神様と猫

動かされている点P

第1話

「ねぇあおい、この世にはね、八百万の神様がいるのよ。八百万しかいないわけじゃないの。ものすごく沢山いるの。今もあなたを見ていてくれて護ってくれる神様がいるのよ。だから神様に大事にして貰えるように、神様を大事にするの。辛い時はね心の中で神様に言うの、私をここから出してって。

いつもとは限らないわ。自分で戦わないといけない時もある。でも自分ではどうにもしょうがない時、きっと手を差し伸べてくれる。お母さんはそれであおいに会えたの。あおいがいたから頑張ってくることが出来たわ。お母さんがあおいを大事にしているように、お母さんがあおいを愛しているように、あおいは神様を大事にしてあげてね。」


 幼い頃の母との記憶。最後の記憶。この会話の後母は旅立った。二度と会うことの出来ない場所へ。私はこの時の母の最後の教えを今でもしっかり守っている。半信半疑ではあるが、思い出すことで母がそばにいるように感じ、安心できた。母がいなくなったあと、私は親族の家を転々としたものの、元々疎遠だったこともあり馴染むことができなかった。

 その後施設に引き取られ、この春高校1年生になった。18までは施設に居ていいのだが、高校生は高校の寮や一人暮らしを選んでもいい、という施設長の計らいの元、私は施設を出て華ヶ崎学園の寮に入ることにした。


 華ヶ崎学園は離島に作られた全寮制、自由主義の学園。自由主義とは言っても学園基準の成績、成果、結果を出せなければ自由ではない。もちろん入試も厳しく、一般的な中学生、その家族には知名度は低いが、政治家や成り上がりの経営者の出身高校はほぼこの華ヶ崎学園だと言っても過言ではなく、中でも施設出身者にとってはこの先の人生を変える場所として有名である。これまでの15年の「施設育ち」と他人から蔑まれたこともある人生、この先も続けるのかそれとも蔑んできた者を見返し、胸を張って生きていくか。私は後者を選んだ。華ヶ崎学園に入るため、人生を変えるため、私は必死に勉強して、奨学金、寮費無料を無事取得した。


 そして今日、入寮日。私は人生を変えるためにここに来た。気合いをいれなければ潰されてしまう。


「ようこそ。華ヶ崎学園へ。荒波を乗り越えてここまで来た皆さんを歓迎します。入学おめでとう。私は寮母のやすりです。好きに呼んでください。」


 寮母さんの挨拶の後それぞれ案内されて無事入寮した。荷物整理後、学校の体育館に集合するようにとの話があり向かった。


「合格、入寮、おめでとうございます。学園理事長の岩倉です。よろしく。ここにたどりつけたのは今年は85人です。選ばれた皆さん、おめでとう。入学式の前にクラス分け試験を行います。今から配るアイマスクをしてその場に座って下さいね。」


 試験だと聞いて体育館がざわついた。当然だ。何も聞かされていない。しかしざわめきもすぐ収まりアイマスクが配られそれぞれが座っていく。漏れなく私も座った。


「何も見えない人は手を挙げて。」


 アイマスクをしているのに何かが見える人なんているわけ…。あった。見える。何かはわからないけどぼんやりと。ふっと意識が途切れた。

 気がついたら寮にいた。近くに置いてあった手紙には合格とだけ書かれていた。何のことだかわからないし、悪戯かもしれないとも思い、気づかないフリをした。

 意識が途切れる前、母が見えた。あおい、がんばってね。と言われた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る