第18話「やるせない思い」
店舗から住居部へ。
さして広くもない酒場だ。
進めばすぐにバズゥ達の住居部分。
垂れ幕をめくると店舗と違い、住居部は闇に沈んでいた。
囲炉裏に残る炭の火がチロチロと見えるが、光源にはなり得ない。
スキル『
まぁ言わずともわかるだろう。
山で長期間過ごす猟師ならではの、闇を見通す目だ。
とはいえ、真昼の様に見えるわけではない。
こればかりは、天職レベルMAXでも
それでも、明るさには不自由しない。
色が抜け落ちたような景色は、緑を基調としてモノクロに世界を映す。
だが、行動には全く支障がない。
サッと靴を脱ぐと、土間から板床へ上がる。
戦場にいるがごとく足音静かに進むと、ギシギシと板床が無粋な音を立てる。
特に足音を潜める必要もないのだが…まぁ、もう癖だなこれは。
探すでもなく、一直線に進むバズゥ。
そして目当てのものは…あった。
旅荷物だ。
大きな
異次元収納のアイテムボックスなんてのもあるが、高価な代物で───バズゥには型落ち品しか配給されなかった。
色々面倒なのでバズゥは、普段使いのモノは背嚢に入れる派だ。
いちいち水筒やら財布やらをアイテムボックスに入れる奴の気が知れん──とはバズゥ談。
さて…と。
あった。
ズシリと重い革袋。
ジャリジャリと立てる音は、澄んでいるがどこか下品だ。
それだけを手に、再び引き返す。
おっと、『
再度バズゥが酒場に姿を見せる。
その様子に、一瞬シンと静まり返るが──バズゥを無視してまた喧騒が戻った。
バズゥの姿を見たキナが、ホッと胸を撫でおろしているのが分かる。
彼女は、不自由な足を引き摺り、マメマメしく働いていた。
酔客のわけのわからない注文にも愛想よく接し、精一杯の速さで運んでいる。
傍から見れば───
手伝えよ! と思うだろ?
彼女はそういった気遣いを嫌う。
病人のように扱われるのが嫌だというのだ。
だから、旅立つときにはこの店を任せたし、───家にいる間も彼女が水を汲むと言えば、黙って任せるに徹した。
足は不自由だが、働けないわけではないというのが彼女の言い分だ。
実際は───役立たずとして、置き捨てられるのが怖いのではと、バズゥは考えている。
先代勇者に置き去りにされたのは、彼女に深い傷を残しているのだろう。
まったく、酷い話だ。
……姪を───置いてきた俺が言えた話じゃない、か。
ぬ?
ぬぬぬ…
ぬぅー…とすれば、先代勇者にも事情があったのかもね…クソ野郎なことに変わりはないがな。
並居る冒険者や酔客の間をスイスイとかき分けるように進むと、キナの傍らに立つ。
目を合わせると、軽く微笑む。
どこか不安そうなキナの顔。
──大丈夫。
頭に軽く手を置き、頷く。
それだけで事情を察したのか、彼女は驚いた顔で俺を止めようとする。
「バズゥだめ!」
──いいんだよ。
カウンターにズカズカ入ると、ほろ酔い顔のキーファの前に立つ。
「なにかな?」
店に戻った時からずっと俺の動きを追っていたのだろう。チラとも目を離さず、じっとバズゥの顔を注視している。
「受け取れ」
ポンと投げる革袋。
慌てた様子もなく、軽く片手でキャッチして見せるキーファ。
しかし、見た目より重いその袋に一瞬だけ顔を
『猟師』でしかない俺が軽く投げるものだから、中身がスッカスカだと思っていたようだ。
ジャリンと立てる音に、
「これは?」
クイっと
キーファは渋々と言った感じで、袋の紐を解き中身を
最初は無表情、次に驚愕、そして赤い顔をして、真っ青になる───
「何だこの金は!」
ドンと革袋をカウンターに叩きつけると、ジャリンと中身が一部
キィン、チンチリン──と澄んだ音を立てて転がるそれに、金にがめつい冒険者の視線が集まる。
シンと静まり返る店内。
キナだけはオロオロとし、ギュッと目をきつく
「き、金貨だ、ぜ」
乾いた声を出したのは、またアイツ。剣士風の男。
澄んだ音を立てたそれは、今
それを無遠慮に拾い上げようと手を伸ばす。
落ちた金貨は数枚程度だが…彼らの稼ぎの何倍もの価値がある。
ゴクリと喉を鳴らし、油断ならぬ目つきで
すーっと何気ない動作で拾い上げようとした剣士風の男が───
「ギャアアアァァァァ!」
鋭い悲鳴があがり、男が手を抑えて飛び上がる。
見ればキーファの剣がざっくりと地面に突き立ち、剣士風の男の手のひらを突き破り──裂け千切っていた。
人差し指と中指の間が酷く広がり、
慌てて女魔法使いが『
チャチなヒーリング程度では傷口を塞ぐのがやっとだろう。
結構な時間をかけて治療魔法をかけなければならない。
うぅぅと、脂汗を流しながら痛みを堪える剣士風の男を尻目に、キーファが冒険者達をギロリと睨み、
「今度、勝手に触ったら手では済ませんぞ」
と、凄みを利かせる。
そーっと手を伸ばしていた
睨みを利かせて黙らせた後、キーファがバズゥに向き直る。
「何のつもりだい? こんな金…どうしろと?」
「借金の返済だ…」
ケっと、吐き捨てるようにバズゥは
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