プロローグ:居酒屋ボラチョ

「いい…」

誰かがボソッとつぶやいた。

うんうんとだまってうなずく者多し。

視線を感じた彼女がくるりと店全体を見渡す中、時々視線が合う者がいるたびにウインクをしている。

チラ見してた輩はあわてて別の方向へ視線をそらした。


居酒屋ボラチョに集まって、わいのわいのと盛り上がっている一角である。

いつもなら12あるテーブルの半分も埋まれば客の入りが多い方なのだが、今日は何があったのか満席状態。臨時に丸太椅子を出したが、それでも足りなくて立ち飲みを決め込む輩がわいのわいのと楽しくやっていた。


「あやつの女房じゃ無かったら、速攻で口説くのじゃが」

キラキラキラーン

一人の発言を聞いた男たちの視線が鋭く輝く。

その視線の先には一人の女性に行き着く。

身長が男どもの1.5倍。衣装から出ている肌は時々筋肉の筋が動くのが見え隠れする。

しかし、ボン キュッ ボンとしたラインは服からあふれんばかりにたわわに実っていることがよく分かる。

そう、言うなればオクトーバーフェストで着られるディアンドルな衣装なのである。

とはいえ、他の女性たちも背の高さは同じくらい。しかもみんな明るくフレンドリーなのでそれぞれの好みは千差万別といったところである。

ただ、このテーブルの男どもの視線は一人に集中していた。

「まさかと思うが、彼女目当ての客が割り増しで来てないか?今日は」

ちっ!という舌打ちはかき消されるほどに、にぎやかである。



「はい、おまちどうさま」

彼女が両手に9本のジョッキに入った生ビールを一度に持ってきた。

ドン ダダダン

「おほーっ、まっとったぞい」

「ほれほれ、配れ、くばれ」

ごくごくごく

「かはーっ!うめぇ!」

「うおいっ、乾杯しねーのかよ」

「かっかっか。短気なのはみんな一緒じゃ」

「オレのだけぬるい…?」

「あら、ごめんなさい。ワタシの愛で温められちゃったみたい、ごめんね」

軽くウインクして、その場を離れる彼女。

「オレ、惚れそう…」

隣に座っていた奴が惚れそう宣言した者の首を抱え込んだ。耳元で低い声で話す。

「惚れるのは勝手だが、手を出すなよ?俺たちのマドンナであり、ヤツの女房だ」

腕を放すと、両手を天に向ける恰好をしてハッと軽く笑った。


「今でこそ、すごいべっぴんさんじゃが、お主知らんじゃろ?昔の彼女見たら引くぞい」

ひとりのドワーフを囲むように円陣が組まれてしまった。

「お前は研究だーと言って、鉱物の山に一人で住んでたものな」

「いや、実験じゃーつうて部屋に閉じこもっとったと聞いたが」

「一人で毎分自家発電をしておったと聞いたぞ」

「はて、呪いの泥人形を持って山に走って行ったとか」

「奇妙な歌声と笑い声がコイツの部屋から聞こえていたのでは?」

「はて、ワシが聞いたのは親に向かって棍棒振り回したが、ボコられて死線を越えたと…」

「それ死んどるがな」

ぐわっはははははははは!!


「では、彼女の事を何も知らないというか、世間にすら興味の無かったお主が惚れ

ちまいそうになる彼女が何者か、教えてやろう」


「「「「俺たちが!」」」」

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