第244話ーー君たちに感謝!!君たちは最高です!!

 現在久しぶりに中国へと来ている。

 突発型ダンジョンの為だ。

 なんでわざわざ俺たちが来ているかというと、8000階層から戻ってくる2ヶ月ほど前に出来たらしいんだけど、それがちょうど良くも悪くも迅雷たちパーティーが活動している近くだったために彼らはそのまま潜って……3ヶ月ほど帰還しておらず、各流派から数パーティーが様子見に入ったがそれも連絡が途絶えたままだという事で、ちょうど俺たちが地上にいるという事で要請が入ったってわけ。


 まだ各メディアにはバレていないらしいけれど、今や超有名な広告塔のためにいつどこかが嗅ぎつけて騒ぎ出すかもしれないので、定期的な物資便と共に行われる人員交代に見せかけてこっそりと突入という事になった。


 到着後すぐに入ってみると、そこは見渡す限りの砂漠だった。

 例の如く最近あまり出番のない大鷲に乗って探索すると、入口から東に向かって50kmほどのところに建造されたばかりと見間違うような……つまり現在見受けられるような劣化した石ではなく日光を反射するほどに輝く表面のピラミッドと、今にも動き出しそうな人面獅子スフィンクスを見つけた。

 見つけたのはピラミッドとスフィンクスだけではない、捜索に突入した各流派のパーティー合計5組も発見する事が出来た。


 これまで踏破してきた突発型ダンジョンは、基本的に入口から見て北にボスがいたりする事が多いんだけど、ここはどうやらイレギュラーのようだ。

 更に、砂漠は昼夜の寒暖差が大変だと聞くが、ここはあくまでもダンジョンの中という事だろう延々と日光が照り付けているために酷く暑い。

 そして当然ダンジョンだからモンスターも出るために、各流派パーティーは怪我や脱水症状などに苦しんでいたようだ。

 だけどいくら隅から隅までフィールドを探しても迅雷の面々を捜し出す事は出来なかった。


「全滅している可能性の方が高いが、もしかしたらピラミッドへと辿り着いているかもしれん……まぁどちらにしても我らはピラミッド内部へと突入するぞ」


 師匠も全滅と考えているようだ。

 いくら彼らがステータスに『新人』と表示させるために自主的にダンジョンに篭って鍛えたといっても、さすがにこの環境で3ヶ月はキツいだろう。しかもボスの位置がイレギュラーだし。


 延々と広がる砂漠には全長5mほどの黒光りするサソリや、同じ大きさのコブラに似たヘビがウヨウヨしており、砂にまみれて地下から襲ってくるらしいんだけれど、その辺はサクッと大鷲でスルー。

 いくつかのパーティーを助け出した際に戦闘する事があったけれど、最近相対している8000階層近辺のモンスターに比べたら可愛いものなので修行にもならないし。


 ピラミッド前に辿り着いた者を睨みつけるように座るスフィンクスが動きだすのかと思ったけれど、どうやらそうでもないようでそのまま石門へと突入する事が出来た。

 本物のエジプトにあるピラミッドとは違い、中は幅3mほどの通路出来た迷路になっていた……

 出てくるのは思わず「ベタですね」と呟いてしまった古ぼけた包帯を全身に巻いたミイラや、コウモリだった。あと踏むと矢が出てきたり落とし穴が開く罠なんてものも。

 分身を先行させながらサクサクサクサク進んで行くと階段が見つかった……上下への。

 うどん情報によると、まず上に行ってボスを倒した後に地下へと行ってボスを倒さないと、いつまで経っても終わらないらしい。


『ピラミッドは本当に人力で作られたのか?そして本当に墓なのか?そこには恐るべき秘密が!!』

 なーんて、どっかのテレビ番組で放送されているような話をしながら2階ほど登った迷路の途中だった、か細いがどこかで聞いた事があるような声が聞こえて来たのは。

 声を頼りに探してみると迷路の行き止まりに、ちょうど人1人入れるような穴がぽっかりと開いていたので分身に覗き込ませて見ると、そこには迅雷の面々が窶れた顔で情けない声で助けを求めていた。


 中は壺型になっていて、穴の大きさに比べてかなり広いようだ。

 分身を通じて彼らに聞き取りを行うと、どうやら長い時間この辺りに居ると近辺の床が大きく開くらしい……そして落ちたと。ただ壺の中は特に他に仕掛けなどはないようなので、飲食料不足を除けば大したダメージは無さそうだ。


