勇者小隊5「暴走の果てに」


「これが勇者…」

 今だ包囲を続ける覇王軍だが、その圧力は明らかにげんじている。


 先ほど出した最後の伝令部隊は、無事連合軍にたどり着いたようだ。

 遥か彼方に棚引たなび狼煙のろしが、伝達終了を伝えている。


 連合軍がどう動くか分からないが、このチャンスを逃すはずもない。



 このチャンス───



 ゴドワンの視線の先には一筋の道が…


 いや、破壊の軌跡がある。


 それは道などという生易なまやさしいものではない。

 まるで巨大な龍が暴れ回り、一直線に駆け抜けたという様子。


 湿地帯と北部軍港を繋ぐ要所であり…狭い狭い回廊は、めくれた地面と巻き上がった死体と──土塊によって左右の沼すら埋め立てる有様ありさま


 その破壊の余波から見て、覇王軍の占領する北部最後の拠点である軍港から───何か・・が一直線に駆け抜けてきた様子…それをまざまざ・・・・と見せていた。




「勇者殿は…往路は空から捜索を…鹵獲した飛竜を駆って行き───復路は焦燥感と…半狂乱で陸路を、か」




 北部軍港を策源地として軍を押し進めていた覇王軍は、一時的に補給路を絶たれたため、再建のため部隊を抽出───前線から戦闘部隊をも引き抜き補給路の構築に転用しているらしい。

 明らかに包囲網を形成している兵が減っていた。

 遠目にも、破壊の痕跡著しい回廊に兵が移動しているのが見える。

 

 未だ勇者軍に対する包囲は続けているが、それはかなり薄っぺらいものだ。


 北部軍港の被害がどのくらいかは分からないが…抽出された以上の兵力が失われている可能性があった。


 ── 一見すれば変化のない包囲網も穴だらけだった。


 暗殺者アサシンのミーナ率いる、勇者軍の生き残りの伝令部隊は、拍子抜けするほど簡単に突破できたらしい。


 そのことからも、覇王軍には指揮系統を始め…かなりの混乱が見える。

 しかし、それを表面に出さないだけ、まだまだ組織の瓦解がかいとまではいかないようだ。


 ただし、傍目はために見ても少々軍事をかじった程度の人間なら、これを奇貨きかとして反撃と追撃の誘惑に取りつかれるだろう。


 実際に──エルランはしきりに反撃だ。追撃だ! と、のたまっているが…まぁ無理だろう。


 かき集めた勇者軍の生き残りは精々一個中隊。

 これでは、かろうじて砦を奪還できる程度。


 今もクリスが精力的に働き、砦の要部を再奪還しているの見える。

 覇王軍の旗が次々に引きずり降ろされ、代わりにボロボロの勇者軍の旗が立つ。


 苦戦しているように見えないのは、既に覇王軍は砦内部から撤退。

 大環だいかん包囲をき、相互支援を目的とした小グループに分かれた包囲網を敷いているようだ。


 対勇者陣形という新戦術のようだが、なるほど…有効らしい。


 「勇者に攻撃される=全滅」を意味する覇王軍にとって、大部隊でひと塊に集結するのを嫌う傾向が顕著けんちょとなってきた。


 集団戦術を捨てた覇王軍は、新戦術を採用───

 旧来の戦術の代わりに取られたのが、10~30人程度の分隊~小隊編成で数珠じゅずの様に陣形を組むというもの。


 勇者が攻撃し、一個の数珠じゅずが破壊されたとて、隣の数珠がすぐさま全滅箇所を補うというコンセプトらしい。

 連合軍上層部は一顧いっこだにしないが…これは勇者を有効活用したい連合軍にとって厄介極まりない戦法だ。


 彼らは、死をいとわぬ兵を──逆に死なないようにするため、…一部を死兵とする気なのだ。

 矛盾しているようで、合理的。

 それだけに連合軍には真似まねができない戦法だ。


 つまり兵に言うのだ…

 「勇者に狙われたら、死ね! ──ただし、時間稼ぎのために死ぬまで逃げ回れ!」と…


 普通なら絶対に拒否するだろう。

 腐っても軍人、かつ戦士ならば雄々しく戦いたいと思うだろう──

 だが許さぬ、

 「無様に死ね!」


 それが対勇者陣形。

 狙われたら死ぬ部隊もいれば、運よく逃れる部隊もいる。


 次の戦友のために、

 後の友軍のために、

 勝利を覇王のために、


 ……と。


 薄ら寒く感じるほどの、統率力カリスマ──


 彼らは死した戦友の屍を乗り越えて、再び陣形を組む。

 また、勇者の攻撃の際には、死兵となった戦友たちを捨て駒にするため…退避する部隊間隔を適切にとり、いつでもすぐに後退経路を確保できるようにしているらしい。


 数珠じゅずの一個が破壊されている間に、まるで数珠じゅずしぼる様にして退避し──破壊された玉を一つ犠牲にしてでも、態勢を維持するらしい。


 少数の損害で大勢を生かす。

 少なくとも、いきなり全部隊が全滅することはない。


 勇者は最強といえど………一人なのだ。


 その一人であるという弱点を最大限に追及し、勇者を少しでも足止めするがごとく覇王軍の兵は動く。

 個人は動く…


 狙われた部隊の兵は───逃げ惑う。

 端っから勇者に勝てないと踏んで、少しでも時間を稼ぐように、逃げて逃げて逃げまくる。

 

 最終的に全滅させられようと……、彼らは散り散りに逃げまどい…わずかな時を稼ぐ、と。

 ある意味、非道で哀れで滑稽こっけいだが…実に有効だ。


 勇者は一騎当千…いや一騎で万騎だ。

 だが…───


 一騎。


 そう一騎なのだ。


 覇王軍は、それを見越して軍を編成する。

 やられる部隊とて、タダで死にはしない…


 一騎を─── 一部隊で引きつけ…

 残った部隊は、退避と同時に、

 

 ──────勇者以外を攻撃する。

 その間に行われる勇者による追撃も、一部隊で対応──────


 常に、時間稼ぎに徹する部隊は…全滅しても、尚──時を稼ぐことを至上目的とする。


 勇者がいなければ勇者軍も、連合軍も覇王軍には耐えられない。

 勇者小隊とて、勇者のサポートに手いっぱいで覇王軍を追撃するなど思いもよらない。



 強い…


 兵も、

 将校も、

 覇王も…─── 



 今回の勇者の暴走による覇王軍の要所襲撃とて、

 実際に覇王軍は手痛い打撃を受けたようだが、その動きはあざやかなものだ。


 既に、砦内部は空となり、「勇者」と覇王軍の部隊が接触しない様に適切な距離を保っている。


 八家将が打たれたのは誤算だったのかもしれないが…それは覇王軍の失態というよりも、八家将の一人、チーインバーゥ個人の性格に由来するものだろう。


 好戦的で自信家だというチーインバーゥ。

 勇者の接近を知り、一騎打ちを挑んだのかもしれない。


 結果は、3枚おろしにされて首を晒すというものであったが…


 決して小さくない被害を受けた覇王軍は、この後は確実に撤退するだろう。

 少なくとも、攻城兵器と遠距離魔法攻撃部隊が壊滅したことはかなりの痛手と思われる。


 魔法攻撃部隊は蹴散らされただけなので、存外…兵の損害が少ないかもしれないが、攻城兵器はそうもいかないだろう。

 旧占領地とは言え、現在は敵地だ。大型兵器は放棄するしかない。


 直ぐに補充できる武器でもないのだから、今後は覇王軍も防御態勢に移行すると思われる。

 また振り出しに戻った状態だが、戦線の崩壊よりも遥かにい。


 それに、勇者は知ってか知らずか、敵の最重要拠点たる北部軍港に痛打を与えている。


 愛しの叔父さんバズゥ・ハイデマンを探しに、『港』を探したというが…


 ──まぁ、やり過ぎだ。


 『港』違いも、違い過ぎ…

 連合軍からすれば決して悪い結果ではないが、

 前線の友軍からすれば敵前逃亡もいい所。


 友軍に甚大な損害を、

 敵にも大きな損害を、


 その規模はどの程度になるかは知らないが、敵の船の一隻か──……せめて軍港の起重機クレーンの一つでも破壊してくれていれば、荷揚げ能力は大きく損なわれるだろう。

 そこまで期待できるかは不明だが、勇者の破壊力の一端でも軍港に及んでいたとすれば、覇王軍の動きは確実に鈍る。


 それ以前に、勇者に再度突撃してもらうのも、有り…か、


 再び破壊の跡に目を向けるゴドワン。

 エルランとファマックがギャイギャイと騒ぎながら、エリンに詰め寄っている。

 シュン…と小さくなったエリンを心配そうにかばうのはシャンティのみ。


 というより…一方的に詰め寄っているのはエルランで、ファマックは揶揄からかっているだけだ。


 幼い時分に家族から引き離され、連合軍で教育を施されたエリンは、基本的に軍のお偉方には比較的従順じゅうじゅんだ。

 それもこれも、何年もの教育の賜物たまものなのだが…やはり、こうして強力に過ぎる個人の力は、時に軍や国の制約など知らぬとばかりに暴れることがある。


 まだ、連合軍も…勇者小隊でさえ、『勇者エリン』を使いこなせているとは言えない。


 極端に言えば、エリンに北部軍港を攻撃してもらえばかなりの戦果を挙げることができる。

 しかし、覇王軍とて馬鹿ではない。

 勇者が北部軍港を襲っている間に迂回し、連合軍の主力や勇者軍の残存を叩くことなど容易にやってのけるだろう。


 勇者は攻撃の要であると同時に、防御の核心でもある。

 …ゆえに、軍と勇者は同時に動かねばならない。

 

 ───勇者に守られつつ、

 勇者を前面に押し出し、

 勇者のおこぼれを刈り取る───


 それが現在の人類の戦い方だ。

 かつて、伝説の時代には…勇者が数名のお供を連れて、魔王を討った───とある。

 しかし、それはまだ剣と魔法が今ほど洗練されていない時代。


 今は、敵も味方も剣と魔法で簡単に勇者と魔王のどちらも切り裂くことができる。

 強力な魔法は、───…一撃で殺し切らずとも連続して命中させれば魔王といえど、消滅せしめ、

 強靭な刃は勇者がいくら再生の力をもって回復したとしても──肉と骨を断ち、四肢を落とすに至る…


 もはや、個人でどうこうできる時代ではなくなったのだ。

 いくら強力な個人であったとしても、睡眠は必要だし、メシも食えばクソもする。


 ゴドワンとて、寝込みを襲えばエリンを負傷させることが可能だ。

 やるやらないは別にしてだが、な…


 ───もちろん、それほど簡単ではないが、やってやれないわけではない。


 勇者は最強だが、無敵ではない。

 強力無比だが、不死身ではない。


 かつてと、今は違い過ぎる…

 時代は残酷で、

 今や、単騎で魔王や覇王に挑むには…──余りにもリスキー過ぎるのだ。


 だからこその勇者軍であり、勇者小隊だ。

 ひいては連合軍の編成となる。


 言ってみれば…、

 勇者を五体満足で『魔王』や『覇王』にぶつけるのが人類全体の仕事になったということ。


 戦線を構築し、

 攻撃をするときに勇者を前面に出し、

 敵を砕き、


 少しずつ魔王や覇王に近づいていく。

 ──それが連合軍の…「人類」の基本戦術。


 勇者を休ませるために、軍でガードし補給を行う。

 そしてまた前進…


 それで、かつてはうまくいった。


 シナイ島戦線が始まる前の、覇王軍による南大陸侵攻に対するカウンター戦役。

 …南大陸の失地奪還しっちだっかんはそれで上手くいった。





 ───それが怪しくなったのは、シナイ島戦線を構築し始めてからだ。





 ふと、眼下の砦の要部にボロボロの旗が燦然さんぜんと輝いているのが見えた。

 ゴドワンの目に映る砦の全てに勇者軍の旗が立つのを見届けると、──彼は動き出す。


 この望楼の護衛は、もはや必要なくなった。

 クリスは完璧に仕事を終えたらしい。ならば次は行動あるのみ。


 近いうちに進軍を開始するであろう連合軍と、連絡をつけるのだ。

 残余の一個中隊は砦の保守に使用するとして、包囲網の突破と───連合軍を協同しての挟撃は勇者小隊にしかできない仕事だ。


 勇者は……


 正直、どう扱えばいいのかわからない。


 勇者が縦横無尽に敵を攻撃すれば簡単に包囲網を破壊できるだろうが、戦果という点で見ればさほど大きなものを上げることはできない。


 先の通り、勇者は一騎なのだ。


 敵は、攻撃された時点で死兵を残し、主力を退避させるだろう。

 結果勇者の戦果は覇王軍の一個小隊か、多くて精々それを2、3といった所…


 これでは、勝てる戦争も勝てない。


 敵は…覇王軍は、シナイ島戦線を構築して以来───


 勇者との決戦を避けるようになった。

 少なくとも、多少ないし対抗できる八家将や神話級のバケモノをぶつけるのみで、軍としては勇者を避け始めた。


 替わりに覇王軍は、勇者のバックアップを任務とする勇者軍や、連合軍を集中的に攻撃。甚大な損害を与えはじめた。


 その効果は徐々に表れる。

 戦線は押し上げられはするものの、動きは鈍く…軍の停止と共に勇者も停止せざるを得なくなった。


 勇者がいれば負けはしないし、確実に前進できるのだが…その被害は膨大となり、次第に──軍の出血に各国とも耐えきれなくなり始めた。


 加えて勇者の扱いの難しさだ。


 最強で、強力無比なのだが……如何いかんせん少女だ。

 まだまだ幼い女の子だ。


 勇者として覚醒するまでは、王国の片田舎にいたというのだから…世間知らずで、無知だった。


 数年かけて教育したものの、

 ──貴族のようになるわけもなく。

 田舎娘が急ごしらえで知識を身に着けただけで、……あらゆる知識に欠ける。


 文字も覚え始めたのも最近で、──そこから教本を使っての教育だ。

 おそろしく時間のかかる教育を短時間で叩きこまねばならなかったのだが、

 …当然無理だ。無茶だ。無茶苦茶だ…


 武力は一騎当千と言っても、知識は幼年学校レベル。

 軍事のことなど分かるはずもない。


 結果───言われた通りにしか動けず…一度でも連絡のつかない前線奥深くに行けば、…単騎、後先考えずに暴れまわるのみ。

 それでも、覇王軍に大損害を与えることができるのだが…当然、覇王軍にはその特性を見抜かれて──現在の対勇者陣形を編み出されてしまった。


 一番良いのは勇者小隊が勇者にぴったりとくっついて、足りない部分を補えればいいのだが…

 あまりにも、───あまりにも。そう…あまりにも力量に差がありすぎた。


 加えて思春期を迎えつつある少女は、時に反抗的になり、時に情緒不安定になる。

 そのフォローとして肉親を戦場に張り付かせたが、


 …今度は肉親の心配ばかりをして満足に働けない始末。


 正直な話…

 連合軍上層部は頭を抱えていると言った有様ありさまだ。


 勇者が男であれば…

 あるいは、妙齢みょうれいの女性であればもっと違ったであろう。


 ───幼くとも貴族のごとく知識と使命感に溢れていれば違ったであろう…


 おぉぉ、神よ。

 神国の信ずる神よ…なぜ、貴方は『エリン』を勇者に選びたもうたのか…


 もっとこう…違うのをね…ゴニョゴニョ…


 ともあれ、勇者小隊と勇者軍は壊滅的被害を受けたものの最悪の事態だけはまぬがれた。


 接近しつつある連合軍と共同すれば、拠点の防衛と敵への反撃は成功するだろう。

 エリンという戦力・・・・・・・・も、ひとまず手元に戻すことができた…


 だが、今回の暴走は実に危うい…

 

 エルランも、

 他の者も気づいているが、


 ──バズゥ・ハイデマンを欠く事の恐ろしさが今にして身にみて来た。


 やはり、バズゥは必要かもしれない…知れないが…

 

 バズゥ・ハイデマンを、勇者がかばいつつ戦うのは良い。

 良いが…仮に戦場でバズゥが戦死した場合どうなるのだろう…


 たかだか、たった一日…夜に何も言わずにバズゥの所在が分からないだけであの騒ぎ。

 今までだって、任務でバズゥがいない日などいくらでもあっただろうに…


 大きな信頼関係を築いていたと知らしめられるが…


 それだけに、何も言わずに叔父が去ったことがエリンに与えた影響は大きい。

 勇者小隊…正確にはエルラン達を除いた、他のメンバーの認識では、バズゥとエリン同士で話がついているものと思っていたが…そうではないらしい。


 エリンからすれば、バズゥが消えたのは──ほとんど行方不明と同じ扱いということらしく…

 あの日、バズゥに「帰れ」といったのは一体?

 何があったのか?


 そも、あれは───


 …いや、言うまい。


 それほどまでに固い信頼関係で結ばれている者が、ろくな連絡もなく突然いなくなったのは衝撃だったのだろう。


 掻き集めた断片的な情報…「港に行った」という不確かな情報を基に…、北部の敵の占領地である軍港・・に向かったと、勝手に思い込んだ少女は───


 暴れに暴れて…

 覇王軍を恐怖のどん底に叩き落すとともに、勇者軍を放置し大損害をこうむらせた。


 無断の戦果と、

 無残な被害と、

 無知無謀な少女の暴走…


 今後、まともに勇者として働くことができるのか?

 我々は勇者とともに戦う事ができるのか?

 人類は勇者に救ってもらえるのか…?


 勇者エリンを支援して覇王軍と戦う、という方法は…すでに構造的欠陥を抱えているのかもしれない。

 少なくとも、バズゥを前線に張り付けずに、後方に残置するくらいの処置をしたいが…覇王軍は勇者と決戦をしない・・・・・・・・・


 覇王軍の狙いは勇者を支援する連合軍などの「勝てる相手」だ。

 そして、勇者の叔父がエリンの弱点と知れ渡ればどうなるか…


 結局、勇者と一緒にいるのが最も安全なのだが、もはやそれはかなわない。

 紆余曲折うよきょくせつの末、バズゥ・ハイデマンは帰国のいた。

 

 向かう先は、故郷の…

 王国の田舎ということを聞いている。

 王国は、後方も後方…後方地域あんぜんちたいだ。───多分身の安全は保障されているだろう。


 ならば、今…気にしなければならないことはただ一つ──エリンが果たして、バズゥ抜きでどこまで戦えるか…だ。


 それはやってみないと分からないし、やるしかない。

 まったく…子供が勇者なんて、いったい何の冗談だ?


 ───保護者付きで覇王退治なんて聞いたこともないわ!!!


 ゴドワンを含めた勇者小隊は皆が同じような見解に達しており、先行きに何の希望も持てなかった。

 勇者エリン…

 

 彼女の機嫌一つに、人類の命運がたくされている等…誰が考えようか。


 しきりに反撃だ、追撃だ、軍港占領だ! と、叫ぶエルランの言葉の非現実性がむしろ清々すがすがしいほどだった。


 




 数時間後…






 連合軍は勇者小隊とともに、覇王軍の包囲部隊の挟撃きょうげきに成功。

 覇王軍の包囲網を切断し、ホッカリー砦との連絡線の回復に至り、防衛という目標を達成した。

 攻勢に失敗した、覇王軍は再び北部軍港に拠点を戻すことになる。


 だが、それは勝利などとは程遠い…


 泥沼の消耗戦を呈しはじめた───



 地獄のシナイ島戦線…

 まだそれは序曲に過ぎない。



 果てしなく物資と、金と、人と───……







 いずわかる…勝敗の行方───

 それは、戦場で死すものには一生わからぬ歴史に事実…



 北部軍港包囲戦。


 覇王軍の周到な準備と、潤沢な海上戦力と───空の援軍。

 分厚い防御陣地と、港から補給されるあふれる物資により、着々と要塞化の進む北部軍港。


 連合軍と覇王軍は北部地域とホッカリー砦の要所で睨みあい。戦線は硬直状態となった。





 





 勇者エリンは、出撃を待ち…


 自室で膝を抱えて、ただ体を冷えたベッドの上で固くするのみ…その目には何も映さない───









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