第24話「皆ニコニコ現金払い~装備品はレンタルです!~」


 数分後…


 財布を空っぽにした冒険者の群れが、い~ち、にぃ~い、さぁ~ん、死~ぃ、死屍累々ししるいるい

 


 出せ出せぃ!

 全部出せぃぃ!

 銅貨ビタ1枚すらマカらんぞ!


 次ぃ、

 剣士風の男ことケント君──!


 ……


 あー…


 銅貨87枚て、君ね…

 今日日きょうび子供でも、もうちょい持ってるで。


 はい、装備没収ぅぅ!


 あん? ふざけんな、やて?

「…やんのかゴラぁぁ! ガッタガタにしてやんぞオラァ!!」

 

 …

 …… 

 コトリ…


 うむ、

 ──素直でよろしい。



 次ぃ、

 次ぃ、


 はい、没収!


 次ぃ、


 次ぃ次ぃ次ぃぃぃ


 ……

 …



 次ぃ、

 武道家風の素手野郎ぉぉ!!


 …

 ……


「あんだこりゃ!? 銅貨10枚しかないってふざけんてんのか!!!」


 武道家風の素手野郎。

 お金がないと抜かしやがる。


「いや、ホントなんですバズゥさん!」

 いつの間にか「さん」付けだ。


「飛べ」

「え?」

「飛べ」

「いや」


 飛べ


 ……


 ピョンピョン───チャリンチャリン……


 ……


「もっとるやないかぁぁぁぁい!!!!」

「ひぃぃぃぃ勘弁してください! 病気の妹がぁぁっぁぁ!!」

「妹何歳だよ」

「えっと……」

 ……

「知らんのかぁぁぁぁぁい!!!!」


 ったく、どいつもこいつもふざけやがって!

 きっちりと払えた奴など、ほとんどいない。



 しょうがないから装備をフンだくる。

 


 なんか、先祖代々の~! とか言って、銅のつるぎに抱き着いてる剣士もいたが知るか。

 銅のつるぎを先祖代々受け継ぐぐらいなら買い替えろ。

 ってか、どう見ても最近買ったもんだろこれ! なんだよ、隣町の武器屋の刻印こくいん入っとるがな。あの武器屋の開店は10年ほど前じゃボケぇ!


 んでから、どいつもこいつもロクなもん持っていやがらない。


 ジーマは立派なモノを持っているが、いで売るわけにもいかない。

 代わりに杖とローブと魔導書を没収。


 ぎぃゃぁぁぁ! パパの思い出が~とか言ってるけど。

 お前の言うパパは実父か? 多分、ちゃうほうのパパ・・やろが!



 あ~も~、どいつもこいつも自分勝手なこと言いやがって。

 今まで好き勝手にメシ食いまくってたんだろが!


 払って当然じゃぁぁー!!


 言っとくがな……酒代は、まだ計算してないからな。

 計算したら、多分お前ら全員合法的に奴隷労働する羽目になるからな。


 ったく、優しんだぞ、俺は。


「バズゥ凄い…」

 キナが呆気にとられて、詰みあがった銅貨や銀貨の山と装備品を見ている。

 それなりに鬱屈うっくつした思いもあったのだろう。


 嬉しいのか、エルフ耳がピコピコと動いている。


 その周囲では、ひんかれた冒険者がこの世の終わりみたいな顔をしている。

 何人かは真っ白に燃え尽きていた。


 ったく…


「おい、お前ら。まだ全然足りねぇぞ…残りはどうするんだ?」

 

 そして、酒代も徴収ちょうしゅうしていない。

 うん…あとでキナと帳簿をつくろう。


「ど、どうしろってのよ」

 ローブを剥ぎ取られて、結構ウヘヘな格好になったジーマが恐る恐る聞く。

 