 話から他の場所も同じように居続けると穴が開く可能性が考えられるので、俺たちはウロウロしながら分身たちにロープを渡して引き揚げる事になった。

 1人づつ確実に引き揚げる事3時間、その後俺が付き添ってピラミッドを脱出して、更に大鷲で2往復して全員をダンジョン入口まで連れ出したんだけど……

 命が助かった事に安堵したのか、やれ大鷲の乗り心地がどうだとか、やれ他の召喚獣が見たいだとか言い出すし、こちらが面倒で聞き流していたら今度は自分たちがいかに中国で活躍して感謝されているかをベラベラと無駄に喋りだしたのは参った……何度砂漠に放り出してやろうかと思った事か。こちとら転移を使えないから炎天下の中大鷲に乗り続けているっていうのにさ。

 後で師匠たちにその事らを愚痴ったら、どうやら中国国内は元より世界中で彼らの行動へ賞賛されている事から調子に乗っているんだろうって話だった。あと助け出されたという事に恥辱を覚え、そういった事実を述べる事によって己の心を保とうとしているのだろうという推測も教えて貰った。

 人間の心は難しいね……

 ただまぁ……俺の心象は悪いままだけど。だって師匠たちには礼や謝罪はあったけれど、俺や香織さんには一切なかったし。捜索に突入して遭難していた各流派パーティーの人たちは過剰なほどに礼があっただけにね。

 正直なところ、喋れないほど衰弱してたら良かったのにとも思ってたりする。


 さてピラミッドの方のボスの話だけど、俺は見ていない。戻って来たらちょうど上下共に終わって出てくる師匠たちと合流する形になったからだ。

 教えて貰った話によると、上は玉座に座る王らしきモンスターと、その周りに10人ほどの褐色の薄着の美女軍団だったらしい……ハゲヤクザが鼻の下を伸ばして俺にニヤニヤしながら言ってきやがった。

 見てみたかったけど、香織さんの目が怖かったので気にならないような顔をして「へー」と言うに留めたけれど。

 下のボスは鳥頭の神様を象ったようなモンスターだったらしい。

 ただどちらも一切苦労する事もなく、サクッと終わったらしい。

 ドロップは上階は美女たちが着飾っていた宝石類と、黄金で出来たツタンカーメンの面。下層では木の杖と少しばかりの宝石類だったようだ。


 ピラミッドから出て少し歩き出したら、スフィンクスが石から生物に変わり襲って来たけれど、それもじいちゃんの一撃によって首を切り落とされて終わっちゃったから、俺にはスフィンクスって奇妙というか気持ち悪いって印象しか残っていない。


 ダンジョンから出ると、助け出した各流派パーティーの面々が俺たちのためにと大量の食事の用意などをしてくれて待っていたんだけど……迅雷の一同はなぜかその準備を手伝うわけでもなく当たり前のように席の真ん中に横柄な態度で座って居た。


「お疲れ様です。それでボスってどんなタイプでしたか?あとドロップは」


 ナル森がこちらに寄ってきて、当たり前のように手を出しながら言ってきた。

 これまで突発型ダンジョンでは、確かに特徴などを纏めた紙を用意していたからなのかもしれないけれどさ……

 それってどうなの?

 よく平気な顔でそんな事を言えるよね。周りに居るのは全員お前たちのせいでここにいるっていうのにさ。特に各流派パーティーの人たちなんて、死者こそ出ていないものの重傷者も少なくない人数出ているのに。


 あまりにもな態度にイラッとしたのは俺だけじゃなかったらしい……

 師匠たちから吹き上がる殺気、そしてそのまま師匠たちに外へと連れ出されて行われる教育という名の暴力。その光景はそりゃあ酷いものだった……手とか足が切り落とされるのは当たり前、死の1歩直前にまで追い詰めては回復させてまた殴るの繰り返し。

 さすがに各流派の人たちもイラついていたんだろう、冷たい目で見ているだけで誰も止める事などなかった。

 そして全員が顔をぐしゃぐしゃに歪めて必死に命乞いをしながら泣き、地面は股から染み出した物と血溜りが出来るという始末だったけれど、それで終わるはずがない。最終的に迅雷以外でこのダンジョンに関わった全ての人に土下座謝罪をさせられて終わる事になった。


 結局今回の中国での突発型ダンジョンでは、俺はほとんどの時間を大鷲に乗って過ごしていただけだった……

 当分空飛ぶのはいいや、なんか疲れたよ。


 えっ?

 スッキリした?

 どうやら師匠たちは8000階層コロシアムで勝てない事によるストレスをかなり発散出来たらしい……迅雷一同を嬲る事で。


 良かったです!

 そのフラストレーションやストレスが、俺との手合わせに出てくる前で!

 迅雷ありがとう!!

 君たちは最高です!!

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