第10話 空腹の魔法使い

山の中腹まで来た。

獣道のようでもあるが、事実、何十人と往復して踏み固められた道となっていた。

ロダはため息交じりに道とさらに続くその先を見た。

「ったく、俺たちの採掘場を探し回っている奴らがいるな。それもかなり」

「がはははは!ロダよ、何の商売でも敵はいるもんだ!」

「んだ」

スラールは笑いながらロダの肩を叩いた。

相槌をうっているのはダノン。

後方をぜぇぜぇいいながら歩いているのはタタン。

会話なんて聞こえてない。



現在のパーティは5人。

攻守 : スラール

ガード: ダノン

ガード: ロダ(鉱石店主)

素人 : タタン(鍛冶師)

の守りの布陣で強化してある。


5人!?


最後尾にとんがり帽子にマントとミニスカートのお姉さんがついてきていた。


びくうっ!


タタンはすごく驚いた。

振り向いたすぐ後ろに音も立てずについてきていた人がいたからだ。

しかし、他の三人に驚きの様子はない。

ロダたちが声をかけた。

「いよぅ!ぺたリコ。来てくれると思ってたぜ」

「マバディリーコよ。誰がぺたリコよ」

「相変わらずじゃな、いろんな意味で」

「うるさいわね」

「んだんだ」

「そう?」

しりもちついたタタンを見下ろすマバディリーコ。

タタンを値踏みしてちらりと舌なめずりをした。


身長が180センチはあろうかというスレンダーな女性が音もなく近づき、目の前に立っている現実に驚いていた。

そして耳と頬がだんだんと赤くなっていくタタン。

ついに視線を外した。

スカートの中が見えてしまったからだ。

『あらぁん』

少し内股になって半歩下がった。

しかし、マバディリーコの瞳はタタンをロックオンした。


「ところで」


ロダがつづける。

「あら、ね」


????


タタンは何が何だか分からなかった。

ピンときたロダがすぐに荷物からポーションを出した。

「ケガしてるだろ。足か腕か分からぬが、飲んでおけ」

受け取ったタタンは目を丸くした。

そしてこうも思った。


『乳首から血がにじんでいるのは黙っておこう』


顔がどんどんとさらに赤くなっていくのが自分でも分かった。

それを見逃さなかったのはマバディリーコ。


『あらぁん、かわいい』


「さて、ぺたリコよ。目的地と報酬の話にはいっていいか?」

「いいわよ?」

タタンの横にヒザを折ってしゃがみ、ほほを人差し指でつつきだした。

「目的地は採掘場。先行案内と後方支援を頼みたい」

「あらぁん、攻撃はしなくていいの?」

「わしらはあんなデカブツと事をかまえたくないんじゃ。目的のモノが採掘できたらトンズラじゃい」

「ふぅん…。賢明ね」

人差し指でタタンの鼻先をゆっくりと『の』の字に触って遊んでいる。

「報酬は銀貨3枚」

「7枚よ」

「5枚でどうじゃ!」

「…いいわ」

くるくると回していた人差し指をタタンの唇に押し当てる。

ウインクするとマバディリーコは立った。

ロダがタタンに手をさしのべる。

タタンはがっしりとつかみ、立ち上がった。

「さてと」

マバディリーコを見上げるロダ。

「最短の道を先導してくれ」

「ロダさん、道はまっすぐ見えてるじゃないですか」

いぶかしがるタタン。

「この道はいずれ無くなる、つまり行き止まりだ。そこからは迷いの山へと進んでいる。わしらが行くのはそちらじゃない」

「うわっはははは!迷ってしまってから元の道に戻るだけでも1日かかるわ!」

「んだんだ」


『……………』


道に対して直角の方向を向いて、何かを唱えていたマバディリーコ。

木々や雑草がぐにゃりと曲がり、トンネルが現れた。

手招きされたタタンの右手を左手でとると、ゆっくり歩き始めた。

「なんじゃい、わしらはオマケか」

「そうよ」

「食うなよ」

「たべないわ」

「食うなよ」

「たべないわよ」

「ん~…だめ、ゼッタイ」

「なによう」

「ちょっと、ロダさん。食うって何を!?」

「うふふふふ」

「ロダさーん!」

マバディリーコが一歩進むごとに草木がよけていくようにするりと風景が流れていった。


「わしらを放置して食うなよ?採掘の後ならかまわんが」

「ちょっ、ロダさん?!」


不安の混じる弱々しい声が木々に吸い込まれていった。









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