第25話「ギルド『キナの店』再始動」

 いい年いた大人、しかも冒険者が『子守り』て…いいのかそれ?


 いや、大人が子守りするのは普通だけど──君のその武道家風ルックスと、冒険者オーラで『子守り』?? 

 ──ゴメン…叔父さん、なんだか涙出てきたわ。


 わかった、…もう、叔父さん何も言わない。


 軽く眩暈めまいを覚えつつ──

 依頼書を流し見た後、ジーマに返す。



 なんか、シェイ君とウル君は不満そうだ。気持ちはわかるが…


 ブーブーと、不満たらたら。

 ジーマに向かって──あーだこーだと、まぁ言うね…


 護衛がいいとか、害獣駆除がいいとか言うがね──そこはジーマが正しいと思うぞ。


 誰だって銅の剣に護衛なんてされたくないし、素手武道家に至っては……害獣モンスターのランチになるのが関の山だろう。

 ──それでもいいけど、メシ代だけは払えよ。


 ジーマもその辺を分かっているのか、ケント君とシェイ&ウルの扱いは全く違う。

 多分、元々ペアだった所に、新米が参入したとかそんな感じ。


 あるいは、元4人組の補充要員だろうか?

 ん──興味なし。


 ジーマも慣れたものでヘッポコ2人をかる~く無視して、依頼書の所定欄に記名していく。

 依頼書に名前を書いてギルドに提出、と。なるほど…こうやって依頼クエストを決めるのか。


 ジーマが強引に依頼を決定し、それぞれの名前を記載し、バズゥに付きつけた。


 あぁ、ハイハイ。

 受注しましたってことね。


 この態度を見るに、ジーマは女だてらにリーダー格か。

 で、残り3人は仲良し軍団っと。


「私とケントの装備返して貰うわよ」

 またグイグイとローブを引っ張る。


 しかし、バズゥは足を乗せたままピクリとも動かない。


 むきになって装備を引っ張るものだから、オパイがブルンブルンと、遠心力と重力に引かれて揺れる。


 おー揺れとる揺れとるぅぅ。


「ちょっとぉぉ! 返してよ!」


 エッロイ恰好でバズゥに詰め寄る露出魔ろしゅつま改め魔法使いジーマ。

 ローブで隠さないと、色々規制に引っかかるなこの…──バズゥ!

 …はいはい、キナちゃんの言う通り。


 バズゥは、態度を崩さないまま目線で促す。


 何をって?

 そりゃ、礼儀って奴よ。 


「おいおい、違うだろ…」

 じっと、見てやると──


 チッと舌打ち。

 相変わらず態度の悪い女だ。


「わかったわよ…貸して・・・ちょうだい」


 ちょっと、十分とは言い難いが…ま、いいだろ。

「有料だからな」

 足を退けると、ジーマは急いでローブを確保し着込む。──う~む、眼福がんぷくだったんだけど…──バズゥ! はいはいはいキナちゃん可愛い可愛い。

 プゥと、ほほを膨らませるキナの頭をナーデナデ。


「お、おれも持っていくぞ………借ります」

 ケント君が恐る恐る剣を引っ張り出していく。


 なんか、エライびくびくしてるんだけど…叔父さん怖い?

 ちょっと、一喝いっかつしただけですやん…もう、最近の子は打たれ弱くてまいるよ。


「有料な」


 ……


 …



 で、お前だよ、お前…銅の剣。


「オッサン、借りるぜ」


 ……


 …


 銅のつるぎぇ…お前、収穫作業ちゃうんかぃ!


 畑で何と戦うつもりやねん?

 自分か? 麦か? 世界か?


 ───わからん…


 銅の剣の意味が分からない。

 それを持っていく意味が分からない。


 ……

 

