鍛冶屋 トール

第1話 しずまりたまえ、しずめたまえ

昔むかしあるところにおじーさんとおばーさんが住んでおりました。

おばーさんは山へ松茸を採りに、おじーさんは川へ砂金を採りに行きました。

すると川上より、どんぶらこ どんぶらことあどけなくもありイケメンなドワーフが流れてくるではありませんか。

おじーさんは迷いもせず、足で彼を踏みつけて沈めました。

しばらく片足で沈めたまま仕事をしていましたが、彼が暴れる様子も無かったので岸に引きずり上げて人工呼吸をしました。

「本当に溺れた少年であったか…」

物騒な世の中なので、溺れたと見せかけて襲うとか、仲間が近くに居て集団で襲ってくるなどを想定していた上での行動でした。

「しかし、なんでまたこんな所に流れてきたのじゃろうか」

おじーさんは白くて長いあごひげを3度なでながら考えました。


「ふむ、わかった!」

ひざをパンとたたくと立ち上がりました。

「ハラが減ったのが分かったので帰るか!」

虫の鳴き声かと思いきや、腹の音だったのです。

コロロロロ コロロロロ コロロロロロ

川岸では他にも

スイッチョン スイッチョン

キューヒィー キューヒィー

ヒーォ ヒォ ヒィオヒー

などなど、そこそこに賑やかしくもありました。



おばーさんはたくさん採れたキノコを使ってスープを作っていました。

そこへおじーさんが帰ってきました。

「ばーさん、メシはまだかいの?」

「じーさん、もう食べたでしょ」

「いや、くっとらんぞ。マジで」

「何言ってんですか、ろくに砂金を採ってこないごくつぶしが!」

一触即発。

おじーさんがふぅとため息をついた刹那、おばーさんが鍋の蓋を持ったまま飛んで襲ってきました。

「ホァーッ!!!」

ぎょっとしたおじーさんは入口の戸口に使う、つっかえ棒を握り応戦しました。

ひっくり返ったままでつっかえ棒を盾代わりに身構えるおじーさんをおばーさんは見下ろして言いました。

「71点」

「!?!?!?」

わけがわからないおじーさんは目を点にして、しばらく動けませんでした。



いったいどのぐらい時が経ったのでしょう。


「そんなところでいつまで転がってるつもりだい」

囲炉裏のそばからおばーさんが言いました。

はたと正気にもどったおじーさんは顔を両手で上から下までなでると、ふぃーと一息つきました。

よっこらせと立ち上がると、囲炉裏のそばへ向かいました。

「ところでじーさん」

「なんじゃい、クソばばぁ」

ビキッ

「き よ う は な に も と れ な か つ た の か い ?」

あわわ

「いや、砂金も採れたし、若いドワーフも採れた」

「はぁ?ホントにボケちまったのかぃ?何も持ってないじゃないか」

おじーさんは周りを見て、口をO《オー》の字に開けたまま固まりました。


「忘れてきた!」


おばーさんの顔が般若のように変化するのを見たおじーさんはひれ伏して心の中で

唱えました。


怒りよ、おさまりたまえ、しずまりたまえ…

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