第6話  少年の宣言

バアン!


大きな音と共に少年少女が地下工房の勝手口から入ってきた。

目をキラキラと輝かせて、ふんぞり返った少年。


「タタン!タタンはおるかー!」


少年の甲高い声が工房内に響き渡る。

工房の奥の方でマルコの治療をしていたタタンは立ち上がった。

「はい!お師匠!さ…ま…?」

少年はタタンを見つけるとずかずかと工房に入ってきた。

ハッと我に返るタタン。

「だめだ、だめだ。少年!ここは立ち入り禁止だ。入ってきちゃいけない。ストップ、止まれ、ステイ!!」

少年がびくっと一瞬止まるが、さらに歩みを進めてきた。

「子供は入ってきちゃダメなんだ。きけんがあぶないものがたくさんあって、あそぶものなんて…あるな…いや無いからいますぐ出て行きなさい怒るぞプンプン!」

わたわたと焦っているタタンの言うことなど聞くそぶりすら見せず、ずんずんと工房の奥まで少年が入ってきた。

タタンを見上げる少年。

「生意気そうな小僧っすね。俺の弟子でどうっすか?」

横から口をはさむと少年は目をぎょろりとマルコを睨んだ。


「マァルコォー!!」


高周波でも出したかと思えるほど耳の奥がキーンとなった。

「きさまぁ、あれほどケガするなと言っておるだろうがぁー!」

マルコが目をまん丸にして直立不動状態で固まった。


『親方だっ!?』


「ケガをすればポーション代もかかる。しかしなにより治るまでの間何も出来なくなるだろうが。何もできなくなるということは、カンがくるってくるということだ。いいか?いままで積み上げてきたことが期間をあけることによって中断され、体にしみこませてきた技がくるってしまう。そうなると元に戻すために更なる修正が必要となるんじゃ。場合によっては最初からやり直しになる。特にお前は体の成長期でもある。昨日覚えたことを今日同じにはできない。成長しているからな。毎日、やっていれば少しの調整だけですむ。そして次の段階にすすんでいけるというということをなぜわからん!そもそもだな……」

ボンビールが説教を始めると止まらないことを二人は知っている。

二人は顔を見合わせてうなずいた。


「聞いとるのか!?」

腕組みした少年が二人を見上げながら睨んだ。


これから小一時間はかかることを予想できたタタンは遮って言った。

「あの…お師匠様?どうしたんですか、その姿」

青ざめつつヒクついた頬を無理矢理右側の口を上げて笑顔を見せるタタン。

「おう、これか?若返っちまった!ぐわっはっはっはっはー!」

『『!!??』』

「な、なんで」

「さーな、わすれっちまった。」

「いや、えと、そうじゃなくて、どうするんですか?」

「うむ…じつはな、旅に出ようと思う」


「「「な、なんだってーーー!?!?」」」


二人に加えて、勝手口に立っていた少女の声も加わった。

「いや、お師匠様。その体でこの店を…じゃなくて、たびぃー??」

両手をわたわたと動かしながら何をしゃべればいいんだ?的な顔をしながら口をパクパクしているタタン。

勝手口からずかずかと少女が歩いてきた。

少年の襟元を鷲掴みにすると、平手打ちをかました。


スパーン!


パチーン!


往復である。

「はーっ。あんたっていつもいつも…。わかった!私も行く!」

目の前の出来事にますます目を見開いて口が開いていくタタン。

「お、奥様…です…か?」

こくりと頷く少女。

「「ええーーーっ」」

驚く二人。

「あのシワシワのババァが…」

あわてて口を塞いだマルコに正面から正拳突きが放たれた。

一回転して壁に叩き付けられたマルコの上から荷物が落下。

「はぐっ」

気を失った。

問題無さそうだとマルコを確認したタタンは二人に向き直った。

二人の前にかがんで座り、見上げる体勢をとった。


「それで、どうなさるおつもりですか?」


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