「どうしたいんだ?」


「は、払うわよ、メシ代くらい!」

 払えてないから君ぃ。


「ふん。ま、これらを換金して残額は追々おいおい払ってもらうとして…だ」

 換金と聞いて、ギクリとした顔の冒険者たち。

「う、う、売られるのはちょっと……」

 目がグルングルンに泳いだ状態でジーマがおどおどとのたま

「そ、そうだ! 横暴だぞ! 何の権利があって…!」

 何を基準にしてか、急に元気になったケント君がみついて来る。


「いや、メシ代徴収ちょうしゅうする事って横暴か? 権利って、そりゃこっちのセリフ」


 ドン! と、装備品の山に足を乗せていうと、


 ギギギギギギギ……

 とか、なんか悔しそうな顔──


 俺、悪役みたいになっとるけど…ただメシ代払えって言ってるだけだからね。


「で、でも、それがないとアタシら食っていけないのよぉ」

 今度はヨヨヨとしな・・を作って、すがりつく。

 あ~鬱陶うっとうしい。

 キナがいなけりゃ、その谷間をもっとこぅ…──はい、すみませんキナさん。


 しかし、こうも寄ってたかられるとどうにもね。


 換金するのも面倒くさい。

 こんな田舎じゃ武器屋も質屋も何もない。

 せいぜい雑貨屋くらいはあるけど、…二束三文で買い叩かれるだけだろう。


 いや、俺は別にいいんだけど。

 どうせなら、金でほしいのも事実。


「どうするかねぇ」


 さて面倒なことになった。

 ただのメシ代の徴収ちょうしゅうが、阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄だ。


「う、あぁ…あ! そ、そうよ…仕事よ仕事! ね、仕事してそこからお金払うから!」 


 仕事だぁ?

 冒険者の仕事っていやぁ、あれだろ?


 依頼クエスト受注して、その成否でお金貰うっていう不安定極まりない奴。

 そんなにホイホイ稼げるものでもないだろうに…

 実際、メシ代すら払えない奴らばっかり。


 だいたいこんな田舎に依頼クエストなんてあるのか?


「キナ」

 ここは、以心伝心いしんでんしんキナちゃんの出番。


「えっと…少しは、支部ちょ…キーファさんが置いていったのがあるけど」

 と、ちょっと困り顔のキナ。


 あ~なるほど。


 こんな田舎にも依頼クエストがあるのは、キーファがどっかから引っ張ってきた仕事か。

 でなけりゃ、わざわざこんな田舎の酒場くんだり・・・・まで来て依頼クエストを出すような奇特きとくな人は、なかなかいないだろう。


 漁師連中や、村の依頼クエストなんてたかが知れてるだろうしな。


「見せてくれ」


 はい。と、キナが紙束を渡す。


 王都とかの大きなギルドなら、壁に依頼書クエストを張ったりもするが、──こんな田舎の2流3流どころの冒険者が集まるような場所で、文字の読める冒険者なんてほとんどいないだろう。


 とは言え、実は俺…キナが文字を読めることにも驚いたよね。

 まぁそのおかげで、恐らくこの支部では、キナに依頼クエストを斡旋してもらう形でやっていたんじゃないだろうか。

 

「なになに…『隣国の砦までの護衛依頼』『害獣モンスター駆除』『キングベアの討伐』『収穫作業の手伝い』『子守り』…」 


 んだこりゃ?


 え~と、護衛依頼とかはわかるけど、収穫作業に子守りって…うわ、報酬やっす…


「ど、ど、どうよ? やらせてみない? ちゃんとお金は払うから…!」

 ふむ…いずれにしても酒場の収入だけでは食っていけないし、借金の返済も無理だ。

 なら、冒険者どもに仕事をさせるのも手か…ギルド経営をしながら借金を返済。

 

 あと、踏み倒した酒代とメシ代もきっちり徴収ちょうしゅうしてやる。



 む…金貨3000枚か。

 いけるか?


 んんー…


 金貨3000枚かー…


 ぶっちゃけ、ヤバイ額だ。

 王国近衛兵の生涯賃金相当──まぁ、大金。すっごい大金だ。


 少なくとも、即金でポンと返せる額ではない。

 エリンなら、それくらいの金を都合できそうだが…


 キナのためとは言え、さすがにそれはできない。

 できないだろう?


