謎のエレベーター
あたしは12階マンションの9階に住んでる。
今あたしの両手には、パンパンに膨れたスーパーの袋。結構重い。
エレベーターに乗った。9を押す。動き出す。
ッチーン。あれ、えらく早い。
出口から見渡すと3階。押し間違えた。
もう一度9を押す。無反応。
慌てて1階を押してしまった。あーあ、振り出し。
するとな、な、んと。エレベーターが上がって行くではないか。
ッチーン。7階だった。
あたしは押した。9階を。力いっぱい。何度も。
ズルッ!ボタンがズレだ。やっちまった!
エレベーター壊した!
無情にも扉が閉まる。
え?下がる?
ッチーン。壊したんじゃない。壊れてたんだぁ。信じておくれよー!
3階だった。
その時さ!あたしの灰色の脳細胞は気付いたんだ。えへへ。気付いたのだぁ。
9の下の3の切れっ端に。
懸命な読者にはすでにおわかりであろう。
エレベーターのボタンの上に数字のシールが貼ってあったのだ!
6個ずつ縦2列に並ぶボタン。
本来は、向かって左列は下から上に1から6。右列は下から上に7から12になっている。
今それをきっかり左右逆転するようシールが貼られているのだ。
左列が7
から12。右列は1から6!
ってか、いかに良くできたシールとはいえ気付けよーあたし。
本当の9階を目指して3を押そうとしたとたん、しまった!ウカツだった。
エレベーターが下がりはじめたのだ。
誰か1階でエレベーター呼びやがった。この外道が!
あたしは自分の意志と関係なく、虚しく振り出しに戻っていく。
ッチーン。あたしは今まさに降りてきたような顔で、知らないご近所に笑顔で挨拶しながら降りたのだった。ちくしょー!
エレベーターが上に消えて行くタイミングで踵を返すと、猛烈な勢いでエレベーターのボタンを押した。
斜め後ろでの方で押し殺したような笑い声。子供の声。しかも複数。
あたしは般若の顔で振り返った。3人ほどの後ろ姿が素早く消える。もっといるか?
それを追いかけるように逃げていくのはあたしの娘じゃないか!
ママは悲しい。大笑いながら逃げてるし。
しかし子供にしてはイタズラの手が込んでる。列だけ入れ替えるとは!
これを計画、実行したはやつはかなりできる。
おまえを黒の組織のボスといおう。いや、あえて言おう、モリアーティ教授と。
あたしはしずしずと降りて来たエレベーターに乗りこんだ。
ゆっくり3を押した。勝ち-。へへーん、ざまーみろ。くるっとまるまるお見通し-。
だが良いかいたずらっ子たちよ。
あたしが持っているこの大袋の中身を知ってなお、その笑いができるかな?
この袋のなかには、なななんと!
子供会主催のハロウィンで君たちに配るお菓子がパンパンに入っているのだ。
いらないのだな?ほほーう。
旦那が帰ってきた。あたしは平静を装いつつ、エレベーターで何か無かったかを尋ねた。
なにもなかった、あ、スイッチにシール貼ってたね。
ふん、それでそれで?
結構リアルな写真シールだったけど、光らないからすぐバレる。
引っかかる人はないだろうけど。
子供のいたずらとはいえ、あれ剥がすのめんどくさいだろうな。
それがどうしたの?
こいつに聞いたのが間違いだった。
あたしはお腹の底から湧き上がる邪な考えにとらわれはじめていた。
目の前のテーブルには買ってきたお菓子。
一旦全部ばらして、絶賛個別に包装し直し中のお菓子たち。
これ全部食ってやろうか。
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