第246話ーー恐るべき計画

「ここまでとする」


 師匠とじいちゃん、俺と香織さんと召喚獣たちだけでダンジョンへと再度潜り始めて5ヶ月。

 2人がコロシアムに挑戦し続ける事5回。

 ついに師匠とじいちゃんがギブアップ宣言をした。


 俺が見ているには本当に後一歩、後一手あれば勝っている試合だと思うんだけど、師匠たちは諦めるらしい。


「後一歩、されど一歩だ。本来なら我らは死んでいる。たまたまこのコロシアムのシステム上生かされているだけだ。まぁ、そんな事はわかっていたが諦めがつかんかった。だがやはりここまでだ」


 との事らしい。

 もしここでようやくクリア出来たとしても、下の階層へと進んだ時に本当に太刀打ち出来るのか?俺たちの足を引っ張るだけになるのではないか?という思いをずっと抱いていたが、師匠として、年長者として悔しいところもあり挑戦を続けていたとも言っていた。


 ではこれからはもう8000階層に挑まないのかと聞けば、それも違うらしい。

 条件こそあれ、強敵と幾度も戦えるこの環境は2人にとってやはり最高らしい。そのために時々はここに連れてきて欲しいとの事だ。

 これまでは待ち時間の間は7999階層で狩りをして魔晶石集めに精を出し、就寝は合流して次元世界の屋敷でってのが多かったんだけど、これからはダンジョン商店街内の宿屋で泊まる事も検討しているようだ。

 まぁ泊まるのはいいだろう、だが問題は食事だ。1000階層で見た光景は今も目に焼き付いている……人を殺し、それが屋台で食事として販売されてい事を。だからこの8000階層での食事も、俺たちは手を出さずにいたんだけど……


「あぁその事なら大丈夫じゃ、何の肉かはわからんが人肉ではなかったぞ。それに中々にいい飯を出す店もある」


 どうやらいつの間にか既に挑戦済みだったらしい……

 ってか、人肉じゃないって何をもって判断したの?

 その判断理由、怖くて聞けないんだけど!!

 そういえばじいちゃんは戦争体験者なんだよね……もしかしてそういう事なの!?

 いや、まぁ、もちろん聞けないけどね。


 そういう事で、これからは俺と香織さんと召喚獣たちだけでダンジョンアタックする事になったんだけど……

 正直なところ、師匠たちがいるからこそダンジョンに潜り続けていたところが強いんだよね。だってお金はもう使い切れない程に貯まっているし。

 ただ確かにこのダンジョンの果て……つまり最終階層である10,000階層を見てみたいという思いも若干あるけれど、今までのように全ての時間を探索に費やすのもどうかと思うんだよね。

 うーん、悩ましい。


「どうします?このままダンジョン潜り続けます?」

「うーん、難しいところだね。ダンジョン潜らずに何をするのかって話でもあるし……。織田さんやおじいちゃんの代わりにダンジョンの果てを見に行くって考えもありなんじゃないかな」


 確かにそうなんだよね……

 毎日遊んで暮らすって夢だったけれど、いざその機会がやって来たっていうのに、こんなに悩むだなんて思わなかったよ。

 でも確かに師匠たちの想いを引き継いで、最下層を目指すのもありかもしれないよね。

 それになんだかんだいって、死と隣り合わせの中での戦闘をしない日が長く続くと最近では少々物足りないような気になっているのも事実なんだよね……まるでバトルジャンキーの師匠やじいちゃんみたいで、本当に認めたくはないんだけどさ。


「じゃあ適度に探索を続けるって感じでいいです?」

「うん、そうしよっ」

「もし最下層を目指すというならば、若いうちの方が良いぞ。確かに歳を重ね、修練を重ねた後に見えてくるものもあるが、身体能力を全に扱えるのは若いうちの方が圧倒的だからな」


 じいちゃんたちが未だ圧倒的な武力を持っているから、この先の人生まだまだ長いしゆっくり探索していけばいいやって思ったけれど、若い方がいいらしい。

 そういえばみんなアムリタ飲んで若返っていたもんね……

 ってか、師匠たちみんなアムリタをしっかり飲んで20代前半くらいまで……つまり俺と香織さんの同年代くらいまで肉体年齢を戻せば直ぐにコロシアムを突破出来るんじゃないの!?


「そう簡単な話ではない。それに俺たちをどれだけ生かすつもりだ」

「そうじゃ、あまりにも長生きしておるとそのうち妖怪じゃなんじゃと言われかねんわ。妖怪は河童のみで十分じゃろう」


 いやいや、もうなんだかんだ言ってアムリタ飲んでるじゃん!

 俺知ってるからね?

 師匠の子供……つまり来孫を見た後にじいちゃんとばあちゃんが、「いっそ一気に若返って、戸籍を細工して新たな人生を歩むのもありかもしれんの」とかコソコソ相談してたの!!

 しかも若返った上で新たに子供を作って、師匠の子供と結婚させるの一考かもしれんとか恐ろしい事を言ってイチャイチャしてたのも知ってるし!!

 そしていつまでハゲヤクザを河童として弄る気なんだろうか……まぁ飽きるまでなんだろうな〜


「まぁ死なん程度に行ける所まで行ってみるのがいいと思うぞ。ただ我らの想いを引き継ぐ必要はない……あくまでもお前たちの人生だ」

「「はい」」


 悩むところだ。

 ただ10,000階層という、他に類を見ない程の深さを持つダンジョンの最下層に何があるのかも知りたいとは思うのも事実だ。

 それに、もしかしたら最下層まで辿り着いたら、そこで俺の出生の秘密とかもわかるんじゃないかなって気がしてるんだよね。

 なぜ俺だけ、生まれた時からうどんたち召喚獣というスキルが紐づいていたのかとか……

 まぁただの勘なんだけどさ。


 散々悩んだ結果、命大事にしつつも行ける所まで行こうって事になった。

 あと、とりあえず夏やクリスマスなど普通の同年代の人たちが楽しんでいるイベント時にはダンジョン探索はお休みにしようって事も。

 イルミネーションとか見たいし、香織さんの水着姿も見たいしね!!


 師匠たちが基本的に地上に多くいる事にもなるので、突発型ダンジョンが発生しても師匠たちが対処に臨むらしい。ただ連絡手段としてや、様々な対応のための人手としての役割を含めて、常時200体程の分身を預け続ける事となった。


「じゃあ基本的にはもう師匠たちと共にダンジョン探索をする事はないんです?」

「うむ……だが海の中などにまた突発型などのダンジョンが出来ていないかの確認も必要だからな、時折船を出して貰うついでに一緒に回る事もあるだろう」

「一太のスキルは色々便利じゃからの……儂らはすっかりそれに慣れてしまったからの、今更一太と知り合う前の生活には簡単に戻れんて」


 ハゲヤクザや鬼畜治療師を含めて、師匠たちとはずっと一緒にやってきたからちょっと寂しい感じがしたけれど、まだ一緒に探索をしたりする事はあるらしい。

 少しだけほっとしたよ。

 それに、確かに師匠には修行を含めて散々な目にあってきたんだけどさ、だけどそれでもどこか父親……いや、兄貴かな、それに似た感情を抱いていたのも事実なんだよね。だからこれからも共にいれるというのは素直に嬉しい……本人には言えないけどね、恥ずかしいし。

 それに香織さんと2人で今8016階層まで進んでいるんだけど、やはりどこか寂しいというか不安というか……それだけ師匠たちがいるという事が支えになっていたんだなって思ってる。

 香織さんに不安な顔をさせないためにも、師匠たちのように引っ張り支えにならないといけないって、強く実感させられたよ。

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