 姪を…肉親を戦場に置いて、オメオメと帰っておきながら、「お金貸して!」…?


 ブッころですよ、ブッころ


 少なくとも俺なら、ケツの穴に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせた挙句に、鼻に指を突っ込んでサクサクにして喉仏に脳漿のうしょうドロドロ溶かして溺れ死なせたるわぃ!


 どんだけ、恥知らずだと?

 できないわ…

 できるわけないだろ!?


 ……


 いや…最終手段としてやるかもしれないが───少なくとも、キナがギルドに連れていかれるような目に会うなら…最悪、エリンに刺される覚悟で金を借りるかもしれない。

 しれないが…


 そう、


 まずは最善ベストを尽せ。

 できる全てを成せ。

 泥をすすれ。


 吐いた血反吐の分だけ勝利に近づく!


 生き馬の目を抜くような、油断ならないギルドの上層部が相手だとしても…


 俺は、走りながら…内臓が飛び散ったことも気付かないまま──敵陣に突っ込む兵士が幾数千といた、あの地獄のシナイ島戦線の斥候スカウトだ。


 冒険者ギルドか。

 いいぜ、いいぜいいぜぇ! 金貨3000枚か。


 上等ぉ!


 知恵をしぼれ。

 工夫をらせ。

 創意はタダだ!


 …まずは、最低でも1日に銀貨10枚…金貨1枚相当を稼ぎ続ける手段を考えないとな。


 少なくとも、稼ぎ続ければキナは拘束されない。

 この家も俺たちの物。


 そう、キナの一日当たりの利息銀貨10枚を常に払い続けていれば、キナは自由になれる。

 そして、少しずつ元本も返していけるだろう。


 ならば、やはりギルドを経営したほうが道は見えて来る、か。


 で、こいつらね。

 チラっと、有象無象の冒険者どもを流し見る。


 仕事が欲しいんだか、やりたくないんだかわからないが…

 仕事をさせないとメシ代も酒代も徴収できない。


 ついでに言えば依頼人から預かっている金も、依頼クエスト未達成なら返さねばならない。

 当たり前の話だな。


 メシ代も徴収出来て、ギルドの収入も入る…

 ついでに言えば、ウチグダを巻かれないで済む。──コイツらがいつもいるってのは鬱陶うっとうしいし…


 んむ。一石3鳥と言った感じだな。


 ヨシ!!

 

 うんうんと頷くバズゥを見て、

「なんだってやるわよ!」

 ジーマが自信満々にのたまう。

 俺の反応をみて手ごたえありと判断したらしい。


 ドンと胸を叩いてやる気をみせる。ブルルン…───おぉ~。


「いいだろう。ただし逃げたら承知しない。メシ代はまだまだ残ってるんだ。…と言うか、普通に衛士に通報するからな」


 衛士に言ったところで即捕まるわけでもないし、逃げ切るのは容易だろう。

 しかし、こんな奴らでもギルドに登録しているわけで…ちゃんと人物照会は取られている。


 無銭飲食とはいえ、一応犯罪者になるわけだ。


 まぁ、多少なりともすねに傷のあるやつが、冒険者なんて言うヤクザな商売をやっているんだが…


 どのみち、御尋おたずね者になれば、罪を償わない限り金輪際こんりんざいギルドで仕事はできなくなる。

 そういうシステムだ。当然だろう?


 腐っても国の管理する組織。犯罪者に仕事をさせることはない──はず。


「わかってるわよ!」


 ジーマはそれだけ言うと、装備を取り返そうと手を伸ばす。

 追従ついじゅうした他の冒険者も、次々に手を伸ばし装備を持っていこうとするが───


「ちょっと…」

「なんだ?」

「足どけて」

「なんで?」

「いや、装備返してよ…それがなきゃ仕事できないわよ」


 フフンと、何故か勝ち誇るジーマ。

 君らはあれかね。


 頭がちょっといい感じに、ゆるくなっていやしませんか?


