第235話ーー同罪なんですか!?
師匠と奥さんが深海の新婚旅行から帰って来たのは2ヶ月後だった。
飯がどうのとか言っておいて、よく2ヶ月も帰ってこなかったよねって話ですよ。
で、じゃあ2ヶ月間ずっと世界中の深海旅行をしていたのかっていうとそうじゃない。途中分身を通じて報告があったんだけど、2ヶ月の内の半分……つまり1ヶ月は宇宙旅行に出かけていたんだよね。
あれだけじいちゃんとばあちゃんが望んでいた宇宙旅行を、2人だけで相談もなく行って来たんだから問題になった。じいちゃんたちが知ったのは、2人のお土産である月の石やら写真やらでだ。
「深海旅行をしていたら宇宙に興味が湧いてしまってな……どこか似ているだろう?」
なんて言い訳をしていたけれど、最初から……いや、だいぶ前からそのつもりだったと思うんだよね。だって宇宙服何て物は元々搭載されていたわけでもなく、明らかに自分で手配して手に入れた物っぽいからね、胸元にJAXAのマークがしっかりとあったし。
まぁ俺としては師匠が何だかんだ幸せそうな雰囲気を纏っているし、宇宙旅行の件もじいちゃんたちを揶揄っている感があるからいいと思うんだ。
まぁ俺自身が幸せだからってのが、師匠の勝手な行動を許せるわけでもあるんだけどさ。
師匠とじいちゃんの玄孫である奥さんが2人っきりで過ごすのは1年間だけらしい。1年後にはハゲヤクザの娘さんとの婚姻が待っているからだ。
で、ただでさえ師匠の結婚が遅くなっていた事もあり……という事で、まぁぶっちゃけちゃうと跡取りを作るのは至急の命題らしくて当面の間は7000階層以降を積極的に探索する事は中止らしい。
あれだよね、子作りを強制されるとか……めちゃくちゃ大変そうだ。心做しか師匠に会う度に窶れていっている気がしないでもないし。奥さんは逆に艶が増して色っぽくなっている感じなんだよね……いや、なんでもない、師匠には是非頑張って欲しいところだ。
師匠だけ置いて7000階層以降に行けばいいだろうって思うと思うんだけどさ、そこはやはりバトルジャンキーというか……ね?自分を除いたメンバーでの新しい階層更新は嫌らしい。
ただ何に因るものかは知らないし聞かないれど、ストレス発散代わりに時々1週間単位での探索には行くんだけどね。
そんな感じで日々を過ごして居たわけなんだけど、全く問題が起きなかった訳ではない。
例のダンジョン教の接触が激しくなってきたんだよね……
俺としてはてっきりアメリカと絡んでいて、エリア51が陥落したり、政府主要施設や軍事企業に大きな警告を与えた事から、身を引いてくれるもんだと思っていたんだけど、どうやら関係はなかったらしい……
まぁさ、こんな世の中……中国や北朝鮮韓国が滅びたり、アメリカに謎の大打撃があったりとする時代だ、宗教とか神に救いを求めるのはわからないでもない。
だけど他人に迷惑を掛けないで欲しいよね。
あと、どこまで一連の事件の真実を掴んでいるのかが怖くもあるんだけどね。
ただやっと香織さんと2人っきりで、堂々と楽しく色んなところにデート出来るようになったというのに、行く所行く所で勧誘してきやがって……全く忌々しいとしか思えないんだけどさ。
そしてその香織さんとの仲だけど、確かにお付き合いする事になり、デートも何度も出掛けたし、手を繋いだりは当たり前にするようにはなったんだけど……それ以上には一切発展していない。
「布っていうかナイロン?ゴム?……まぁそんな感じのビラビラ、アレを潜って駐車場へと入ってパネルで部屋を選ぶらしい。で、部屋に入ったところで言われたらしいんだよ、彼女に」
「言われた?」
「何を?」
「「私色々比べちゃうかも」って言われたらしい」
「な……何を比べるんだよ」
「わからん、わからんがその先輩はそこで心がポッキリと折れてしまったらしく、それ以降の事というか家に帰るまでの記憶が無いみたいだ」
また伊賀に来ている、
そして今はアマが先輩から聞いた怖い話を聞かされている。
本当に恐ろしく怖い話だった……何その「私色々比べちゃうかも」って怖すぎるんですけど!!
何と何を比べられるの?
「そ、その先輩は今はどうしてるんだ?」
「その一言がトラウマとなってしまい、自信が持てずにそれからずっと独りでいるみたい」
「「ヒッ」」
そりゃあトラウマにはなるよね……そんな事言われたら、実際に比べて何かを指摘されなくてもさ。
「でだ。如月さんはあれだけモテまくっていたわけだ……つまり経験豊富と考えられるわけでもある」
「確かに!そして色々比べられちゃうわけか……」
「香織さんはそういう事を言う人じゃないし……」
「それはわからんぞ」
「だなっ」
えっ!?
そういう話になるの!?
い、いや……香織さんは彼氏いた事はないって言ってたし、そんな事を言っちゃうような人じゃないはずだ……うん。
そもそも今回3人で会ったのは、俺に香織さんという超絶美少女な彼女が出来た事の自慢をするためだったはずなのに、いつの間にこんな話になったんだっけ?
「強く生きろよ」
「俺たちは伊賀の地から応援してる」
「ど、どうしたらいいと!?」
「違う先輩に聞いたところ、岐阜の金津園は高級な所が揃っているらしいんだけど、高級なだけあって色々最高らしいぞ」
確かに今なら金もそれなりにあるし、そして名高い金津園の綺麗なお姉さまたちにお世話になるのも1つの手かもしれないな。比べられちゃう前に、比べられても大丈夫なようにしておくのは必要かもだし。
「行こうぜっ!」
「この雑誌に色々載っているんだけどさ、このお店とかどう?素敵なお姉さまが揃っているみたいなんだ」
「いや、こっちのお姉さまの方がいいって!キムの選ぶ店は全部年上過ぎるって!」
んんっ?
キムよ、どこからその情報誌を出した?
そしてアマよ、お前もだ。
当たり前のように自分の魔法袋から同じ情報誌を出したよね?
そして2人ともなんで付箋が貼ってあるの!?
こいつら……もしかして散々ここまで怖い話をしたのは、金津園に行く道連れを作るつもりだったからか!?
「人聞きの悪い事を言うなよ……俺たちだけが先に大人になってしまうのが可哀想だから、お前も誘っているんだぞ?」
「如月さんとの来るべき日のために、お前が恥をかかないようにとの優しさだ」
た、確かに……そうなのか?
「思い立ったら即日!これから行っちゃおうぜ」
「でもから岐阜まで行って色々素敵な時間を過ごすと……帰って来るの遅くなっちゃうよな」
「あぁ腰砕けになっているだろうし、ちゃんと帰って来れるか……」
転移目的じゃねぇか!!
コノヤロウ、便利なタクシーと勘違いしやがって!!
でも確かに魅力的な提案ではあるんだよな。こういった機会がないと行かないだろうし、それにもしかしたら本当に優しさなのかも……いや、それはないな、うん。思いっきり鼻の下伸ばして情報誌覗き込んでるし。
まぁとりあえず俺もお店選びに参加させて貰うとするか。
「失礼致します、お連れ様がお見えになりました」
3人で……いや、1人は俺たちの親と言っても過言ではないような女性しか居ない店しか見ていないから俺とアマの2人の好みがあった所を探していたら、突然食事場所の中居さんが部屋の襖の向こう側から声を掛けてきた。
「アマ、連れって誰?」
「えっ?わからん」
アマの仕込みじゃないの?
今回この食事場所を決めて予約したのはアマだから、絶対にアマの仕込みだと思ったのに。
じゃあ連れって誰だろう……なんか嫌な予感がする。
「お通ししてもよろしいでしょうか?」
「部屋間違いでは?」
「いえ、天野様、木村様、横川様がお見えになっているお部屋で間違いございません」
うん、アマだけならまだしもキムや俺の名前が出てくるって事は、俺たち3人の名前がわかるって事は間違いじゃないね。
「その連れって名前わかりますか?」
「はい、如月様と仰る方です」
なっ!?
この場所の事は言っていないのになぜ!?
仲居さんに案内されてやって来た香織さんの顔は、とてもにこやかだった……怖いほどににこやかだった、目は笑ってないんだけど。
「天野くんと木村くん、聞いていると思うけど一太くんと付き合う事になったからよろしくね」
「あっ……ヨコの事よろしくお願いします」
「お願いします」
「わざわざそんな事を言いに来たんですか?」
「愛されてるな」
うん、言葉だけを聞いていれば俺も嬉しい。
だけど本能がそうじゃないと、危険だと叫んでいるんだよね。
「ところで天野くんと木村くんが手に持っている雑誌は何かな?」
うぉぉぉい!!
なんでしまってないんだよ!?
香織さんの腕がガッツリと俺の服を握っているんだけど!?絶対に逃さないって感じで!!
……知らなかったよ。
まさか俺の分身たちに、俺たちが男の子っぽい企みをしたりしていたら連絡するように命令していたなんて。
やけに出かける前に分身を自分の影に入れる事を勧めてきたと思ったら、まさかこんな事の為だなんてね。
俺の分身なのに……
なんで他人の言う事を聞いてしまうのか!?
えっ?俺の分身だからこそ香織さんの言う事を聞いたって?
「ところで2人とも、私が何かすごい事言うらしいね?」
良かった否定しておいて……
あそこでノッていたら、今頃俺はどうなっていた事やら。
えっ?結局一緒になって店を選んでいたお前も同罪?
……はい、正座させていただきます!!
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