クッキーにかけて
おやつがなくなった。
ママの手作りクッキー。6個あった。
食べようと思ってたのに。
知らない間に3個になってる。
おうちには僕だけだし。食べた覚えもない。
でもクッキーがなくなった。
よーし。残りの3個で犯人を捕まえてやる。
ぐう。お腹が鳴った。
ぐう。お腹が鳴った。
ぐう。お腹が鳴った。3度目の正直。
やっぱり食べちゃおうと思ったら、僕の口からむくむく煙みたいな僕が出た。
むくむくの僕はぱくぱくクッキーをほおばる。
それは僕のだぞ。
じゃあオレのだ。
お前は誰だ。
オレはお前だ。お前のハラのムシだ。
ムシのくせして僕の格好してるぞ。
当然だ。お前のハラのムシだもの。お腹を鳴らしていつも教えてやってるハラのムシだもの。
さっき6個のうちの3個食べたろう。
いいや。数え間違いだろ。
僕はまだ6歳だけど、30までなら数えられる。
だから時計も読める。ママが帰ってくる時間だって知ってるぞ。
正直にいえ。結局全部食べたな。
ああ、食べた。
どうして食べたんだ。
お腹が減ってたんだ。減りすぎてムシの息だった。
僕もすいてるぞ。
でもムシの息ってことないし、もうクッキーないし。
どうしてくれる。
どうにもできない。
じゃあ早く僕の中に戻れ。
いや戻らない。
何でだ?
せっかく外に出たからだ。ちょっとぶらぶらする。
あ、おい!どこに行く!
あれ?ムシはどこだ。
なんだか腹が立ってきたぞ。
おーい、ムシ。どこだー。
あ、ムシのやつ階段にぶら下がってる。
どうしてそんなとこにいるんだ。
怒ってるのか?
そうだ。わかるのか?
当たり前だ、オレが良くないところに居るんだぞ。
ムシの居所が悪いのか。
あ、今お前オレのこと嫌なやつだと思ったな。
そうだ。わかるのか?
当たり前だ、ムシが好かないなんて悪趣味だ。
あ、時計の鐘の音。
ボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーン。
7つ。7時だ。
変だ、ママが帰って来ない。
いつも帰ってくる時間を1時間も過ぎてる。
どうしたんだろ。
大丈夫。もうすぐ帰ってくるぞ。
どうして分かるんだ?
信用しろ。ムシの知らせだ。
あ、ほんとだ。
ママが帰ってきた。
おい、ムシ。早く戻れ。ママが驚いちゃう。
大丈夫。驚かない。
どうしてだ。
ママにはオレが見えない。ムシする。
ほんとか?ママに聞いてみる。
ママにはお前も見えないよ。
どうしてだ。
クッキーがあったとこよく見てみろよ。
僕の写真だ。なんで。
ママ、なんで僕を見ずに写真見てるの。僕はこっちだ。ムシのやつなにかしたのか?
何もしないよ。
はっきり言うとオレはお前を連れに来たんだ。
どこに?
うーん。あっち。
あっちってどっちだ。
いろんな言葉があるからどれか一つに決められない。
教えろ。そんでもって僕を戻せ。
そんなムシのいいことがあるか。
ママが泣いてるじゃないか。戻せ。
むりだなー。
わーん。戻せ。
お前泣きムシになったな。んじゃあオレと入れ替わりだ。
どういうことだ。
今度はお前がムシになったんだ。
それでママがムシするのか?
違うよ。言っただけ。
じゃあ何でママに見えないんだ。
急なことでわかんないだろうけどお前は死んだんだ。事故で。
うそだ。
信号ムシの車にぶつかったんだ。幼稚園のバスごと。
うそだ。
ほんとだ。幼稚園のみんなはあっちだ。お前が最後だ。
どうして?
弱ムシだからだろ。
わーん。ママと離れたくないよー。
泣きムシだからだろ。
ふん,どちにしろあっちにはいかない。
そういうわけにもいかない。ならこうしよう。
いやだ。
まだ何も言ってないぞ。
どうせムシずが走るみたいな提案だ。
それは無理があるぞ。オレがしばらくこっちにいる。
僕のムシなのにこっちにいてどうする。
しばらくこっちに居てやるんだぞ。座敷童みたいに。
ざしきわらしってなんだ。
ムヵシ話を知らんのか?
それはマジで無理があるぞ。
ゴホゴホ。子供のユウレイだ。おうちにつく。幸せを運ぶんだぞ。
ほんとか?
嘘ついてどうする。オレは天使みたいなもんだから。嘘はつけない。
クッキー目当てだろ。
たとえそうだとしてもだ。
否定しないな。
ママ泣かずに済むのか。ママ笑うのか?元気になるのか?
笑うさ。
そんならあっちに行ってもいいぞ。
オレが残るならひとりで行かなきゃならないぞ?
お前が残るとママが元気になるんだろ。
そうだ。
んじゃぁ,一人で行ってくる。約束守れよ。
ああ,クッキーにかけて。
あれ,僕の体がむくむく煙みたいになってきた。
僕,行ってくる。
ママまたクッキー作ってね。笑ってね。幸せになってね。
コンコントローラー(仮) 小早川一 @tonkiti44
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。コンコントローラー(仮)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます