第245話ーー尊敬します
突発型ダンジョン踏破から2週間、まだ中国から戻っていない。
ついでに近辺のダンジョンからモンスターが溢れ出す事のないようにと各ダンジョンを手分けして周っているからだ。
この辺りは大体が深くても100階層程度なので問題なくどんどんと踏破し続ける事が出来ている。ただついでに食用可能な野菜類や肉類を持ち帰るのが面倒くさい……1つ踏破後にわざわざそれ用の保管所へと持って行かないといけないからね。まさかここで俺の時空間庫を見せるわけにもいかないし。
迅雷の面々なんだけど……
大人しくなったのはあの時から1週間程度だけだった。
本人たちが言っていた中国人たちから多大な感謝を受けているというのは事実だったようで、近くの避難所に顔を見せた瞬間に囲まれて、3ヶ月ほど顔を見せなかった事への不安などを口々に言われていた。そしてその声や態度に自信などを取り戻したらしい。
「あの人たちは……見かけない人だけれど誰ですか?」
「あ〜なんていうか……」
「もしかして弟子とかですか?」
「まぁそんな感じかな」
こちらに来ているのは迅雷に比べると比較的中高年が多いためか、俺と香織さんの姿を見た現地の人の問に、あろう事か大きく頷くばかりか俺たちを見てドヤ顔をしやがった。
誰がお前たちの弟子なんだよっ!!
俺たちの心に怒りの火が着くのは当然だよね?
では久しぶりにお手合せをお願いできないかという事で、ちょっとボコボコにしておいた……香織さんと一緒に。
もちろん腕や脚を切り落とすまではしないし、死にかけまでは追い込まない程度にね。ただどちらが上なのかハッキリとさせるために、こちらは無手であちらはフル装備な上に12人全員でスキルありという状態でだけど。
ちょっとスッキリしました。
本当の師匠たちからは怒られた……自分たちばっかりスッキリしてズルい!!
どうやら怒ったのは、俺たちがストレス解……もとい手合わせでうっかりボコボコにしてしまった事じゃないらしい。
「こんな部外者である現地人や自衛隊員の目の前でやるなと言うのだ」
一応その辺は気にしてダンジョンへと連れ込んだんだけど、どうやら野菜やら肉やらを収穫している人たちの目に入ってしまったらしいのだ。
「ふむ……もうこの際いっその事お前たち2人が正真正銘の日本が誇るTOPパーティーだと明かしてしまうか?今ならもうもしその身を狙われても弾くどころか報復も可能であるしな」
「「んなっ!!」」
まさかの提案だ。
迅雷たちをチラ見しながら語り出したから何かと思ったら、まさか真実を明かすという提案がくるなんて。
迅雷もそんな話が出てくるとは思っていなかったようで、驚きの声を上げつつ縋るような目を俺たちへと向けて来た……よほど今の地位というかメディアなどにチヤホヤされる立場が惜しいらしい。
確かに言われてみれば、自分で言うのもなんだが現時点において俺と香織さんは日本の最高戦力となるだろうから、他国からの干渉を跳ね除ける事が出来るだろう。
だけどそれを明かせば同時にやってくるのは、メディアなどの前に出ての対応となる。俺たちというか俺が迅雷のように歯をキラキラさせて芝居じみた対応をしたり、語ったり出来るかと問われれば、絶対無理と自信を持って言える。
それに香織さんを衆人の前に出す事になると、大量のファンが湧く事は確実で、厄介な事になるだろうとの予感がするんだよね。芸能界のイケメン男性から口説かれたりもするだろうし……うん、却下だな。
俺の考えを話しつつ香織さんと相談してみると、どうやら俺と同じ考えらしい。それに学生時代の告白管理委員会などの件で疲れてしまっているとの事だ。
