第4話 虹色

部屋の中で座り込んでいる二人。

閉じられた部屋のドアに向かって男の子が腰を抜かしたような座り方になり、へたりこんだ女の子が男の子を後ろから抱きかかえていた。

男の子「なんだったんじゃろうなぁ…」

女の子「う」

男の子「う?」

女の子は男の子のえりを引っ張った。首が絞まる男の子は「ぐえ」と妙な発音をし、後ろへ振り向こうとした。


うおええええええええええっ


男の子「あーーーっ?!あーーーーっ?!ぎゃーーーーーーーっ!!」

服と背中の地肌のスキマに生温かいものが注がれてゆく。

男の子「ちょっ、おまっ、トーーリィーーーン!」

男の子は上半身をぶるぶるっと震わせ、前身に鳥肌を立てた。


かはっ


ひとしきり吐き出した女の子は天井を見上げた。

口をもごもごした後、再度襟を広げた。


かーっ、ペッ!


男の子「うおおおぃっ?!」

女の子は男の子の襟を首にくっつけて叫んだ。

女の子「外!」

何言ってんだこのアマァ的な視線を向けられた女の子はさらに命令した。

女の子「早く!」

言いたいことがあるけどな!そういう感じに睨んだ男の子はダッシュで部屋のドアを開け、さらに玄関のドアは体当たりで開けた。

転がる男の子、まきちらばる液体、周辺は草花の香りから悪臭へと一気に転換した。


草の上にうつぶせになったまま動かない男の子。いや、ときどきビクッと動いてる。そこへ20Lは入る木の桶に水を入れてやってきた。

うんしょ、うんしょ、と。女の子にとってそれはかなり重い。

男の子のお尻の上にそれをドスンと置いた。上半身と足が反動で少し動いたが、ぐったりしたままだ。なので、桶を足で蹴った。

水は背中から後頭部へとザッと流れたが男の子が起きる様子はない。

刺激臭はまだ濃く、鼻をつまみながら桶をひろいあげて水をかける作業を5回続けた。

女の子「さすがにつかれたのぅ」

玄関横の岩に腰掛けてふぅと一息ついた。

白目むいた男の子の様子が女の子から見て取れた。

女の子「じーさん!昼から用事あったんじゃないのかい!?」

ぱちりと白目から黒めに切り替わった。

男の子「そうじゃ!若いモンに任せていた剣の最終チェックせねば…ぐあっ!ばーさん、何食ったらこんな臭いになるんじゃ???」

女の子「…」

女の子がアゴで男の子の視線を誘導した。


全身洗え。


そういうことらしい。

男の子は、はぁ~とため息ついてのろのろと起き出した。

すごすごとしかも頼りない足取りで河から引き込んだ用水路の洗い場に向かう。50cmほどの浅い石畳の水路の中に立ち、服を脱ぎフンドシ一枚になった。脱いだ服を洗ってから臭いを確認したところ、まだ刺激臭が残っており、顔をそむけたところバランスを崩した。


ザッバーン


川面に浮かんだ男の子が目にしたモノは河をまたぐ虹だった。


「さいあくな虹じゃい」

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