第9話 朝市

 役所の近くにある広場で開かれる朝市は、役所で許可さえ貰えば誰でも参加できるため、店を持たない商人や品物を売り買いしたい住民たちで毎回賑わっている。


 ユーリも森で拾ったクズ石を使ったペンダントやブレスレットを売ろうと朝市へ来ていた。

 ちょうど良い具合に空いていた場所に荷物を下ろし座り込む。右隣は何かの毛皮を売っていて、左隣を見ればフライパンやお玉などの金物を売っているようだ。辺りでは古着や本、焼き菓子まで売っている者もいる。

 ユーリの故郷の街では大規模な朝市が開かれることは無かったので、売られている種類の多さに感動する。王都だからなのか、アースランドが豊かな国だからなのか、どちらにしても活気に溢れた様は心を浮き立たせた。





 ユーリが店をだしてから冷やかしていく者は何人かいたが、誰にも買われることなく、もうすぐお昼になろうとしていた。


 う~ん‥‥‥売れない‥‥‥なんでかな?


 諦め気味になっていた時、目の前に立ち止まる影があった。青年がブレスレットを手に取り、興味深そうに訊いてきた。


「もしかして、これクズ石?」

「そうです」


 青年は暫く黙ってブレスレットを見ていたが「他の物も見せてくれ」と商品を順番に手に取っていく。

 青年の着ている衣服は見るからに上等で物腰にも品があり、とても市場に来るような人物には見えない。


 貴族のお忍びなのかな?


 貴族がクズ石を使った装飾品を買うとは思えず、売れるかもと期待していた気分が沈む。

 しかし、漸く顔を上げた青年は全て売ってほしいと言ってきた。


「えぇ! ぜ‥‥‥ぜんぶ!?」


 まさか買わないだろうと思っていた人物から思いがけない言葉を言われてびっくりする。


「ええ、あるだけ全て売ってください」


 青年はペンダントを手に大きく頷いた。

 ユーリが「ああ!‥‥‥ぜんぶ売るよ!」と答えると嬉しそうに、言い値で全て買い取っていった。

 思いがけず全て売れたことに呆然としていたが、じわじわと喜びの感情が溢れてくる。

 ユーリは急いで片付けると、ギルドへ向かって駆け出していた。





「確かに完済です」


 もうすぐ一月になろという今日、漸く借金の返済が終わり、ギルドの職員に笑顔で「良かったですね」と言われた。

 借金が返せずに奴隷落ちする冒険者も多いらしく、心配してくれていたらしい。

 僕もクズ石で作った装飾品が売れなかったら危なかった。返済の目処が立たず奴隷に落ちていたか可能性もあったのだ。しかし、これで晴れて借金が無くなり自由の身である。


 借金はユーリ本人も気付かないうちに重くのし掛かっていたようで、久しぶりに気持ちが軽くなり、祝杯を上げようと酒場に歩きだした。




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