第12話 平穏な日々

 久し振りに宿に戻ると留守中の宿代を請求されたが、部屋もそのまま借りることができたのでホッとした。


 冒険者は朝出掛けてからそのまま戻らない人もいることから、アースランドでは10日経っても戻って来ない場合は、役所へ届け出る決まりになっていると女将さんが教えてくれた。

 何かあったのではと、女将さんには心配をかけていたようだ。


 ごめんな、クレインの、この国の王子様のせいなんだ‥‥‥‥と心の中で謝った。





 それから暫くは平穏な日々が続いていた。

 ユーリはクズ石を加工して魔宝石を作りだし、それを使って毒と麻痺耐性がついたブレスレットを作った。そして依頼のついでに性能を確かめようと、ポポンの実の採取で森にきていた。


 移動しながら、ポポンの実の他に、食べると麻痺を起こす茸や毒草も採取していく。

 十分集まったところで、少し開けた野営出来そうな場所に移動して、石を重ね拾ってきた枝を置いて火を起こし、鞄から取り出した小鍋に、切った茸や毒草を入れて調理していく。

 そして鍋が煮えた頃、鞄からブレスレットを取り出して手首に嵌めた。


 ちゃんとブレスレットの効果が発動してくれるのか多少の不安はあるが、躊躇わずに鍋に手を伸ばす。


 うぐっ‥‥‥まっず!


 あまりの不味さに涙がでる。毒より前に不味くて死ぬ‥‥‥っと身悶えるが体に変化はない。どうやら毒、麻痺耐性は効いているようだ。


 クズ石から作った魔宝石でも変わらないな‥‥‥問題は耐久性かな‥‥‥天然の魔宝石と比べてどうなんだろ?


 そんなことを考えていると、いきなり背後から声を掛けられた。


「こんな所で何してるんだ?」


 肩がビクッと跳ねる。

 聞き覚えのあるその声に、動揺を悟られないよう笑顔で振り向くと、興味深そうにグランが鍋を見ていた。


 誰かと会う可能性を失念していた自分を罵りたい。どうしたらこの状況を切り抜けられるかと必死で考える。


「ちょっと‥‥‥休んでたんだ‥‥‥グランは何でここに?」

「討伐の帰りだ」

「そうなんだ」


 何気なさを装いながら鍋を片付けていると横から茸をつまみ上げられた。慌てて取り返そうとするが反対に鍋ごと取り上げられ、鍋の中身を見たグランに顔をしかめられる。


「これ、食べると麻痺する茸と毒草だよな!‥‥‥おまえ‥‥‥食べてたよな!」


 どうやら見られていたようだ。


 はぁ‥‥‥‥グランなら、まあいいか‥‥‥‥ため息をつくと、開き直ってグランに全てを打ち明けた。


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