第14話 斥候

トンネルの中は薄暗い。

中に入ってしまうと真っ暗な状態になり、出口の光だけがぽつんと見えた。ただし、見えたのは背の高いマバディリーコだけだが。

入口は岩と岩の隙間であり、横幅60センチメートル、高さ2メートル。すんなりと人が進むことができる感じだ。奥行きはだいたい3メートルぐらいだろう。

入口の狭さに比べて、中は高さ5メートル、横幅3メートル、全体的に蹄鉄ていてつのような形状をしている。時々横から壁がせり出しており、ジグザクに進まざるを得ない構造になっている。

「なぜ直線でつくらなかったんでしょうね」

タタン疑問にロダが答える。

「魔物とか龍とかを警戒して作ったんじゃろうなぁ。とはいえ、この突き出した壁は入り口や出口近くにしかないからのぉ」

「ふっふふふ。出口の壁は上下左右真っ黒よ。溶けてる壁もある。いつごろの跡かは分からぬが、見たら驚くぞぃ。はっはははは」

ぶるりと震えるタタン。

ざっくざっくと歩く音がトンネルの中で響く。

ふたつの松明たいまつによって、投影された影がゆらゆらと踊るように壁に映し出される。

ひとつはスラール、ひとつはタタンが持っている。

タタンの持つ松明がゆらゆら動くたびにマバディリーコは少し後ろに下がる。

「んもう…、帽子に火がつきそうじゃないのぉ。たーくん」

「あ…すみません」

「ほっとけほっとけ。耐炎魔法かけとるじゃろうから燃えんじゃろ」

「そうなんですか?」

口をとがらせて頬をふくらませた彼女はスラールを睨んだ。

何かをひらめいたみたいに彼女はタタンに後ろから抱きついた。

松明の炎が彼女の帽子に当たる。

「真っ暗だし、火遊びしちゃおっか?」

耳元でボソボソとつぶやいてみる。

「うわぁ!」

反射的に前に飛び出してダノンにぶつかった。

「んだ?」

「すすす、すいません」

「ぺたリコ~、お前なにかやったな?」

「さぁ?なにかしら」

「魔物もいなさそうではあるが、注意してくれよ?」

「はぁ~い」


出口近くになると周囲の様子が見えるようになってきた。

「松明を消すぞ」

土をかけて消火。帰り道でも使うため、水はかけない。半分埋めた状態にしておく。

「すごいですね。真っ黒だ」

タタンは目を見張りつつ壁に手を差し出した。

「もう少し先の張り出した壁は溶けているからな。たぶん1000度近くじゃろう。タタンもその温度に迫る場所で作業してるじゃろが」

「いやいやいや、800度くらいですって」

「ほう、どちらにしても熱そうだはっはっははは」

突き出した壁の上部が沸騰した泡のようになっていたり、溶けて丸まりかけていたりという現場を見たタタンは『ふー…』と息を吐いた。


トンネル出口10メートル手前にある突き出した壁に隠れて、音と光を見る。外の様子がどうなっているのか音による判断、光は暗闇に慣れた目を通常の状態に戻すためだ。

スラールが手招きでダノンを呼んだ。

耳元でボソボソと指示を出すと、頷いたダノンが斧を前にしっかりと握りしめて出口右側の壁に背をつけた。

『はーっ、ふだっ』

彼の姿が見えなくなった。

次にロダが手招きで呼ばれた。

同じくボソボソと話したと思ったら、ロダはその場所で動かず、スラールが出口左側の壁に背をつけた。

『はーっ、ははっ』

左に向かって走って行った。


どれくらいの時間がたったのだろう。

タタンは暇を持て余したマバディリーコにまたまた背中からだきつかれていろいろと触られまくっていた。

「ちょっと、リコさん…やめ…」

「あらぁ~?体は正直ぃ~?」


そのとき出口から二人が現れた。

「よしっ!大丈夫だ!!」

「んだんだっ!」

「早く採取を開始しちまえ!」

「行くぞ、タタン」

「はい、ロダさん!」

するりと彼女の腕から抜け出て、出口に向かっていく二人。


「また逃しちゃったぁ~」

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