第2話 うわさ
ブレスレットを作ってから一ヶ月ほど経った頃、親爺の店にいくと上品な物腰の若い男の客がいた。
うわ~、高そうな服!
男をチラチラと横目で見ながら奥の部屋にいく。この店にくる冒険者たちとは明らかに客層が違うので少し気になった。
店の奥の部屋で作業をしていると、親爺が苦虫を噛み潰したような顔で傍にやって来た。
「お前、暫くここへくるな‥‥‥‥家でじっとしてろ」
「はあ!? なんで?」
ユーリの能天気な声が気に障ったのか、親爺の声音が低くなる。
「闇市へ流したのがばれた」
「え!」
「貴族連中が探してる。まだこの店だとばれてないがな‥‥‥‥念のためだ」
「‥‥‥‥わかった」
苦いものを絞り出すような親爺の声に、ユーリは頷き帰り支度を始るしかなった。
宿の隣にある酒場でひとり食事をしていると、横の席に男が座って声をかけてきた。
「ユーリがこんな早くから来てるなんて、珍しいね」
「ああ‥‥‥‥まあな」
「ふーん、なんかあった?」
「‥‥‥‥ううん、何もないよ」
「‥‥‥‥そう」
何か言いたそうな顔で男が一言そう言うと、丁度注文した料理が運ばれてきた。
ウィルはユーリよりひとつ年上の幼なじみで、明るく面倒見が良くて幼い頃はいつも一緒に遊んでいた。
実家は商家で、次男坊のウィルは成人すると家の商売を手伝って他所の街にも行ったりしている。だから最近は、たまにしか会っていない。
ウィルが食事をしながら、面白い噂話があるんだと話だす。
「そうそう、最近貴族や富豪達の間で噂になってる事があるらしいんだよ」
「へえ、何?」
貴族や富豪たちと訊いて嫌な予感に身構える。
「この街にさ、『星3装備品をつくれる職人がいる』って話」
「えー、嘘だろ」
声が上ずりそうになるのを気にしながら、出来るだけ平静を保つように努める。そんユーリとは反対にウィルは少し興奮気味に話してくる。
「いや、本当、なんかね、たま~に星3装備品が闇市に出てくるんだけど、元をたどればいつもこの街にいきつくらしいんだよ」
「へー」
冷静になろうと思うあまり、些か棒読みのようになったユーリの相づちを気にすることなくウィルは爆弾発言をしてくれた。
「その職人が本当にこの街にいたらヤバいね。見つかったら、逃がさないように貴族に監禁されるよ」
訊いたとたんユーリの顔から血の気が引いていく。
ヤバい、ヤバい、ヤバい
素知らぬ振りをしつつも、ユーリの背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
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