第2話「ランクアップ(後編)」

「───魔弾の射手……?」



 ……だよな?

 頭に浮かぶ天職は……。



「今なんと?」

「いや、俺もよくわからんのだが……『魔弾の射手フラウシュッツ』と浮かんだのだが…なんだこれ?」


 ……聞いたこともない職業だ。これは?


「わ、私も初めて聞きます……しかし、バズゥ」

 少し動揺したシスターが言うには、

所謂いわゆる、特別職ですね……」



 なぬ?



「それはあれか? 特別上級職ってやつで───」

 そうだ、勇者小隊の化け物ともに比肩するそれ・・、か?


「いえ、違います。特別職ですね。特別上級職は、本当に稀な実例なのですよ」


 シスター曰く、特別上級職になる際には、体が黄金色に包まれるらしいと。

 もっとも、特別上級職という枠組みは、人類が勝手に分けたものであり、それは数少ない実例の中から優れた職業を選別した結果の名前だ。


 それゆえに、バズゥの『魔弾の射手』は、その枠組にないというだけで将来的に同様の例が出て、かつ活躍したり実績を残せば、特別上級職と呼ばれるかもしれない───という程度のもの。


「ただ、その……文献なのによると、赤い光を放った職業へのランクアップは能力値の上昇などはさほど見られないものです」


 どちらかというと……。

 技巧のえを誇るものであると、


「つまり……外れ?」

 やばい、金貨10枚じゃ安かったのか!?


「いえ、そういうわけではありません。その───はっきりといってしまえばわからないのです」


 『上級猟師ハイハンター』や『猟師長チーフハンター』などのような直近の上級職や、実績から優れていると確認できる特別上級職と違い──特別職とはカテゴリ分けすら進んでいない未知の分野なのだと。


「『猟師』系統で確認されている『仙人ハーミット』や『破壊者デストロイヤー』も、ランクアップしたあとの人物がどのように生きていたのかという記録がありません。故に研究段階であり、はっきりとしたことが述べられないのですよ……ただ間違いなく、元の職業よりは何らかの利点があるのが通例です」


 でなければランクアップなどと言わないと───シスターは締めくくった。


「要はわからんということか……ランクアップ後は──元の職業レベルよりは明らかに能力下がるのは、間違いないようだな」


 数々のスキル。

 そのほとんどが使えるのが感覚としてわかるが、おそらく『夜目キャッツアイ』や『刹那の極み』なんかは持続時間や、効果が大幅に下がっている気がする。


 その上『山の主』や───『山の神』は……どこか触りがたくなり、能力を閉ざしている。

 かすかに、その触りくらいはできそうな気がするが、以前の感覚とは違う。


 『山の神』に至っては、あの歌声が遥か遠くで耳に残るのみ……。


 使えないというより、本能的に使用を……体も頭も拒否しているような感じだ。


いんだか悪いんだか、わからんな……」

 実際、感覚的には弱くなった気しかしない。

 これは要訓練だなと、シナイ島までの道すがら鍛えつつ行かなければならないと覚悟する。





 もとより、能力の低下は覚悟していたが…少々、どころかかなり予想外だ。






 『魔弾の射手フラウシュッツ』……これがシナイ島の地獄で通用するのかわからない。

 また、エリンに並び立つことができるのか、まったく自信が持てなかった。


 それでも、やるしかない。


 元々、バズゥは職業で人を分類するような考えには否定的だ。

 スキルだ何だ、と──人は余計なものに頼り過ぎている。

 過信してはいけない、とも思う。


 狩りも戦争も……命のやり取りだ。そこに己の技術以外を介在させてしまえば、それは……もはやゲームだ。


 スキルにしても職業にしても、あれはあくまでも個人を補完する程度の物と考えている。


 そうでなければ───エリンと並べない……!


 あの子は俺の家族なんだ。

 『勇者』なんかよりももっと大事な者で──事。


「職業は神が人間にお与えになった神聖なもの───努々ゆめゆめ忘れることのなきよう……」

 と、シスターは締めくくる。


 なんだか『職業』について否定的なバズゥにとっては釘を刺されて気分だ。


「神様が、わざわざ人様ひとさまの職業の面倒を見てくれるのか?」


 だが、バズゥとてまんじりと聞き入るはずもない。


 元々、神様とやらには職業以上に否定的だ。そんなもん信じるくらいなら「山」の恵みについて信仰した方がよっぽど建設的だ。


 「山」の偉大さはそこで暮らしてみないとわからないだろう。

 そこには神などいない。


 スキル「山の神」がシスターの言うところの神とはまったく異質のものだと分かる。

 ───あれは神というよりも、「営み」だ。

 あるがままの「山」なのだろう。


 ま──こんなことでシスターと言い合いしても始まらない。

 俺は俺。シスターはシスターでいいんじゃないかな。


 教会はバズゥにとっては神のおわす場所・・・・・・・ではなく、ただの役所のようなものだ。その程度の認識しかない。

 実際、ランクアップさえ終わってしまえば長居することもない。



「神の御業みわざを疑ってはいけませんよ」



 ニコリとシスターは笑って答えるが、……笑顔が怖い。───生臭ババアめ。

「代金分の仕事だと理解してる」

 そうだ。金をとっておいて神の御業もクソもあるかよ。


 ……金貨10枚は痛いな。


「ええ、神は金貨10枚の寄進に感謝するでしょう。きっとバズゥの進む道も金貨10枚に輝いていくでしょうね」


 ……もっと払えってか!?

