コンコントローラー(仮)

小早川一

コンコントローラー

本日紹介する商品はーこれ!

コンコントローラー!

メインキャスターが言うと、すかさず観客が声を上げる。

コンコントローラーぁ?


あなたの恋人や旦那さん、お仕事で根詰めすぎていませんか?悩みすぎだってわかっているのに頭から離れない。

せっかくのでデート、せっかくの家族旅行なのになんだか考え込んじゃってる。

そんなことはありませんか?


すかさずアシスタントが合いの手を入れる。

そういえばありますねぇ。せっかくのデートで楽しめないことって。

キャスターが続ける。

人は何かに集中しすぎると、他の楽しみを失っていく生き物です。

せっかくの休日なのに、思わず仕事のこと考えちゃう。恋人との時間を楽しめきれない。家族との時間に集中できない。そんな根詰めてお困りのあなた。

本日紹介する商品。それがこれコンコントローラーです!


コーン!狐の鳴き声を模したものか。不思議な効果音に引き続き商品が大写しになる。

・・・・テレビのリモコンにしか見えない。

ショッピング番組は続いていった。


-------------------


買ってしまった。コンコントローラー。

だって、信二さん最近忙しそうで心ここにあらずだし。会話はなんか上っ面だし。

今日はせっかくのデートなんだから楽しんでほしいの。仕事のしすぎで体壊さないように。

そう、彼のために買ったんだ。まだ大学生のあたしにとって結構高額の投資なんだから。


みどりはバッグの中に入っているコンコントローラーを思いながら待ち合わせ場所に向かって電車に乗っていた。時間通りに着きそうだ。

いつ使おうか。うん、最初にランチしたときがいい。

ランチはサークル友達がバイトしてるカフェにしょう。一度顔出すよう言われてるから、一石二鳥だし。彼氏の姿はバレるけど、いるのは言ったことあるし。

問題はまだある。だまって使うべきかどうかだ。ずっと悩んでいた。

効果もわからないし、信二さんは最近のデートで黙り込むことが多い。心を軽くさせるためだもの。いまからやりますよーじゃうまくいくモノもいくはず無い。

よし、テーブルの下から使おう。ボタンも1つだけで「中」押せばよいだけだし。「高」にするかどうか最後まで悩んだが、今後のことも考えて決めた。なんか電波とか光線が出るんだと思うが、仕組みはよくわからない。安全性も考えなきゃね。中よ中。


コーン!

やば!「中」押した途端に膝上で大きな音がした。信二さんが携帯のチェックで注意がそれていたとき。みどりは試し打ちしていなかった自分を呪った。モロバレ。どうやって言い訳しよう。いや、いいわけなど不要だ。これは、彼のためにしたことだし。

信二さんは携帯を見たまま一瞬固まって、その後みどりに向き合った。

やった!あたしだけを見てくれてる。みどりに向かう真剣ななまなざしに、成功を確信した。


別れてくれないか。

信二さんの言葉が意味不明だ。

僕たちあんまり合わないんじゃないだろうか。ってか気になる子ができたんだ。君のこと嫌いじゃないから、ずっと悩んでた。たった今、なんだかすっきり話そうと決心できたよ。

なぜか今、ほかにいろいろとやってみようっ、見てみようって気になれたんだ。


信二さんは晴れ晴れとした顔をしてさっさと出て行った。残されるあたしに頓着せずに。

一人残されたみどりの元にウェイターが注文を取りに来た。サークル友達の隆だ。

あのーお連れ様は?

どうします?注文します?


こんなとろにいたくなかった。かっこ悪い姿を隆君に見せ続けたくなかった。うつむいて立ち上がろうとした。手に力が入り思わず何かを握った。


コーン!

気付くと隆君の手がみどりの肩におかれている。


ずっと悩んでたけど、今いわなきゃっって気づいたんだ。

俺ずっとみどりのことが好きで、彼氏いるって知っててずっと悩んで、いろんなこと手に着かなくって。バイトしててもみどりのことばっか考えるし。あ、何言ってんのかな、俺。

でもこれだけは言える。俺と付き合ってくれないか。


一生懸命話しかける隆君を見上げる。

心の中の暴風雨が止んだ気がした。身体中から力が抜け、立ち上がりかけていた腰を再び下ろす。

肩から離さない隆君の手が細かく震えているのが分かる。

あったかい。思い詰めてたんだね。勇気振り絞ってるんだね。


みどりはどう答えるべきか迷った。

悩みすぎないように、あたしの心にもう一回だけこれを使うべきかどうかと一緒に。

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