない。起きておしゃべりでもしていようと思っていた。なのに先生の一言、おやすみ。それだけで私は眠くなっていた。起きようとしても起きれない。急に目蓋が重くなった。

 理由はすぐに分かった。夢の中に木雨先生がいて、はっきりと声も聞こえていた。

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 あおいさん、君はこの話を聞かない方がいい。何しろ今年の新入生で1番----に近いんだ。

 -------

 肝心なところは聞こえなかった。

 そしてそのまま…1日が終わった。2限目に寝てしまった後、起きたときにはもう誰もいなかった。

 寮に戻ろう。私はすでに誰もいなくなった教室を出た。寮に着き部屋を開けたその瞬間。


「おっつかれー!」


 猫耳姿のさよりがいた。


「なんでって顔してる!あおいが寝てた間に色々説明があったんだよ!」


 さよりの話によると私たちはは神使候補らしい。入学式の目隠しはその仕分けだった。そうして仕分けられた私たちは二人一組を組み、今後その二人で卒業まで過ごす。


「ふふー。それでね、私たちは何系神使か不明組。今のところ狐でも犬でも猫でもない。なんなんだろーね?あ、ちなみに私のこれはただのカチューシャ!あおいのもあるよ!」

「え?」


 どうも入学式の仕分けでは分けられなかったようだ。この学園始まって以来だと言う。

 素質がないと言う理由で分けられなかった入試合格者は隔離棟で私たちとはまた違う生活をし、その者たちが外に出て政治家や成金などになっていく。この学園が厳しくとも自由だという噂はこの隔離棟での話であった。しかし、素質はあるのに分けられなかった、と言うのが初めてらしく、教師たちにはどうすることもできずとりあえず猫組に、ということらしい。

 神使だとか神だとかよくわからない事ばかりだが学校を辞めるわけにもいかないしなんとかやっていくしかないのだろう。


 翌朝。

 神使候補の生徒たちの部屋から悲鳴が聞こえた。彼らには獣耳と尻尾が生えていた。そして私にも。とても美しい白い獣耳と程よい太さで艶のある尻尾。


…それが9つも。


 混乱を防ぐ為か教師が寮内に複数人いて、生徒をなだめている。


「今日は全員体育館で皆さんのその神使候補の証、耳と尻尾のコントロールトレーニングをするので運動着に着替えて9時半に体育館集合してください!混乱している生徒を見かけたらすぐに教師に教えてください!」


 私も全く混乱していないわけではない。しかし混乱したところで何か変わるのだろうかと冷静にもなっていた。


「あおい…。」


 ひょこっとさよりが部屋から顔を出した。さよりにはどんな変化が…と思い舐めるように見たのだが、さよりにはなんの変化もなかった。


「私…失格なのかな…。」


 失格。昨日私が寝ている間に説明があったことだ。私たちのように動物でクラス分けされた生徒は神使に相応しくないと判断されると失格となる。失格すると隔離棟に行くか地元に戻るかを選択することができるが、隔離棟に行っても地元に戻っても通常の生活に戻ることができる生徒は一握りで、ほとんどは塞ぎ込んでしまい、部屋から出ることがなくなるという。

 しかし私たちは分類できなかった人間。失格がどの程度でなるものなのかがまだわからないので断言はできないが、おそらく失格ではない。私の直観がそう言っていた。


「あおいさん、さよりさん、こっちへ。」


 担任が手招きしている。私は部屋から出たがらないさよりに昨日猫耳カチューシャと羽織を着せ、担任のところへと連れて行った。

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