 いちいち金貨金貨言うな!


 ……絶対払わんからな───!


「……世話になった。もう二度とねぇよ!」

 ったく、どんだけガメツイんだよ……あ、今──舌打ちしやがった。


「チ……。では、ご機嫌よう。金貨のように陽が輝いていますね」

「うるせぇよ!」


 なんて婆さんだ。

 ハバナといい、このシスターといい……この村の老人はガメツイ連中ばっかりだよ。


 熊にも食われてないし、やたらと生存スキルは高い!

 ……文字通り本当に食えない連中だぜ。


 オドオドしたキナの手を掴むと、ヒョイっと肩に乗せる。


「きゃ! な、なに?」

「おいとまするんだよ!」


 ノッシノッシと大股で歩いていくバズゥ。シスターがにこやかに手を振っているのが見えたがガン無視だ。


「また来なさい。バズゥ・ハイデマン。……今度は姪御めいごさんと一緒にね──あ、喜捨きしゃは扉の前にある水盆に入れてもらってもいいですよ?」


 ババア……! 誰が払うか。


 チラリと見ると、確かに台座付きの小さな水盆があり、コインがいくつか沈んでいた。

 こんな生臭ババアらにちゃんと喜捨するお人好しも中にはいるらしい。


 ……村の連中とは思えないので、宿坊を利用している商人連中だろうか。 


 ふと、思いついたのでポケットをまさぐると、中にあった連合銅貨を一掴み取り出す。


「日頃の感謝を───」


 おらよ! とばかりに連合銅貨を叩きつけるように水盆に放り込んでやった。


 パチャン! と水しぶきが立ち連合銅貨がプクプクと沈んでいく。

 ケケケ……連合銅貨の使い道がこんなにあるとはね。


「もう……。バズゥったら子供みたい」

 キナが呆れたような声をだし、肩の上でモゾモゾと動く。

 降ろしてくれという意味だろう。


「そのまま馬に乗せるからジッとしてろ」


 キナは軽いのでまったく苦にならん。チッパイ過ぎて、持つところに苦労す──バズゥ! はい、すみません。


 エバキは文字通り道草を食って待っていた。

 繋いでもいないのに待っているとは…利口な奴だ。


 バズゥの気配に気付くと機嫌よさげにいななき、自ら近づいて姿勢を低くする。キナを乗せやすくしてくれているのだ。

 もう少し慣れればキナの言葉をよく聞いて、乗り降りにも協力してくれそうだ。


 押し付けられた感はあったものの、この馬を手に入れたのは僥倖ぎょうこうだったかもしれない。

 でなければ、キナを連れていくのはかなり困難だっただろうしな……。


「あんがとよ……」


 ヨッ! とばかし、キナを背に乗せると慎重に体を起こすエバキ。

 本当に気の利く馬だ。

 首を軽く撫でてやり、馬上のキナに軽く頷いて見せる。


「これでこの村ともお別れだ」


 さぁ~……と心地よい海風が二人を撫でた。

 キナの白い髪がサラサラと揺れ、優しい香りがバズゥに届く。




「そう……本当に村を出るんだね」 




 感慨深げに目を細めるキナ。

 何か思うところがあるのか、村をジッと見つめる。


「……残るか?」

「ううん……! そういうんじゃなくて……なんだろう。寂しいような、嬉しいような───」


 要するによく分からない感情ってことか。

 ……まぁ気持ちは分からなくもない。


 バズゥも戦争に駆り出されるまではこの国から出たこともなかった。

 急ぎの任務ではあったが、たしかに───村を離れるときは寂しい気持ちがあったように思う。


「よく見とけ。……場合によっては戻れないかもしれないからな」


 そう、それは死んでしまったり。

 あるいは逃げることになるかもしれない旅───。


 エリンは『勇者』だ。

 けれどもそれ以上に、バズゥ達にとっては家族だ。

 もし、再会したエリンが帰郷を望むなら、あるいは戦いを忌避するなら───バズゥは全力で支援しようと考えている。


 それが人類全体の利益とは、反する行為であってもだ。


 覇王軍との戦いに『勇者』を必要とする人類……だが、それがエリンの望みでないなら、バズゥは人類なんぞよりもエリンを優先することに決める。いや、決めた。


 人の家族を無理やり戦わせて安寧あんねいを得ようと考えるなら…そんな時は人類なんぞ滅んでしまえばいい。

 俺が勇者エリンそそのかしたと言われて───大悪党になったとしても、……それでもいい。


 エリンのためなら何だってするさ……。


「戻れなくても……いいよ」


 キナは既に瞑目めいもくしていた。

 見るべきものは───全部見た。そう言わんばかり……。


 もう村に想いをせることもないようだ。


「バズゥがいてくれれば……そこが私の故郷だよ」


 人がいる場所が故郷……か。

 そうだな。

 俺がポート・ナナンに帰ってきたのも、キナがいたからだ。


 ポート・ナナンに帰ったのではなく……キナの元に帰った。


 ───そう、それが故郷だ。


「あぁ、俺もそうだ───」

 エリンとキナがいてくれれば、どこへだって行こう。


「行く、か」

「うん……。ずっと、───ずっとついて行くよ」

 どこまでも、家族と一緒に……。







 さらばポート・ナナン───またいつの日か……。








「誰ですか! 喜捨にゴミ連合銅貨を入れたのは!」


 おっと、シスターがブチ切れてる。

 ゴミって……連合通貨ぇぇ。




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