ギリギリな彼女(十八才・魔法少女)とギリギリな彼(三十才・童貞)のギリギリな事情

ごろん

ギリギリな彼女(十八才・魔法少女)とギリギリな彼(三十才・童貞)のギリギリな事情

OP

OP ――佐々木・彰示の述懐――

 妹よ。君の大学生活は順調だろうか。

 引っ越しの手伝いにいった時の堤沿いを彩る桜並木は、今でもはっきりと覚えている。あの素敵な街で、楽しく頑張っているだろうか。

 兄さんのほうは今日で三十歳の誕生日を迎え、

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 地元の繁華街で、悪の女幹部の側頭部に、鉄パイプを一撃している。

 満月の下で頭から崩れ落ちていく姿は、暗い赤を基調とした毒々しいバタフライマスクにボンテージファッションという、なかなか扇情的な、一般的な女幹部のそれだ。

 振り返って俺はというと、会社帰りの安物スーツを翻しながら、マスク代わりにコンビニ袋をかぶり、手には杖代わりの鉄パイプを握りしめている。

 もうわかっただろう? 恥ずかしながら兄さんは、

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 正義の魔法使いになったんだ。

 言いたいことはわかるさ。ご近所の目が、親戚の目が、だろ?

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 けど、考えてほしい。

 一介の工場事務員の冴えない俺が、地元のために活躍できるんだ。

 降って湧いた話だけれど、頑張ってみたいと、頑張っていきたいと、そう思う。

 だから、その辺で拾った正義の鉄パイプ『マジカル☆ステッキ』を振り降ろすんだ。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 ああ。

 彼女は、俺の相方になった魔法少女『サイネリア・ファニー』だ。

 ついさっき紹介されたばかりで、互いのことはよくわかっていない。間違いないのは、恵まれた体であることと、叫び続ける様子から結構な肺活量であることと、

「いやあああああああああ! テラコッタ・レディさあああああああああん!」

 敵の名前を今知った俺にとって、年下ながら先輩になる、ということだ。

 彼女が何を考えて、何が嫌いで、そして何を望んでいるか。

 彼女とは十二の歳の差になるそうだ。お前よりも年下の女の子と分かり合うなんて、簡単なことじゃあない。

 だけど、相棒になるのだ。これから、じっくり、ゆっくり、時間がかかってもいい。分かり合っていかないと。

 それはおいおい。

 ひとまず、現状で相棒が望んでいることは、

「血が! 血が!」

 なるほど、迂闊だった。

 正義の味方が持つエモノに、血が付いているのはいただけないな。

 手早くジャケットに拭い取ると、心配げな相棒へ問題の解決を伝えるために、にっこりと笑顔で、

「がぼぼがぼぼぼうぶでがぼがぼぼ!」

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 そうだ、コンビニ袋をかぶっていたんだった。

 ビニールが口の周りに張り付いているのを今さら思い出すなんて、今日の俺はどれだけ迂闊なんだ。

 ここは汚名を返上すべきで、その手段は迅速な解決以外にない。

「がぼぼいまがぼぼがぼトドメをさがぼぼがぼがぼぼ!」

「トドメって! なんでそこだけはっきり聞こえるんですか!?」

 意図は伝わったようだ。よかったよかった。

 だから気兼ねなく、マジカル☆ステッキを振りかぶる。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 妹よ。

 兄さんは、今すごく充実しているよ。

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