第39話「ロリを魂すべし!!!」

 ロリコンかぁぁぁい!!!!!





 やぁぁぁぁっちまったぁぁぁぁぁ!!!!!





 ど、どうりで『子守り』失敗してるわけだ…!?

 こ、これ大丈夫なんか?

 やばいやばい…普通に衛士が踏み込んで来る案件なんじゃ…!?


 どどどどど、どないしよう!!??


 ……


 …


 あ、



「ジーマちゃん…ちょっとこっちへ」

 午前中留守番をしていたであろうジーマを呼びつける。

あによぉ、アタシはアンタの手下じゃないのよ…気安く呼びつけないでよ」

 口をとがらせつつも素直に応じるジーマ。


「聞きたいことがある…」

「はいな?」


 スゥと深呼吸…


「不在間、苦情あったりした…?」


 ん、とジーマが指さすと──店の壁に安物のメモ紙が掲示されていた。

 ジーマの字で、留守番中の出来事が掛かれている。

 おおよその時間付きだ。


 ジーマが留守番中と、引継ぎ後の出来事をまとめてくれていたらしい…君、結構いい子だね。


「お、おぅ、ありがとうな」

 ちょっと意外だったので、素直に礼を言うバズゥ。


 ニマっと笑うジーマ。よく見れば可愛くも見える…

「バイト代ははずんでね」

 あー…そう言えばそういう約束だったな。

 金額考えてなかったが、ちょっとは色を付けていいだろう。


 ま、あとでな。


「どれどれ…」


 紙に記載されている内容を流し見ていく。



・子供をスゴイ目で見ている。気持ち悪いので帰ってもらった。

・気持ち悪いです。

・うちの子をねばつく目で見ています。死ねばいいと思います。

・顔を見た瞬間、あ、この人ヤバイと思ったので帰ってもらいました。

・女の子と男の子の扱いに差がありすぎて酷いです。

・魚も捌けないんですか。使えないです。

   |

   etc

   |

・子守なら体くらい洗ってください。臭いです。

・収穫には鎌を使ってください。剣じゃ危ないです。




「……あ、名前付きね。うんうん、……ここに名前書かれてるやつ、全員集合っ!!」

 ちなみに下2名は、ジーマちゃんの仲良しグループ、シェイとウルだ…

 シェイのは仕方ないにしても、ウル君や…きみ収穫作業で銅の剣使ったの? ねぇ使ったの?


 渋々しぶしぶと、ゾロゾロ集まる冒険者犯罪者予備軍ども。


 さて、どう言ったものか…

「あー…今回は俺も無理やりやらせたことに否があると思う。そこは謝ろう…」

 いきなり低姿勢に言ったものだから、にわかに調子付く冒険者たち。


「そ、そうだそうだ!」「俺たちは悪くない!」「おっさん死ね」「ハァゲ」「横暴!」「自己中!」


 ……


 おっさん死ね、言うたやつと──ハァゲと言ったやつ…あとで死刑な。


「だが!!! …簡単な仕事だったはずだ。やってやれない仕事ではない。──違うか!?」


「む、無理やりやらせたくせに!」「得意不得意えてふえてがある!」「デェブ」「カッコ悪い仕事は無理!」


 …


 デェブも死刑な。


「お前らは、『昆布干し』も『子守り』もできないのか!? グダグダ言う前に、もう一度自分の胸に手を当てて行動を振り返れ!」


「うるさい!」「できないものはできない!」「無理無理ぃぃ」


 ……


 …


 す、救えない…

 ──こいつら救えない。


 所詮しょせんは冒険者か…


「わかった、もういい……」

 バズゥはあきらめの境地で首を振ると、

「あ。ロリコンは死すべし」


「「「「「………」」」」」



 ん。


 もう一回。



「ロリコン死刑」

「「「「「ち、違うわぁぁぁぁい!!」」」」」


 説得力──ゼロ!!


「ロリコンは犯罪です」

「「「「「何もしてないわぁぁい!」」」」」


 うん、ロリコンなだけでは犯罪じゃありません。

 でも、死ね。


「「「「「心が痛いわぁぁぁぁ!!」」」」」


 俺の方が痛いわ!!!


「以上解散! これからは『子守り』は任せんから安心しろ」


 少なくともロリコンにはな。


「えー!!」

 え~って、一人だけ何言ってんの。

 ───なんでやねん…お前あれか、子守したいんか?

 ほんまもんのロリコンか!


「ダメ」


 ぴしゃりと言い切るに限る。

 当面の間、『子守り』は女性か、適性のある奴にさせないとな…そもそも報酬が安すぎる。



 さて、バカどもはほっといて…



「キナは、コイツ等の適性とか全部覚えているのか?」

 自信なさげに、首を縦に振るキナ。

 パッと見ただけでも相当な量だぞ。


 キナはやはり優秀だ。


 昔は気付かなかったが、一門ひとかどの学者になれるくらいの才気はあるのかもしれない。


「全部かどうかは自信はないけど…うん、一通りは」

 それがまるで悪いことの様に、冒険者の方をすまなさそうに見ている。

 本人達が知らぬ間に、個人の情報を収集していたようで申し訳なく感じているようだ。

「そうか、それは心強いな。…よし、今まで通りキナが仕事を割り振ってくれるか?」


 え?


 と驚いた顔。


「いけ好かないが…、キーファのやり方を見て──ある程度、要領は覚えているんだろ?」

 コクリと頷く。

「でも、私なんかでいいの? だって、その…」


 キーファの代理で、仕事を割り振ることはあったのだろうが───基本、キナはここの冒険者にめられていた。

 その引け目があって、自分の采配さいはいに自信が持てないのだろう。


「大丈夫だ。俺が保証する。…マスターだろ?」


 ジッと目を見て話すと、キナは視線に押されて目を伏せようとする。

 どうしても自信が持てないようだ。

 徐々にうつむきがちになり、目が閉じられていく…


 ダメだ。キナ。


 キナ…


 自信を持て。


「ギルドマスター…キナ・ハイデマン!」

 静かな口調でもう一度、心を押す。


 ピクリとその長い耳が揺れ動く。

 そして、

 瞑目めいもくしそうなソレを押し殺し、キナは恐る恐るバズゥを正面から見返す。


 ジッと目が合い、二人して見つめ合うと──キナの美しきまなこが揺れる。


「…わ、わかった」

 コクリと頷くキナ。

「や、やってみる、よ。バズゥぅ」


 うん、それでいい。

 心なしか赤くなった顔のキナ。その頭を無遠慮にポンポンと叩く。


「なぁによ…乳繰ちちくり合っちゃって~」

 面白くなぁい、とばかりにジーマが机に──ぐでぇっと突っ伏す。


 ちょいちょい行儀悪いよね、君ぃ。

 まぁ、オパイが潰れてスッゴイことになっとるが。


「乳繰り合っとらんわ」「乳繰り合ってません」

 バズゥとキナが息ぴったりに返す。


 ヒューヒュー♪ とか、ガキレベルのはやし立てがそこかしこで沸き起こるが、ガン無視だ。


「というわけで、お前ら! 今度から仕事はキナに貰うようにしろ。いいな! …あと、サボりは許さん」

 ギロっと人睨み。

 この時ばかりはシンと静まり返る。


「仕事をしている限り、ツケは認めてやろう」


 要は働かざるもの食うべからず、だ。

 本来ツケなんざ認めんが、飯を食わせつつ、飲み代のみしろやらメシ代を返済させないと──こいつら飢え死にするからな。


「アタシは今まで通り自分で選ぶわよ~」

 ジーマはそう言ってゆずらない。


 まぁいいか。

 

 他にも何名かが自分で選ぶらしい。

 一応、数少ない依頼を達成している連中だから良しとする。教養がある者は自分の力量も目星が付くのだろう。


 でも、ジーマちゃんよぉ、シェイ君とウル君にはちゃんとした仕事さしたげてね…


「いいだろう。だが、今日みたいにふざけた理由で失敗したら……本気でここを追い出すからな!」


 ここに残った冒険者は、おそらく冒険者の中でも落伍者らくごしゃ…あるいは変わり者の部類ぶるいだろう。

 まぁ、キナ目当ての奴や、都会に馴染めないやつもいるのかもしれないが。


 こうでも言って発破はっぱをかけないと、自分で動き出すなんてことを期待できるものじゃない。


 やれやれ、俺はいつから職業訓練所所長になったんだ…?

 頼むから、自分でチャキチャキ動いてくれよ。


 話は以上だと、締めくくる。


 あとは、勝手にしろと言って突き放すと──バズゥは、キナと今後の依頼の割り振りを打ち合わせることにした。


 念のため、バズゥもファイルの名簿を確認しておく。

 大半がキーファに従って出て行ったものや、既にここにはいない冒険者のものもある。

 ゆえに残った人数分を掌握するのに、それほど時間は掛からなかった。


 …


「キナ。このランクってのは?」

 ファイルには仕切りがあり、冒険者の男女の区別なく仕切りでいくつかのグループに区切られている。


「えっと、ギルドへの貢献度と、難易度の高い依頼の達成によって昇格するの」


 ふむ…仕切りは4つにわけられている。

 一番少ない所では1枚。次に数枚、次が一番多くて分厚い、…最後がちょっと多い程度。


甲乙丙丁こうおつへいていの4段階に分かれていて、その…甲が一番優秀なランクになるの」

 ペラっと甲のページをめくる。


 キーファ・グデーリアンヌ───


 あれま。キーファさぁんってば、ギルド支部長でもあり、冒険者でもあるのね。

 たしかに、『キングベア討伐』を引き受けるつもりだと言ってたしな。


 しかし、アイツで「甲」ねぇ。


 思った通り、冒険者のレベルは軍隊のそれとは違う…

 軍隊における戦うための日々の訓練に比べて、冒険者は訓練なんて──そんなことはほとんどしていないだろう。


 命のやり取りがあるのかもしれないが、前線のそれとは比べ物にならない。


 ぶっちゃけキーファ程度の連中なら、シナイ島戦線の最前線で戦っている勇者軍にも腐るほどいたぞ…下級職中級職を問わずにね。


 まぁ、優秀な戦力ならとっくに最前線に放り込む。

 冒険者とてそうだろう。


 後方で遊ばせておく戦力になど、どこにも余裕よゆうはないのだから。


 所詮しょせんは期間労働者の集まりでしかない冒険者。

 徴兵ちょうへい忌避きひし、軍に志願もしないくずの集まりだ。


 強者つわものなど早々いるはずもなし…


 つぅか、あれだな。

 めっちゃ個人情報ってるね、これ…


 キーファさん、あれでいて貴族かぁ…

 金で爵位を買ったのか、お家はここ数十年ほど前に準男爵位を獲得している。

 とは言え領地はない。王国はその辺がシビアだからな。


 もともと持っていた土地以外は、後々に購入したらしい。国から割譲かつじょうされたような形跡はない。


 ようは、そういう扱いなのだろう…王国内のでキーファさんは。


 んでもって、天職は「聖騎士ホーリーナイト」…上級職だ。

 ホーリー騎士ってがらかよ…むしろエロス騎士だろがっ。


 聖より性。


 ちなみに、

 聖騎士:僧侶系上級職。回復の奇跡の使用と、騎士特有の剣技が使える支援型の戦闘職。あるいみ最強職の一角ひとかどである。剣は鋭く、騎乗をさせれば一級品。さらには上級剣士並みの剣技をほこりながら高位僧侶系の魔法を行使できるという。攻防技と隙が無い。


 まぁ、あえて言うなら軽騎士ライトナイト系列なので、重騎士ヘビィナイト系列のような重厚な防御力に欠けるところであろうか。それでも他の軽装職に比べれば十分に防御力は高い。


 戦闘職系統の上位であり、労働者系統の『猟師』とは比べるまでもない──といった感じ。


 だが、地獄の最前線で泥をすすってきたバズゥの経験からすれば、ふーん…程度。


 最前線で求められるのは、個々の強さはもとより重要だが、それ以上に「センス」や「覚悟ブレイブ」、「定義ドグマ」、そして…「知恵タクト」──だと思っている。

 ま、追い出された俺が言ったところで、今更いまさら誰も聞いてはくれないがね。


 聞く耳があるとすれば、せいぜいがゴドワンくらいだろうか。

 彼だけは、天職にこだわらなかったな…


 いずれにせよ、田舎の戦力としてはキーファは優秀な部類だ。

 金にかせて天職レベルの底上げと転職を繰り返したと思われる。


 初めて会った印象からすれば、雑魚ではないが──脅威でもなかった。

 確かに強さを感じた事は感じたのだが、命の危険をちりほども感じなかった。


 まだ、覇王軍の斥候隊レコンと対峙した時の方が、万倍も恐怖したものだ。


 キーファの奴、

 強引に上級職に収まっているが、実戦経験などあるのかどうか…


 と…、キーファのことは今はどうでもいい。

 それよりも、このギルド内での冒険者の把握だ。


 「こう」は1名、「おつ」が数名…内2名はなんと、ジーマとケントが含まれている。


 へー、あのオパイは伊達じゃないってことか。

 そして、ジーマパーティのジェイ君はその他大勢と同じ「へい」のくくりに入るっと…あ、モリとズックもだわ…カメもいるな。


 ってか、うわぁ…銅の剣ことウル君は、一番低い「てい」だ…新人のくくりという事になる。

 あるいはよほど腕が悪いか…だな。

 ちなみにバズゥも今のところ「丁」だ。うん…どうでもいい。


 うーむ…一番強いであろう、キーファであの程度…

 そして、それよりも何段階も弱いと思われる連中が、たっくさん───


 冒険者のレベルの低さがうかがえる。


 まぁ、固定給も出ないような期間労働者───それも、昆布干しやら子守りを失敗するていたらく。


 各国が管理したがる理由が分かった気がした。


 諸国連合ユニオンが結成された際に、連合軍の編成と連合通貨が真っ先に整備された。

 そして、徐々に人類の連携を進めるうえで各国は、国内にいる兵役不適格者たちの扱いに困るようになったという。


 なんせ、前線で戦いもせず定職にもつかない人間だ。

 冒険者などと名乗ってはいるが──はっきり言えば犯罪者予備軍。


 そのため、丸っと各国で管理するべく、ギルド協会冒険者管轄局が立てられた。

 要は各国で、怪しい犯罪者予備軍の情報を共有し、後方地域の安全化を図りましょうということだ。


 ついでにそいつらに準軍隊の真似事をさせれば一石二鳥と。


 そういう考えの基、冒険者は管理されている。

 元は民間の緩いつながりであったギルドに、各国の情報網が加わり流通が整備された。

 そうして、人と情報と物の行き来を良くし、いざとなれば冒険者を予備兵力として活用する───と、そう言った構想があったらしい。

 なるほど、冒険者の証明がドッグタグに似ているのは、そう言った背景もあるということらしい。


 実際、各国とも主力が連合軍に参加しているため、後方地域たる自国の守備兵力は危険なまでに低下しているらしい。

 

 そりゃそうだ。


 『勇者』を輩出した王国はまだしも──

 世界各国では、『勇者』に準ずる兵力をということで正規軍を根こそぎ、前線に送り出している。

 それだけに、国内治安は悪化。

 比較的治安のいい王国も、『勇者』だけというわけにいかず、ちゃんと正規軍を投入している。


 とは言え、勇者のゆかりの国だ。

 そのかいもあり、王国は諸国連合ユニオンでの発言力も大きく、軍隊の派遣も大幅に少なく済んでいる。

 

 王国の本音は、…派遣兵力は、勇者だけでいい──とすら言ってはばからないとか…


 勇者は前線から一生帰ることなく、王国民の安全と安寧あんねいのため、身を粉にして働けと言っているのだ。


 人の姪をなんだと思っているんだ…!

 まったく、冒険者連中のことを考えていると、世界の腐った構図が明け透けに見えて非常にクサクサした気分だ。


 キナがちょっと困った顔で、バズゥを見ている。


「バズゥ? その…」

 キナは自分が何か粗相そそうをしたのか、と気にしているようだ。


「いや、気にしないでくれ…ちょっと世界を滅ぼしたくなってな」

「へ?」


 眼をまん丸くして、キナは「?」顔ハテナがお変顔へんがおも可愛いねキナちゃぁん。


「バズゥは世界が嫌いなの?」


 …


「嫌いだな…キナとエリンがいなければ、世界なんて消えてなくなればいいと思う」


 人を人とも思わない世界。

 最愛の姪と、家族同然のを食い物にして、平気な顔をしている世界。

 誰も愛さない誰も愛しない誰も愛がない世界…───家族を除いて。


「そう…なんだ。でも、私は…」


 バズゥの顔を真剣に見つめるキナ。

 この子の目には、世界がどう映っているのか。


「世界が好き。とても好き。家族がいるからとっても好きでいられる」


 キナ。


 キナ・ハイデマン───


 そうだな。

 世界は残酷で、とても醜いけど…キナとエリンがいるならそれだけでも、美しき世界かもしれない。


 なぜ俺はもっと前に、キナをハイデマンにしなかったのだろう。


 それだけが分からない。

 我が事ながらわからない。

 キナとは他人でいたかったのだろうか?


 わからない…


 だけど、わかることも──ある。

 家族は、この子とエリンのみ…ココが俺の世界。


 3人だけが世界の中心で、他は全てどうでもいい。

 その考えは、自分勝手で、みにくくて、残酷だけど。







 …それが世界だろ?













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