第21話「現行犯は私人逮捕ができます」

 キナは家族だ───




 と、すっごいカッコつけて言ってしまった。




 ヤバイ、今更ながら恥ずかしい。

 すっげぇ見られてるし…


 キナはキナで…


 感極まった顔で涙を溜めていた。───バズゥぅぅぅ…とか言って顔を赤くする。だ~か~ら止めてって! …こっちも恥ずかしいわ!


 ギルドは、店とキナを手に入れるために戸籍を正式に取らせたようだが、それが裏目に出たな。

 こっちは別に卑怯な手を使ったわけではない。


 そこにある物を活用・・・・・・・・・しただけだ。


 臨機応変、創意工夫は戦場で生き残る──知恵で…奥義。



 腐っても勇者小隊所属の斥候スカウト、『猟師』のバズゥだ───…、元所属か。



「くそ!!! イイだろう! 金は持っていく! だがな!? 借金はまだまだあるんだぞ! 56日後は、また借金返済の日々だ!」


 ジャラララと金を集めると、自前の袋に移し替える。

 け…帰れ帰れ!



 っと…



「おぅ、待てゴラ…」

 ガシリとキーファの腕を掴み、凄みを利かせて睨む。


 お得意の『──命を頂く──』だ。


 勇者小隊やら、覇王軍にはち~~っとも効かないが、田舎の支部長ぐらいどってことない。

 上級職かもしれないが、こっちはこれでも天職レベルMAX。


 少々かじっただけの上級職なら、効かぬ道理はない。


「うぐ…ななななんだ!」


 それでも、キーファもできる・・・奴なのだろう。

 冷や汗にとどまり、剣を拾い上げ柄に手を掛けるだけの余裕はあるようだ。


「銀貨8枚」

 ……

「はぁ?」


 ボケっとした顔のキーファ───


 ……


 フッ…


 …──!


「キナの借金56日分──金貨43枚と銀貨130枚だろうが…ボォケェ!!」


 ゴキシッッ!!


 ──と、頭突きを顔面にブチかます。


 泥棒の現行犯だ。


 ふん、俺は悪くない。

 謝罪も後悔もしません!


「ぐがぁぁ…! ぎ、ぎっざま~…」


 ダラダラと鼻血が溢れる間抜け面。

 イケメンが台無しだな、おい。


「ご、ごんなごとじでだだでずむどおもっでんのが…!」


 ギギギギギギ…と歯ぎしりするキーファ。

 何言ってんのか、わかんな~い。


 スッとバズゥから体を離すキナ。

 ヒョコヒョコとキーファに近づくと──、


 って、キナちゃぁん?

 こんな奴にハンカチ貸さんでいいのよ~。


 天使のようなキナは、キーファにハンカチを差し出す。

 涙目でイケメンスマイルと決めているが…鼻血まみれでは効果半減っていうか、普通に不細工だ。


「ぐぅぅ…ギ、ギナざんにめんじでぎょうのどごろばゆるじでやる!」


 あ~はいはい。

 衛士に言うなり好きにしろや。


 冒険者どもが目撃者として役に立つかどうかはしらないが、少なくとも、余分に金を持っていこうとしたのはキーファだ。


 銀貨8枚とは言え、大金と言えば大金でもある。

 泥棒は泥棒です。


 殴る必要もないが、殴ってもダメなわけではない。


 そんなに平和な国でもご時世でもない。


 泥棒を捕まえれば、私刑リンチなんて当たり前。

 一応それらを禁じるとはされているが、それ以上に財産と権利・・を守る法律の方が上位にあるのだから、目をつぶられている所が多々ある。


 法の整備も意外といい加減なものだ。

 だからこそ、キナも付けこまれ借金少女に変身しちゃったわけだが…


 にしても、戸籍まで無理矢理作るとは手が込んでいやがる。


 鼻を押さえたまま、へっぴり腰でキーファが酒場を出ていく。

 その前に、

「お前ら行ぐぞ!!」 


 と、酒場の冒険者どもに声を掛けている。


 あーやっぱり、手下どもか…


 こんな田舎に、早々冒険者を必要とする依頼なんてない。

 だって、みんな貧乏ですものー…

 自分で何とかしちゃうもんです。


 ゾロゾロと冒険者がキーファを追って、出ていく。

 何人かは行儀悪く「ペッ」っと唾を吐いて───ゴン!! 唾吐くなと、殴る。…天誅じゃ。

 

 と、ばかりお行儀の悪い数名を殴ったり蹴とばして、追い払ってやった。


 これで空っぽになるかと思いきや…、

 何人か残ってやがる。


「あんだ、お前ら?」


 ジロっとひと睨み。

 あ、あの女魔法使いも居やがる。剣士風の奴も…あと何人かと一緒に。


「ん~? 酒場でギルドでしょ、ここ? 冒険者がいて何かおかしいかしらぁ?」


 飄々ひょうひょうとした雰囲気そのまま。キーファにヘコヘコしていた姿とは思えない。


「いや、一緒に出て行けよ」

 バズゥは面倒くさそうに言うが、

「べっつに、俺らキーファさんの手下じゃないし」

 剣士風の男は酒をチビチビ飲みながらのたまう。


 なるほど…全部が全部キーファの手下というわけでもないということか。

 それにして、支部長に睨まれて良いことは無いと思うがね。


「キーファに目を付けられるぞ」


 ど~でもい~、とばかりに女魔法使いが「ん~」とか言って背伸びする。

 よく見ればキョヌーだ。…素晴らしい。


 ──バズゥ! とキナが何故かほっぺを膨らませる。

 ん? なんか悪いことしたっけ。


 まぁいい。


「好きにしろ。あ、ちゃんとお代は払えよ」

 と、無銭飲食はさせない。


 ッ!


 しまった…キーファの手下どものお代貰ってない…くっそ!


「へ~へ~、払いますよ~」

 ぐでーとテーブルに突っ伏し、皿に乗っているツマミをその赤い舌でペロペロと舐める。

 う~む、行儀が悪い…&、──なんかエロいぜ…


 ──バズゥ!!

 って、キナちゃぁん? さっきから何よ…!


 プリプリと怒ったような顔のキナ。

 赤くなったり、怒ったり忙しい子だね。


 っと、それより──




「キナ。…話がある」




 ビクっと震えるキナ。

 キュっと目をつむるものだから、どこか小動物染みていて保護欲を掻き立てられる。

 

 だが、聞かねばならないだろう。

 こうなったことの経緯を。


「うん…わかった…」

 ポツリとこぼすキナは、既に意を決めている。

 顔は青いが、もはや隠し事ができる段階でないことは承知しているのだろう。


 ただ、店が終わってからという約束だけはした。

 なんとなく事情を知ってそうな冒険者連中が、興味深そうに見ていたが──無視。






 …お前らはハヨ帰れ。





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