第3話 逃亡

 数日が過ぎて、このまま何事もなく平穏な日々が続くかと思われたが、突然親爺が血相変えてユーリの泊まってる宿の部屋へやってきた。


「荷物まとめろ、急げ」

「え」

「早くしろ、今すぐ街をでるぞ」


 親爺のただならぬ様子に、ユーリも慌てて荷物をリュックに掻き込み、最低限の物だけを持って二人で部屋をでる。

 そして宿を出ると店にも寄らずに慌ただしく街を後にして、二人一緒だと見つかりやすいからと、隣の街に入ってすぐに二人は別れた。


 親爺は北の辺境の街で商売をしている弟を訪ねるらしい。

 ユーリは『身元がバレる前に国を出た方がいい』という親爺の言葉に従って隣国に行くことにした。




 ユーリは燐国へ行くという商隊に同行させてもらうことができた。馬車の中から流れる雲を眺めてると、いろいろと考えてしまう。


 はあ‥‥‥‥親爺、大丈夫かな?

 ウィルに、さよならも言えなかったな‥‥‥‥怒ってるだろうな‥‥‥‥もう会えないのかな?


 幼馴染みに別れも言えなかったのが悔やまれた。



 関所を無事に越えて隣国アースランドの王都にたどり着く頃には、出国してから一月が経っていた。王都にきたのは、潜り込むなら人が多い方が良いだろうと考えたからだ。


 国土の中に砂漠を抱えるユーリの故郷シャフランとは違って、アースランドの王都は水が豊かなようで、水路が多くて舟で移動している人もいるようだ。


 舟が多いな~! 変わってんな、この街。


 キョロキョロと物珍しくみまわしていると『ドンッ!』とぶつかられ尻餅をつく。それなのに相手は振り向きもせず走って遠ざかっていく。暫く呆然としていたが、はっと我に返ると、念のため財布が無事かと鞄の中を確かめた。


 ない!


 財布が無くなっている。急いでキョロキョロとぶつかってきた相手を捜すが、既に人混みに紛れて分からなくなっていた。


 ど、ど、どうしよう!


 ユーリは着いて早々一文無しになり、途方に暮れて、その場でずっと立ち竦んでいた。





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