第16話 しるし

鉱石店の店主からしてみれば、お宝の山が目前にあるも同然の場所。

気合いも入ろうというモノだ。

ニヤニヤ顔が止まらない。

しかし、はたと何かに気づく。

『土が軟らかい』

ロダはハンマーをスコップに持ち替えて、掘ってみると楽に鉱石が掘れた。

『もしかして』

スラールの方を見た。


ピィーーーーユ!


口笛が響く。

スラールが走って下りてきているのがわかった。

下ではダノンが両手を挙げてジェスチャーしていた。

『早く戻ってこい』

両腕を大振りしている。

ロダより上の方で採石していたタタンに向かって、ロダが叫ぶ。

「逃げろ、タタン!早く!」

3人が逃げ始めているのを確認したら、ダノンはくるりと向きを変えてトンネルに向かって口笛の合図を送っていた。


ピィーーユ、ピィーーユ!


「はっはっはっは、やべえぞ」

息を切らしながら走るスラールがタタンに追いついた。

鼻に付けていた器具を外して言った。

「走れ!それしかねぇ!」


先ほどまで鳥のさえずりや羽ばたき音が聞こえていたはずなのだが、静寂が周辺を包んだ。

空の色が青から紫にスッと変化した。

丘の稜線の向こう側が赤く光り、次に炎が立ち上がった。


ゴオオオオオオオッ


同時に聞こえる羽ばたきの音。

2匹が空を舞っている。

そのうちの1匹が炎を吐いてきているのだ。

なにやらかなりご立腹の様子。

いかりのままに焼き尽くそうとしているかのように見えた。

「スラールさん、あれ、ドラゴンですよね?なんで?」

「はっはっはっは、聞いておらんのか?ロダに」

「聞いてませんよー!」

「とにかく走れ!それが先だ!」

ぜはぜはと肩で息をしながら走るスラール。


ずぼおっ


タタンの足が穴にハマった。

先ほどスラールが鉱石を掘り出した場所だ。

そのまま前にバタンと顔から倒れた。

鉱石が入った麻袋とハンマーが手を離れてゆく。

宙を舞ったハンマーが近くの鉱石に当たり、周辺に音が響く。

いち早く気がついたスラールは柔らかい土に足を取られつつも上体を低くして向きを変えた。

即座に背中のアックスを取り出して前に持つ。

眼光が鋭くなった。

タタンの場所まで走って戻り、タタンの足下側に立って、腰を低くして身構えた。

「くるぞぃ」

丘の稜線を越えた炎がこちら側に向かってくる。

炎を吐き出している一匹のドラゴンも目視できた。

目が合った。

…ように感じた。

「ロックオンされたわぃ」

ちっ!と舌打ちをするスラール。

「タタン!はよ立ち上がれ!そして逃げるぞ!」

タタンを背に、遠くはドラゴンに向かって対峙している。

炎がスラール達を狙っているのがはっきり分かった。

S字に進んでいた炎の軌跡がまっすぐこちらに進んできたからだ。

「ウォータープロテクトっ!」


ぶわぁっ


スラールの目前で炎が真っ二つに割れた。

地面から2メートルぐらいの棒状のモノが立っていた。

蒸気が一気に周辺を包んでゆく。

「ふん、ぺたリコめ。遅いわぃ」

ドラゴンと目をそらさずにタタンへ指示を出す。

「タタン、立てるか?立ち上がったか?」

「…は…はぃ…す…すらーる…さ…ん」

目前の炎と蒸気で体が熱い。

視線の先にあるドラゴンに身震いが止まらない。

ロダがタタンの所に戻ってきた。

「ケガしたのか?立てるか?」

蒸気に紛れてこの場を離脱することになった。

タタンは立とうとしたが、右足首をひねったらしく痛みを訴えた。

ロダが肩を貸してタタンを連れて進む。

ゆっくりゆっくりとその場所からトンネルに向かって、蒸気に紛れて後退していった。


マバディリーコがトンネルより飛び出して、走ってきていた。

ウォータープロテクトでスラールたちのガードを行い、合流したダノンと一緒にタタンの元へ向かっている。

そちらに向かって、もう一匹のドラゴンが炎を吐いてきた。

「熱いわね!」

こちらにもウォータープロテクトを使い、蒸気による周辺の視界を見えなくした。

このドラゴンが蒸気に向かってS字に炎を吐き始めた時、赤い魔方陣が浮かび上がった。

その魔方陣はドラゴンの炎をかき消した。

このドラゴンは何かに気がつき、もう一匹のドラゴンの下側から突き上げるように体当たりした。

二匹のドラゴンは上空高く舞い上がったと思うと、何か争っているように見えた。


「今のうちだ!」

スラールが叫ぶ。

蒸気に紛れて4人がマバディリーコの横を走ってゆく。

「リコ!」

二匹が上空でつかみあったり、炎出したり、体当たりしたりしているのを見上げたまま動かないマバディリーコ。

「早く逃げろ!」

スラールが険しい顔をしている。

マバディリーコは三角帽子のつばを人差し指と親指でつまみ、首だけをよこにずらしてタタンを見た。

タタンの背中にあるアックスがほのかに赤く光を帯びていた。

「ふゥん…」

再度、上空に目を向けると言った。

「もう大丈夫かもね」


「はぁ?」

スラールは目を丸くして口を開けた。




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