「これは、ウチのメシ代だろ」

「分かってるわよ! 払うっていってんでしょ! だから、これがいーるーのー!」


 フンギギギと、ローブを引っ張り出そうと四苦八苦している。

 ケント君も、こっそり剣持っていこうとするんじゃないよ。

 んで、素手武道家。──お前は何も持ってなかっただろ! 何勝手に人の物をドサクサにまぎれて持っていこうとしてるのよ!


 銅の剣ぃぃ! お前は銅の剣に必死すぎ!


 装備品の山に群がる冒険者ども。

 わーわーわーと、鬱陶しい!



「だぁ! もう離れろ!!」


 ──カッ!!!!


 一喝して、冒険者どもを飛び上がらせる。


「で、で、デッカイ声ださないでよ!!!!!」 

 お前も十分大きいわ! 声もオパイも! ──はいすみません、キナさん。


 ったく…


「レンタルだ」


 ……


「レンタルだ」


 …


「大事なことなので二回言いました」


「「「「ええええええええええ!!!」」」」


 る冒険者ども。


 あったり前でしょ。

 お前ら、今までキナに甘えすぎだ。

 世の中甘くないんだよ!!


 キナをみろ! 借金少女3000枚ですよ!?


 簡単に人から善意がもらえると思ったら、大間違いだ。

 これでも大分譲歩じょうほしてる方なんだからな。


「だ、だ、だって! レンタルって、嘘ぉぉぉ!!」

「ホントホント。本当もホント」


 ギギギギギギギギギギ……


 という音が、冒険者全体から聞こえてくる。──って、素手武道家…お前は関係ないだろ。


 ったく!

 世の中甘くないんだよ!


「ん。レンタルが必要な時は言え、金払えば貸してやる。ってかあれだろ? 別に『子守り』とか『収穫作業』だとか行くやつに、剣とかいらんだろ?」

 と、もっともなことを言ってみたが。

「剣がないとカッコ悪いだろ!」

 と、銅の剣君。


 知らんがな。


 冒険者ってのは平和な仕事だなぁ…シナイ島じゃ5分で死ぬぞ。


「いいけど、レンタル代は取るぞ?」

 まぁ、勝手にカッコつけて銅の剣を腰にして、麦でも収穫してきてくれ。

 俺からしたら銅の剣、腰にして収穫してる方がカッコ悪いと思うぞ。


「ギギギギギギギ……」


 それ口から出してる音だったんかい。


「料金はあとで言う。取り敢えず仕事せぃ」

 ピッ紙束を突きつける。

「あ、それから、キナのことはマスターってちゃんと言えよ」


 これ大事。


 呼び方から改善していかないと、いつまでたってもキナは舐められる。

 世の中、形から入るのも大事だ。──軍隊で学んだ事。


 …


 あ、ここはギギギ言わないのね。

 何人かはバツが悪そうな顔をしている。


 ずっと前から名目上とは言え、キナはマスターだ。

 キーファが支部長で、マスターの様な事をしていたというのもあるだろうが、ちゃんと、証文にある通り、キナはれっきとしたギルドの従業員。


 まぁそれも借金を返済するまでの事。



「わぁ~ったわよ。それ貸して!」

 ジーマは魔法使いらしく、それなりに教養もあるのだろう。パッとバズゥから紙束をひったくると、吟味ぎんみし始める。


 文字は読めるようだな。


「ん…私はこれ。ケントとやるわ。シェイはこれやんなさい、ウルはこれ」

 3枚の紙を抜き取って、残りの束をバズゥに付き返す。


「見せろ」

 ジーマの持つ依頼書───



〇『害獣駆除』→ジーマ&ケント

〇『子守り』→シェイ(素手武道家くん)

〇『収穫作業の手伝い』→ウル(銅の剣くん)




 まさか、ほんとに銅の剣君こと──ウル、収穫作業をやるらしい。

 んで、素手武道家こと──シェイ、…『子守り』て君ぃぃ…ゴメン…笑う前に泣きそう。




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