第247話ーー河童は唄う
香織さんとたった2人でのダンジョン探索。
これまで7人プラス召喚獣たちといったそれなりの人数での攻略であったのに、一気に減った事で問題が多々発生するかと思っていた……
精神的な支えとなってくれていた師匠たちがいない事は確かに俺たちに不安を与えた、与えたのだが俺は気付いてしまったのだ。
これまでは師匠たちバトルジャンキーな人たちが率先してモンスターへと襲いかかっていたから、それを邪魔するのも悪いかと遠慮していた面もあったのだが、これからは命大事に不安なく行く方針となったわけだ。
つまり何が言いたいかと言うと、地上に残してきた分身以外の分身全てを先行させて行けばいいわけだ。
これまでも確かに分身を先行させたりはしていたが、これほどの数を利用する事はなかったのだが……いやぁーなんて楽チンな攻略だろうか。
階層が階層だけに、時折分身が数十単位で消えてなくなる事も多々あるのだが、それでも全く問題なく進めている。
これまでの死闘がバカらしくなる程に順調で、コロシアムに定期的に観戦しに行く事がなくなってから2人で潜り始めて、まだ2ヶ月しか経っていないというのに、既に8200階層にまで進んでいるんだから。
ま、まぁちょっとした罪悪感がない事もないんだけどね。
それとこの作戦は師匠たちには言っていない……なんか怒られそうな予感がして。
あと師匠たちといっしょに潜っていた時と大きく違う事はもう1つある。
それは隠し部屋を発見しても挑まない事だ。
これまでは見つけたら直ぐに入りたがったからね……じいちゃんが。でもたった2人だし、もし遥か下の階層のモンスターがうようよといたりしたらかなり危険だからね、一切無視して進んでいる。
ただ分身先行で進むのにはもう1つ利点がある。それは階層全体に広がって面で進んでいるために、宝箱をより多く発見出来ている事だ。ただ出てくるのはエリクサーやアムリタ、蘇生薬が多いのでそこまで目新しくもないし、スキルの書が出てきても俺にも香織さんにも使えない物ばかりなのでなんの役にもたってないんだけどね。
師匠たちは先日の宣言通り、基本的には地上にいる。
ただ本当に次元世界の利便性の良さに慣れてしまったんだろうね……何だかんだ理由をつけて、だいたい2週間に1回は呼び戻されて次元世界に来たがるんだよね。
「ここに私のコレクションの全てがあるからね、時には囲まれて癒されたいのさ」
これは鬼畜治療師の言葉だ。
自分の所有しているほとんどの宝石が屋敷内の個室に収められているからね。
水晶ハウスの中で召喚獣たちと過ごしたり、宝石を産み出す水晶の小鳥とも戯れたいらしい。
どうやら自宅に保管してあったほとんどの宝石を持ち込んだらしいんだ。それはまぁ本人の勝手だからいいんだけどさ、それを召喚獣たちに自慢するもんだから、「主様買ってください」とか煩いから勘弁して欲しいよ。
「夜がな……もう跡継ぎも出来た事だしいいと思うのだが……いや、今のは忘れろ。ここに来たいのは鍛錬をする為だ」
やはり未だ種馬状態は続いている模様。
縋るような目で言われたら断れないよね……
逃げる事への償いなのか、それともご機嫌取りなのかはわからないけれど、毎回8000階層の宝石屋で奥様たちへの貢物を購入しているその背中は、憧れた強く大きな背ではなくて、くたびれたサラリーマンのような哀愁がどこか漂っているんだけど……一全の幹部以下師匠に憧れたり慕う人たちには絶対に見せられない姿だよね、下手すると謀反でも起きるんじゃないかと思っちゃうよ。
ハゲヤクザは「ここに新たな人間を連れ込むのは不味いよな」とか呟いていたんだよね……しかもそれはどうやら既存の奥様たちではなく新たにどこかでゲットしてきた女性のようで、家庭不和の要因となりそうなので隠す事を考えたみたいだ。
……もちろんそんな羨ま……不埒な事は許しませんよ!せいぜい奥様方にバレて大変な目に合えばいいと思います!!