 …


 も、いい。好きにせぇ。



「キナ…あとで、レンタル表をつくるぞ」

「うん!」


 散々な目に遭ってきたのだろう。

 キナの笑顔は輝かんばかり。


 借金まみれで、──粗暴そぼうな冒険者に囲まれての生活…相当きつかったに違いない。

 気障キザで色目を使う上司に、善人のふりをしてたかりにくる漁師ども。

 寒く、寂しく、救いのない…空恐ろしい世界の果て───よく、耐えていたと思う。


 バズゥには厳しい出来事であったとは言え、勇者小隊を除籍されていなければ、キナの困窮こんきゅうはさらに続いていたのだろうか──…それを想像すると怖気おぞけふるう。


 ──孤独なキナ。それが何年も…


 ゴメン…本当にゴメン…


 キナは、バズゥの反省に満ちた視線には気付かず、ウキウキとした様子で装備品の目録を作り始めた。

 簡易版として、小さな黒板に書きつけていく。

 あとで帳簿ちょうぼに起こすのだろう。


 適正な価格とやらをどうやって決めるのか悩みどころだが、まぁ一度冒険者どもの働きップリを確認してからだな。


「とりあえず、今はそのまま貸してやるが、後で金をとるからな。んで、今度からはキナに言って借りろ。…前払いな」


 ふん、と態度もデカく──オパイもデカいジーマは、魔導書と杖を取り返すと、書についた埃をパンパンと払ってから、懐に仕舞う。


「わかったわよ~。マァスタァァ~…これでいい?」


 一々、突っかかるなよ。


「ふん、いいだろ。他の奴らはどうするんだ?」


 ジーマパーティ以外の冒険者も、やっぱり装備に未練があるのかチラチラ見ながらも、おずおずとバズゥに依頼をたずねる。


 どうも、ほとんどが字を読めないようだ。


 ジーマがまとめて4人の名前を書いた紙を返してきたのはこういうわけか。

 で、字が書けない奴は書ける奴に頼むか…キナに言う、と。


 なるほどね~こうやって、発注と受注をするのな。

 今後のことも考えると勉強になる。

 要は、キナありきで場末の冒険者ギルドは回っているということ。


 キナちゃんのお手並み拝見。


「キナ、頼む」


 紙束をキナに渡すと、バズゥはメシ代を掻き集めて大きめの袋に詰める。

 さすがに、このままだと嵩張かさばる。

 重さも、なかなかの物。


「はい。バズゥ、任せて」

 キラキラの笑顔で、キナが冒険者に依頼を振っていく。

 さすがに、この辺は慣れてるな。


 冒険者の特性と、達成率なんかに応じて割り振っているのだろう。

 簡単な依頼は報酬も安いが危険も少ない。


 どうみても実力不足には、そう言った依頼を優先的に割り振っているようだ。

 

 そして、かなりオールラウンダーにこなしそうな、ベテランには逆に希望を聞いてからそれに応じて渡すと──


 なるほどね。

 あとはキナに任せていいだろう。


 バズゥは、カウンターに積み上がった小銭をまとめた袋を担ぐ。


 さすがに重いな…

 冒険者たちの血と涙の結晶たるお金。

 同時に、メシ代でもある。


 ……


 そんな恨みがましい目で見るなよ。

 ちゃんと払わん君らが悪いんやろが! もぉ…


 ノッシノッシと歩いて、カウンターの奥に隠す。

 まぁこれだけ重ければ、バズゥでなければ担ぐこともできないだろう。


 さすがに、バズゥが睨みを利かせている中で泥棒に走るほど短絡的な奴はいないと思うが、早いとこ両替しよう。


 一部は酒場のお釣りにも使うことになるだろうから小分けする。

 それ以外は、一時的に奥へ全て隠す、と。


 こりゃ重労働だ。

 だが、伊達に『猟師』レベルMAXではないぞ。羽の様に──とまでは行かないが、人並み以上に軽々と運んでみせる。


 叔父さん、これでも訓練はバリバリ受けてたからな!


 デッカイ袋に詰めたその金に加えて、バズゥが持つ連合貨幣も一緒くた・・・・にしていれる。

 これも、なんとかしないとな。

 これはこれで一応、通貨と言えば通貨。

 

 ちゃんとした店にもっていけば、王国通貨に両替できる。

 ま、こんな田舎に両替商はいないけどな。


 隣街に行かねば…


 流れの両替商なんてのもいるが、怪しくって使えたもんじゃない。

 手数料だって割高。


 ふむ、その辺も含めてあとで考えよう。

 


 いい加減腹が減った。

 冒険者ぼんくらどものせいで、メシも食えやしない。



 やれやれと…、

 バズゥは、装備品を見張りながらようやくキナの作った朝食に舌鼓を打つことができた。


 幾分いくぶん冷えたとはいえ、シチューには油分が固まった薄い膜が張り、内の野菜を保温している。

 白パンは冷えてなお、香ばしい。

 サラダはいわずもがな。


 さぁ、頂きます!


 すきっ腹を抱えた冒険者のすがる様な、にらむような視線を感じつつ、酒場いち豪華な飯にかぶり付くバズゥ。


 その様子をニコニコと微笑み、見つめるキナ。


 彼女の楽しげな様子を見ていられれば、冒険者どもの視線など知ったことではない。


 おこぼれが欲しそうな顔を、華麗にスルーしつつ、モッシャモッシャと腹に収める。



 ……


 …





 エエから、はよ仕事行け!






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