そうそう、その告白管理委員会だけど現在どうなっているかと言うと、ただでさえ高校卒業後にダンジョンへと通う日々が続いている事で、告白する場所や時間を提供する事が僅かになっていたところに、委員会を仕切っていた金山さん姉妹が行方不明となった事で、有耶無耶になってたち消えたらしい。
という事で師匠たちに断ると、どうやら予想通りだったらしくて「そうか」と短い返事があるだけだった。
ただ迅雷たちが密かに喜びの表情を浮かべていたのにイラッとしたけれど。
ただまぁこうやって改めて冷静に考えてみると、彼らはある意味スゴいとは思えるよね。自分たち以外の成果を、まるで自分たちだけで成し遂げたかのように平気で語れるっていうのはさ……普通あそこまで他人の褌で相撲を取るなんて出来ないと思うし。
そういった面では尊敬?……まぁ尊敬というか感心出来る一面だと思う。
まぁそんな感じで約2週間ほど中国で過ごした後に、また定期便に紛れて名古屋へと戻る事となった。
そしてまた師匠は種馬な日々、じいちゃんとばあちゃんは鎌倉へ、ハゲヤクザと鬼畜治療師も自宅へと戻って行った。
俺は久しぶりの地上という事で、近衛班宅への出張召喚獣サービスも行っている。最近は地上に戻っても直ぐにダンジョンへと行ってしまうために中止していたんだけど、触れ合いたいとの要望が多くあったらしくて、近衛班の組長さん直々にお願いされちゃったんだよね。
それ以外の時間はほとんど香織さんとのデートへと充てられた……まぁ正確に言うとうどんたち召喚獣組も一緒なんだけど。
ではデートにどこに行くかとなるんだけど、基本的に香織さん主導の場所へとなる。そしてそれは服屋やスイーツ店巡りなったりする。
よく聞くけれど、どうしてこうも女性の服屋での買い物は長いんだろうね。いや、それでも最初のうちは付き合ってそれぞれのファッションショー擬きの試着室での披露に応えていたけれど、それが1軒で終わらず何軒もとなるとね……最後の方はほとんど近くの喫茶店で毎回過ごし待つ事になったよ。
ただ思う事は、今流行りの服を買っても大して着る事もない内にまたダンジョンへと潜る事になり、そして出てくる頃には季節が変わっていたり、流行りも過去の物となる可能性が高いのに、山ほど購入してどうする気なのだろうか。まぁ言わないけど。
中国から戻って1ヶ月、新たな事件が起こる事もなく再度ダンジョンへと突入する予定日を迎えた。
ただそこで思わぬ事が起きた。
それは鬼畜治療師とばあちゃん、そしてハゲヤクザが8000階層でのコロシアム挑戦を諦め地上へと残ると言い出した事だ。
どうやら俺と香織さんが知らないだけで、既に師匠やじいちゃんには話が通っていたらしい。この2ヶ月の間家庭に戻って真剣に考えた結果との事で、地上に残り後進を育てたり、俺たちが戻って来なくてもいいように突発型ダンジョンへと対応をするとの話だった。ばあちゃんは師匠の子供……つまりばあちゃんから見て
正直なところ鬼畜治療師が地上に残る事は予想していたけれど、まさかばあちゃんとハゲヤクザまでが残ると言い出すとは思わなかった。
少しハゲヤクザに直接聞いてみたところ、本人も本当は挑戦したい気持ちはあるけれど、現時点では己がコロシアムで勝つ事を想像する事さえ出来ないと悔しそうに語っていた。
そして許されるならばアムリタを飲んで20代まで若返って修行をし直したいとも思っているが、しばらくは今のままで地上にて修行をしつつ、もう一度自分自身を見つめ直したいとの事らしい。
これまでずっと一緒に戦ってきた仲間としては寂しい思いもあるけれど、本人たちが自ら決めた事なのでそれを覆す事は出来ないので、師匠とじいちゃん、そして俺と香織さんと召喚獣たちのみでまた8000階層へと跳ぶ事となった。
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