あとじいちゃんとばあちゃんなんだけどさ、こちらは師匠の子供のうちの一人と、自分たちが若返って子供を作って娶らせるという恐るべき計画だけではなく……
「一太と香織や、何人ほど子供を作るつもりだ?」
ってこちらが赤面するような事を言ってきたと思ったら、どうやらもし俺と香織さんが結婚して子供を作ったら、そこにも送り込むというような計画を企んでいる様子なんだよね。
全くどうかしてるよ!!
ってな事で、探索は人が大いに減りはしたけれども、次元世界ではかなりの頻度で今までと同じ状況に包まれている。
それにしても結婚か……
もちろん香織さんとしたいとは思うんだけどさ、いつするかって話だよね。
あとその前にプロポーズもしなきゃダメなんだけど、改めて考えると結構恥ずかしいというかなんというか……まぁ今更何をって話でもあるんだろうけど。
ただそうだな、目安を決めたいところだ。〇歳になったらとかね。
うーん、やはり最終階層到着後かな。それが1番わかりやすいかな。
よし、このダンジョンを踏破した暁にプロポーズしよう!!
そのためにも安全策をとりながら慎重に、それでいて迅速に攻略を一気に進めていかないと!!
分身たち頑張れっ!!
前方でドカンドカンと魔法を行使した事による爆発音を聴きながら、まるで散歩のように魔晶石やドロップを拾いながら階層を進む。
どうやらモンスターは8000階層以降はドラゴンと呼ばれる種の物が多いようだ。強靭な鱗のついた皮や、人1人分はあるような鋭い爪や牙が多く落ちている……実物は遠目から見てるだけだから、どんな攻撃をしたりするかはわからないんだけどね。
そんな感じで時折師匠たちの送迎を行いながら進む事1年、8600階層まで来れた。
未だ俺と香織さんが自ら動く事はない……あるとしてもボス部屋の扉を開ける事くらいかな。
そして久しぶりに地上でゆっくりと過ごす事にしたんだけど……
そこで俺はビックリする物を見てしまった。
ついに迅雷は歌ったり踊ったりするようになってたんだよね。たまたまテレビをつけてみたら、いつもの装備を身につけたまま、輝くステージの上で舞い歌ってた……うん、ドン引きしました。
もちろん師匠たち各流派の意向が反映されているんだろうけれど、一体彼等はどこに進もうとしているのか……
どうやらこうなった背景には俺と香織さんが大きく関係しているらしい。
それというのも、中国で彼らをボコボコにした時にそれを見ていた中国人や自衛隊員から、「もしかしてあいつら大して強くないんじゃね?」って疑惑が持ち上がったらしいんだよね。その疑惑の声は最初は小さかったものの、どんどんそれは拡がり……中国での一件だけではなく、日本国内での彼らの行動とそれに付随している他の人間……つまり俺たちの行動とを照らし合わせて考え推理する人間が出てきたらしい。更には迅雷の活躍を妬む者の中には真実を知る協会職員なども少なからずいたらしく、彼らは単なるパフォーマーであるとの話が瞬く間に拡散されてしまったらしい。
各流派や協会幹部がその火消しに尽力した事や、中国で避難民たちのために活躍していた事も歴然とした事実、そして誰かが先導していたとしても確かに300階層へは到達したのも事実という事で、あくまでも疑惑という範囲に収まったらしい。
ただ1度火の着いた疑惑はくすぶり続けるのも世の常。
そこでいっそうのこと、ダンジョン探索も出来るアイドルのように扱う事にしたらしい……次世代のカモフラージュ用パーティーも育って来ている事も関係して。
歯をキラリとさせて、各流派の最新の武器防具を纏い踊り歌う姿は滑稽にしか見えないんだけど、元々の人気と相まって世界中でかなりの人気を博しているらしい。
『君を守るために〜♪』とか『君の笑顔を見ていられるなら僕は無敵さ♪』とかそんな歌詞なんだけど、誰が書いたと思う?
まさかのハゲヤクザの作詞作曲だったよ。
何その無駄な才能……
ってか、人を何人も殺していそうな凶悪な顔をしておいて、よく恥ずかしげもなくそんな歌詞書けるよね。その話を聞いた時には思わず呆然としてしまったよ……しばらくしてから大爆笑しちゃったけれど。
本人も笑われるとわかっているのか、地上に戻って来てから会ってない。
こんなにハゲヤクザに会いたいと思ったのは初めてだよ!!
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