第11話 落下するヨッパライ

木々や草が彼女の進む先からよけてゆく光景を彼女の背中を見ながらつぶやいた。

「ワシはこの景色慣れんなぁ。酔うわ」

スラールから豪快な笑い方は失せてしまっていた。

「どうせ酔うならこっちじゃろ」

腰からスキットルを取り出して一口飲んだ。

「スラール、現地に着いてすらいないのに早くもかよ」

ロダがムッとした声で言った。


現在のパーティの並びは以下の通りである。


先頭にマバデイリーコ(通称ぺたリコ)。

次にスラール、ロダ、タタンそして最後尾にダノンである。


しばらく進むと暗き穴の入口にたどり着いて止まった。


振り向いた彼女が紐を取り出して全員を囲むように輪を作った。

横から見れば電車ごっこそのものである。

「ここからは言うことを聞いてね~」

タタンはこの紐はなんだろうとじっと見ていた。

「質問うけつけるわよ~?はい、タタンくぅん」

思わずタタンはキョロキョロした。

何も言ってもないし、手も上げてないからだ。

にこっ

「勝手なことすると戻れなくなるから」

「えっ?戻れなくなる?」

「そうよ」

目が笑ってない。

「3点だけ守ってねぇ」


① 紐から出ない

② 両手で紐を持つ

③ 童心に戻る


『ん?なんか変なの混じってないか?』

タタンは本当に疑問に思った。


マバディリーコが歌い始めた。

民謡のような童謡のような曲だ。

流れるような旋律を耳で聞きながら歩を進めてゆく。

10歩ぐらい進んだときだった。


「おわっ!?」


スキットルをまた取り出して、酒を飲もうとしたスラールが落下した。

紐から両手が離れたのだ。

瞬間的にぺたリコのマントをぐっとつかんだ。

その時、一緒にお尻をぎゅうっとねじってしまった。

「きゃう」

かわいい悲鳴と彼女の足が一緒にでた。

瞬間的に後ろへ出たマバデイリーコの右足かかとがスラールのみぞおちにヒットした。


「うごぶあーーぁ~~ぁ……」


たまらずマントから手が離れてしまったスラールは、落下と共に声もちいさくなっていった。

ふぅとため息をついた彼女。

「しかたないわね」

唇の前に小指をすっと前に出して軽く何かをつぶやきながら息をかけた。

小指の第一関節がポワッと青白い光に包まれる。

「ふりだしに戻るか、ゴールにつくかはあなたの運次第よ?」

その指先を空中にかざし、文字と図形を書いた。

の者をこの空間より移動させたまえ。キンリシ!」

聞こえていたスラールの悲鳴がすっと消えた。


「バカはほっといて進みましょ」

もぞもぞと手を動かすマバディリーコ。

スカートと下着の位置を直している仕草がマント越しにわかった。

後ろに並ぶ男どもは

「ほう」

「ロダさん…」

「んだ」

それぞれの感想を述べた。

アゴに手をもっていったり、腕組みしたい衝動にかられながらも、自分が落ちるのはごめんだといわんばかりにしっかりと紐を握っていた。


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